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第一章 綻び
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しおりを挟む「兄ちゃん。俺、先風呂入ってもいい?」
兄ちゃんと一緒に家に帰り、兄ちゃんと一緒に夕飯を食べた後は、自分の部屋に籠り、今日出された宿題やら、テスト勉強に勤しんでいた俺。
やっぱ自分の兄ちゃんが先生をしている学校だから、弟の俺がちゃんとしないわけにはいかないよな。
俺に何か問題があると、教師としての兄ちゃんの立場が悪くなっちゃうから、優等生とまではいかなくとも、学校での立ち振る舞いには気を付けなくちゃいけないし、提出物や宿題の期限もしっかり守らないと。
でも、正直今日は全然勉強に集中できなかった。
理由は単純明快で、偶然放課後に見てしまったあの光景が頭から離れなかったからだ。
兄ちゃんと一緒にいる時は忘れることができたけど、いざ一人になると蘇ってくる記憶。
鵜飼先生に唇を指でなぞられ、遠山先生から耳元で囁かれた時の兄ちゃんの反応は物凄く色っぽくてエッチだった。
それはもう
『兄ちゃんの格好いい要素どこ行った?』
って言いたくなるくらい、可愛い兄ちゃんの姿でもあった。
あんな兄ちゃんの姿を見たら、性別とか関係なく兄ちゃんを好きになってしまう人間が現れてもおかしくない。
でも、兄ちゃんはあれを「遊ばれている」としか思っていないみたいだし、俺も兄ちゃんのそんな姿を思い出してムラムラしてしまう自分に罪悪感があったから、今日の勉強はほどほどにしてしまうと、さっさと風呂に入って寝ることにした。
風呂はいつも兄ちゃんが俺に一番風呂を譲ってくれるんだけど、俺はいつも兄ちゃんに「先入ってもいい?」って聞くことにしている。
だって、いつも俺ばっかり先に入るのも申し訳ないじゃん。たまには兄ちゃんが先に入ってもいいのに。
だけど、兄ちゃんの返事はいつも
「おー。俺はまだちょっとやることがあるから先入りな。さっさと風呂入って寝ちまえ」
だった。
ほんと、どこまでも弟に尽くしてくれる兄ちゃんだよな。
「じゃあ先入るけど、兄ちゃんもあんま夜更かしすんなよ?」
「わかってるって。用が済んだらすぐ寝る」
兄ちゃんはいつも俺より遅くに寝て、俺より早く起きる。
我が家はわりと早寝ではあるんだけど、時々
(兄ちゃんはちゃんと睡眠時間足りてるのかな?)
って心配になることがある。
平日は無理でも、休日にはちょっとくらい朝寝坊してくれてもいいんだけどな。
でも、兄ちゃんは平日だろうと休日だろうと、いつも俺より先に起きている。俺より早起きして、俺のために朝御飯を作ってくれている。
そういうところは本当に頭が上がらないし、兄ちゃんにはいくら感謝しても足りないくらいだ。
「はぁぁぁぁ~……」
丁度いい湯加減の風呂に肩まで浸かると、自然と大きな溜息が出ちゃうのってなんなんだろうな。
今日一日の疲れが癒されていく感じがして気持ちいいのかな?
