僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 1

第10話 昼下がりの猥談

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 先日、危うくキスせんばかりの司と悠那を目撃してしまった俺は、みんなの前ではそこまで気にする素振りを見せなかったものの、実際は物凄く気になっていたりする。
 だって、どう考えたって普通じゃないじゃん。
 悠那の顔が可愛いのは事実だし、女に見えなくはないことも認める。ついついちょっかい出したくなることもあるし、どうしてだか漂うエロいフェロモンみたいなものに、男としてムラッとしなくもないことがあるのも認める。
 それでも、だ。それでも悠那はやっぱり男なわけで、男である証拠に触れたことのある俺としては、キスしたいとまでは思わないんだけど。
「で、その後どうよ。悠那とは上手くいってんの?」
 今日はオフの俺達。いつの間にかオフの日は一緒に昼飯を食うことになっている俺と司は、高校生組のいない静かな部屋で、ちょっといかがわしい話でもしようという流れだ。
「ん? うん。仲良くしてるよ?」
「どんな風に?」
「どんな風? どんな風って言われても……今まで通りって感じだけど」
「結局キスはしてないの?」
「してないしてない。あの後、キスしようとしたことは忘れようって話になったし。お互いキスしようとしない同盟も結んだから」
「なんなんだよ。その頭悪そうな同盟は」
 今日は親子丼を作ってやった。俺と司の昼飯はいつも俺が作ってやることになっている。司は料理が下手というわけじゃないし、作れと言えば作るだろうけど、基本的にはあまり台所に立つのが好きではないみたいだった。
 だから、わりと料理を作るのが好きな俺がいつも司の昼飯を作ってやっている。
 司って背は高いし格好いいけど、なんかちょっと残念なところがあるんだよな。呑気っていうか、ぼんやりしてるっていうか、ずぼらっていうか。
 あと、ちょっと馬鹿。
「俺じゃなくて悠那が言ったんだよ。キスしようとしない同盟って」
「あっそ……」
 ここの同室ペアはどっちも少しオツムが弱いらしい。もし、ここの二人がくっ付くようなことになればとんでもないバカップルになりそうだ。
 見てるだけでスゲー疲れそう。
「ま、それでお互い納得できるならいいけどさ」
 そんなもんで納得できてしまうのもどうかと思うけど。本人達が納得してるっていうなら俺が口出しすることでもない。
 ただ
「確認するけど、お前も悠那も恋愛感情みたいなものはないんだよな?」
 今後のことを考えて、そこはハッキリさせておきたい。
 俺は誰が誰を好きになろうがそれは本人達の自由だと思っているし、自分にはあり得ない話だとは思っているが、同性間の恋愛にもそこまで批判的な考えは持っていない。だから、仮に司が悠那を好きだと言い出したとしても、好きにすれば? って感じだった。
 でも、同じグループの一員として、グループ内でそういう恋愛沙汰が起こってしまうと色々面倒なことになるし、フォローも必要になってくる。そういう可能性があるのであれば、早めに対策を練っておきたいと思っただけだ。
「ないよ」
 俺の心配を一蹴するかのように、司はあっさりと答えた。
 ここまであっさり言い切られると、恋愛感情もないのに悠那にキスしようとした司が余計にわからなくなる。
 もしかしてこいつ、思いの外にクソ野郎なのか? 可愛かったらなんでもいいの? 誰でもいいのか?
「悠那は可愛いと思うけど、悠那と恋人同士になりたいかって言われたらそれはちょっと違うと思うんだよね。悠那で妄想したこともあるけど、実際にそんな流れになった場合、悠那にはちゃんと付いてるわけでしょ? それを見て勃つのかって考えるとさ……多分勃たないと思うんだよね」
「ちょっと待て。お前、今凄いカミングアウトしなかった?」
「え?」
 落ち着け……落ち着け、俺。こいつはちょっと馬鹿なんだ。自分が如何に変なことを言ってるかなんてわかってないんだ。
 えっと……なんだって? 悠那で妄想? それってつまり……。
「お前、悠那で抜いたことあんの?」
「うん。だって、あの顔が感じてるところ想像したらムラっとこない?」
「~……」
 こねーよ。っていうか、想像しねーよ。想像したことねーよ。
 っつーか、そんなこと言われたら、うっかり想像しそうになるじゃん。俺をそんな危険な道に引き摺り込もうとするのはやめてくれ。
「俺もさすがにこれはヤバいと思ったんだけど。色々考えた末、あの顔がいけないんだって結論に至ったんだよね。やっぱり可愛すぎるんだよ。悠那の顔」
「うん……そうね……」
「あとさ、悠那の表情とか仕草とかも問題だと思う。悠那って凄い溺愛されて育ったからか、ちょっと甘えっこ子なところがあるじゃん。可愛い子に甘えられると男は弱いよね。拗ねる顔も怒った顔も可愛いし。それはもう妄想だってしちゃうって話だよ」
「~……」
 何これ。惚気? 俺、惚気話聞かされてんの? こいつ、どんだけ悠那のことを可愛いと思ってんだよ。可愛いって言いすぎだろ。これで好きじゃないとか……もう意味不明。俺には理解できない。
 いっそのこと
『そんなに可愛いと思うなら好きになればいいし、付き合っちゃえばいいじゃん』
 って、こっちから提案しそうになるわ。
 大体、オカズにしてる相手とよく同じ部屋で普通に過ごせるな。その神経というか、精神にも恐れ入るわ。
「お前さぁ……そんなんでよく悠那と同じ部屋で過ごせるな。襲いたくなったりしないの?」