「兄ちゃんも風呂に浸かった時は今みたいな溜息吐いてんのかなぁ……」
兄ちゃんの入浴シーンなんてさぞ色っぽいことだろう。
俺がまだ幼稚園児の時は、毎晩兄ちゃんが俺と一緒に風呂に入ってくれていたけど、俺が小学生になってからは一度も兄ちゃんと一緒に風呂に入ってないな。
兄ちゃんは俺より八つも年上だから、俺が最後に兄ちゃんと一緒に風呂に入った時も、既に俺とは全然身体つきが違っていた。
でも、あれから更に成長した兄ちゃんの身体って今どうなっているんだろう。きっと今の兄ちゃんの身体つきは、俺が見た記憶とは全く別物になっているんだろうな。
中学、高校と運動部に所属していた兄ちゃんはグングンと背が伸び、体格が良くなっていったし、部活をやめた後も身体は鍛えているみたいだったから、胸板とか結構凄いんだよな。
今の兄ちゃんの身体を生で見たことはないけど、服の上からでも兄ちゃんの胸の膨らみはわかる。夏になるとシャツのボタンを上から二つくらい外していることもあるから、鎖骨の下までなら拝めるし。
「でも、あんまマッチョって感じでもないんだよなぁ……。確かに胸板厚いけど、程よく筋肉がついてるっていうか。メリハリのあるいい身体してんだよなぁ……」
高校では部活に入っていない俺の身体つきは、兄ちゃんに比べたらさぞかし貧相なものなのかもしれない。
一応兄ちゃんよりは背が高いし、華奢ってほどに身体の線も細くないけど、俺の胸板は至って標準って感じだった。
俺も兄ちゃんみたいな胸板を目指そうとは思うんだけど、どうも俺は筋肉がつきにくい体質みたいで、筋肉がつかない代わりに背が伸びているんじゃないかと思われる。
「あと、兄ちゃんってケツの形がめちゃくちゃ綺麗なんだよなぁ……」
いくら一人で入っている風呂だからといって、俺は何を言っているんだか。兄ちゃんのケツだって生で見たのは幼稚園の頃だっていうのに。
でも、これも服の上からでも充分にわかることで、長い脚の上に乗っている兄ちゃんの尻は、ぷりんっとしたいい形をしている。
胸があって尻が出てるなんて、ボンッ、キュッ、ボンッ、ってやつじゃん。兄ちゃん腰は細いからな。
「って……俺の兄ちゃんってもしかしてすげーそそられる身体してない?」
風呂に入る前にロクなことを考えていなかったせいで、俺の思考が完全にそっちに流れてしまっている。
これは不味い。早く何とかしないと、俺、兄ちゃんの裸を想像して変な気分になっちゃいそう。
まさか兄ちゃんで……なんてことになってしまったら、俺は兄ちゃんに合わせる顔がない。
「えっと……何か他のこと……他のことを考えよ」
危うく変な気持ちになりかけた俺は、弟としての自分の立場を守るためにも、頭の中を支配しようとする兄ちゃんの身体を無理矢理追い出し、宇宙の誕生について考えてみたりした。
でも、そんなに宇宙に詳しくないし興味もない俺にとって、その時間は全く無駄でしかなかった。
「随分と長風呂だったな。お前がいつまで経っても風呂から出てこねーから、その間に俺の用事が終わっちまったよ」
結局、全然気持ちが切り替えられなかった俺は一時間近くも長風呂をしてしまい、疲れ果てた顔で風呂場から出てきた後は兄ちゃんに呆れられてしまった。
「うん。ちょっと……。色々考え事しちゃってて……」
まさか、兄ちゃんの裸を想像して変な気分になりかけていた──とは言えない。
どうにも兄ちゃんの身体が頭から離れなかった俺は、最終的にシャワーの水を頭から被ることで、物理的に頭を冷やしたりもした。
その様子はまさに
「考え事ねぇ……。何かお前、ずっとシャワー流してなかった?」
「ん……んん……。ちょっと頭を冷やそうかと思って……」
「滝行のつもりかよ。何やってんだ」
「うぅ……」
そう。まさに滝に打たれて修業しているかのようだった。何か俺、胸の前で手とか合わせちゃってたし。
でも、おかげで随分と頭がスッキリしたし、気持ちも切り替わったと思う。
「んなことして風邪引いてもしんねーぞ。ちゃんと髪乾かして寝ろよ?」
「わかってるよ。今から乾かす」
「んじゃ俺、風呂入ってくるわ。髪乾かしたらさっさと寝るんだぞ」
「はぁーい」
はぁ……兄ちゃんってほんと過保護だな。俺だってもう子供じゃないんだから、自分の体調管理くらいちゃんとできるんだってば。
といいつつ、十分くらい水を浴び続けた身体はすっかり冷えてしまい、ちゃんと髪を乾かさないと本当に風邪を引いてしまいそうではあるんだけど。
俺と入れ替わりに風呂場に向かう兄ちゃんを見送り、髪の毛を乾かそうと思った俺は、ドライヤーが洗面所にあることを思い出し、慌てて兄ちゃんの後を追った。
「ごめん、兄ちゃん。ドライヤー持って出るの忘れた」
ドアの前から中にいる兄ちゃんに声を掛けると
「ちょっと待ってなぁ」
中から兄ちゃんの声が返ってきて
「ん」
その数秒後に上半身裸の兄ちゃんがドアを開け、俺に向かってドライヤーを差し出してきた。
「っ⁉」
何でそんな格好でドア開けるんだよ。こっちは全然心の準備ができていなくてびっくりしたじゃん。
っていうか、兄ちゃん服脱ぐの早過ぎ。
「ん? どうした? 早く受け取れよ」
「う……うん……」
うわぁぁぁぁ~っ! まさかこんな形で今現在の兄ちゃんの裸を拝めると思っていなかった! これって物凄いラッキースケベなのでは⁉
「何もじもじしてんだよ、お前は」
「ううん。何でもない。ありがと」
「?」
兄ちゃんの半裸姿を前に目のやり場に困っている俺にドライヤーを押し付けると、兄ちゃんは首を傾げながらドアを閉めた。
兄ちゃんからドライヤーを受け取った後の俺はもう……。動揺と心臓の鼓動がヤバいことになっていた。
いやいやいや。不意打ちにもほどがあるだろ。ちょっと前まで兄ちゃんの身体のことばっかり考えていた俺には、兄ちゃんの半裸とか刺激が強過ぎんだよ。
しかも兄ちゃんの身体、俺が想像していたよりもずっと綺麗だったし、物凄く色っぽかった。
男らしい身体つきと言ってしまえばそれまでなんだけど、男らしさの中に駄々洩れな色気があったし、何よりおっぱいのボリュームが……。「おっぱいデカっ!」ってなった。
更に、胸から腰に掛けてのラインと、腰からお尻に掛けてのラインがまたエッチで、半裸と言わず全裸の兄ちゃんを見たいと思ってしまったくらいだ。
しかも、しかもさ……。
(乳首がすげー綺麗なピンクだった!)
ふくよかな胸の上についている二つの乳首が、凄く綺麗で美味しそうだった。
過去に彼女がいたことのある兄ちゃんは当然童貞じゃないわけだけど、その兄ちゃんの乳首があんなに綺麗なピンク色をしているだなんて誰が思うんだよ。そこはもっと非童貞っぽさを主張して欲しかった。
(くそっ……せっかく兄ちゃんの身体を頭の中から追い出せたと思ったのに……)
一時間近くも長風呂をしたうえ、シャワーで滝行紛いのことまでした時間が全て無駄になった。
想像ではなく、実際に兄ちゃんの半裸姿なんか見ちゃったら、俺の頭の中はもう兄ちゃんの裸でいっぱいだよ。
(俺、兄ちゃんの弟なのに、兄ちゃんの身体に欲情してんの?)
いくら兄ちゃん大好きだからって、兄ちゃんの身体に欲情するなんて異常だ。それはもう弟の域を超えている。
でも、今日の俺はちょっと思考がおかしくなっている。それもこれも全部放課後に見たあの光景のせいだ。
つまり、悪いのは兄ちゃんと鵜飼先生、遠山先生の三人だ。あの三人が廊下であんなことさえしていなきゃ、俺だっていつも通りの俺でいられたんだ。
(破廉恥教師共めっ!)
その光景に刺激された自分もどうかと思うけど、まだ高校生の俺は三人の大人のせいにすることで、自分の精神をどうにか保つことにした。
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