 呆れを通り越して尊敬すらしそうになる俺は、司がどういう顔をして悠那との時間を過ごしているのかが純粋に気になってしまう。
「襲いたくはならないかなぁ……。可愛がりたくはなるけど」
 司にとって悠那はあくまでも愛でる対象らしい。ほんと謎。
「じゃあさ、もし……もしもだぞ? 悠那に好きって言われたら? キスして欲しいとか、その先を求められるようになったらどうすんの?」
「えー?」
 こんなことを聞くと、まるで二人がくっつくことを望んでいるように思われるかもしれないけど、そういうわけでは断じてない。俺はあくまで司の謎めいた思考を理解しようとしているだけだ。
「悠那がそんなこと言ってくるとは思えないけど、想像するとヤバいかも。あの顔に“キスして”って言われるんでしょ? 多分する」
 ああ……こいつ思った以上にクソだ。クソ野郎だ。幻滅。
「その先は……うーん…………」
「そこはちゃんと悩むんだ」
 そりゃまあ、実際キスしようとしていたわけだから「キスして」って言われりゃするだろうな。迷いなく。
「いや……できなくもないような気もするけど……。でもなぁ……まな板だし付いてるんだよね?」
「そりゃまな板だし付いてるよ」
「悠那の裸を見たことないからあれなんだけど、悠那にアレが付いてるところ見ちゃうと幻滅するっていうか……萎える?」
「お前、ほんとに悠那をなんだと思ってんの? 妖精とかじゃないからな? 都合よくあるものが見えないとか、ぼかしが入る設定なんかになってないからな?」
 共同生活も半年以上経っているというのに。どうしてそこまで悠那の性別を疑うんだよ。いい加減現実見ろって。
「そんな風に思ってるわけじゃないんだけど。どう考えても俺と同じ人種には見えないんだよね」
 いっそのこと一緒に風呂にでも入ってしまえ。一緒に入って幻滅してこい。今度無理矢理入れちまおうかな。
「だったら、悠那にもし彼女ができたら?」
 ちょっと質問の方向を変えてみる。
「えー? それはまあ……良かったねって思うよ。違和感はあるだろうけど」
「ふーん……」
 悠那が誰かと付き合うのは構わないと思っているらしい。
 ってことは、ほんとに悠那に対する恋愛感情はないってことか。つまり、グループ内恋愛には発展しないと……そう思っていいってことだな?
「あ、そうだ。そんなことより陽平。女の子って何貰ったら喜ぶと思う?」
 ひとまず安心していいのかと思いきや。今度は司から予想外の質問をされてギョッとなる。
 そんなことより? そんなことよりって言うような話はしていなかったつもりなんだけど。で、なんでそんな質問? 女の子に何かプレゼントする予定でもあんの?
 グループ内恋愛も問題だけど、デビュー早々熱愛報道とかはもっとやめて欲しいんだけど。
「え……なんで? 誰かにプレゼントでもあげんの?」
「ありすさん」
「……………………」
 待て……待て待て待て待て。なんでそうなるの? こいつ、番組共演者の橋本ありすにはなんの興味もなさそうな顔してたじゃん。それがどうしてプレゼントをあげるってなんの? もうわけがわかんない。
「お前……どういうつもりだ……」
「え?」
 悠那にキスしようとするわ、ありすにプレゼントするとか言うわ……。俺もさすがに腹が立ってくる。堪忍袋の緒も切れるってもんだろ。
 身近で手軽な相手に片っ端から手を出していくスタイルなのか? いくらなんでも節操が無さ過ぎるだろ。
「あ……違う違うっ! 特に意味はないんだよ? 今月ありすさんの誕生日だから、明日の番組収録の時に何かサプライズしようってなっただけだからっ!」
 俺が怒りに肩を震わせていると、その理由を察した司は慌てて俺の誤解を解こうとした。
「あ……そうなんだ」
 司が個人的な理由でプレゼントをしようと思ったわけじゃないと知り、俺の怒りは秒で収まった。
 なんだ。誕生日か。それなら仕方ない。共演者への心配りは大事だもんな。
「そんなもん、番組で紹介したものの中で彼女の反応が良かったものにすりゃいいんじゃねーの?」
 しかしながら、女の子へのプレゼントは何がいいのかなんて俺にもよくわからない。人には好みってものがあるからな。よく知りもしないありすへの誕生日プレゼントに何をあげたら喜ぶかなんて、俺にわかるわけもない。
「でも、番組で扱ったものなんかあげたら手抜きみたいな感じしない? 流行ってるからいいだろ、みたいな」
「そういうところは気を遣うんだな」
「そりゃまあ先輩だし。お世話にもなってるわけだから」
「その姿勢は正しい」
 男としてどうよ。と、最近は疑問に思う場面もチラホラあったが、人としてはちゃんとしているようで安心した。
 そういうことなら俺も一緒に考えてやろうじゃないか。
 二人でスマホの画面を眺めながら
「これは? 美顔器とかいいんじゃね?」
「美顔器なんか持ってるんじゃない?」
「そっか。それもそうだな。じゃあ入浴剤は? 消耗品だからあっても困らないし。見た目が可愛くて匂いが良かったら、とりあえず喜んでもらえそうじゃん」
「確かに。いいね。入浴剤」
 とまあ、人気アイドル橋本ありすへの誕生日プレゼントの候補を挙げていった。
 しかし、ありすの誕生日プレゼントもいいけど……。
「今月は悠那の誕生日もあるけど。お前、悠那の誕生日プレゼントは買ってんの?」
「あ……」
 今日は5月12日。悠那の誕生日は明日だった。


                    
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