お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第一章 綻び

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「さぁーて、腹も膨れたことだし、そろそろ寝不足の理由を教えてもらおうか」

 兄ちゃんと賑やかなお昼を済ませた後、お腹が膨れて満足した兄ちゃんがおもむろにそんなことを言い出した。

「え」

 それ、今聞くの? 説教された時に聞かれなかったから、寝不足の理由はどうでもいいのかと思っていた。

「それ、今聞く?」

 一応確認してみたけど、兄ちゃんは

「当たり前だろ。お前、普段は寝つきいい癖に気になるじゃねーか」

 兄ちゃんは聞く気満々だった。
 何で兄ちゃんが俺の寝つきがいいことを知っているのかは謎だけど、今朝に限って寝不足全開の顔をしていた俺が、昨夜は何をしていたのか気になって仕方がないんだろうな。
 まあ、別に何をしていたわけでもなく、ただ自分と戦っていただけなんだけど。

「お前、昨日変だったよな? もしかして、昨日のことまだ気にしてんの?」
「き……昨日のことって?」

 わーっ! もしかして兄ちゃん、昨日俺が上半身裸の兄ちゃんを見た時、激しく動揺していたことに気付いてる?
 目のやり場に困っている俺を不審そうな顔で見ていたし。

「だから、俺と鵜飼や遠山とのやり取り」
「あー……」

 何だ、そっちか。言われてみればそんなこともあったし、全ての始まりはそこからでもあったな。
 でも、ぶっちゃけそんなことはすっかり忘れていた。あれはあれでめちゃくちゃ動揺したし不快に思ったけれど、そんなことはすっかり忘れてしまうくらい、上半身裸姿の兄ちゃんの破壊力は半端なかった。

「いや、それはもういいっていうか、俺が眠れなかったのはそのことじゃなくて……」
「あ? じゃあ何だよ」
「……………………」

 俺の馬鹿ぁぁぁぁ……。そういうことにしておけば良かったのに、何で馬鹿正直に否定なんかしたんだよ。俺が眠れなかった本当の理由なんて兄ちゃんに言えるわけがないし、そういうことにしておけば、兄ちゃんから鵜飼先生や遠山先生との関係をもっと詳しく聞き出せたかもしれないのに。

「まさかお前……」
「え。な……何?」
「兄ちゃんの裸見て興奮したのかぁ?」
「っ!」

 えー……。それ、自分から言う? まさか兄ちゃんの口からそんな発言が飛び出すとは思っていなかったからびっくりだよ。
 ってか、何でそれをニヤニヤした顔で言えるの? 兄ちゃんは自分の弟が自分の半裸姿に興奮したら喜んじゃうタイプの人間なの?
 何も楽しいことはないし、笑い話でもないのに。

「んだよ、図星かよ。確かにお前、あの時めっちゃ焦ってたし挙動不審だったもんなぁ」
「ねぇっ! それ、どういう感情で言ってんの⁉」

 何かめっちゃ楽しそうだし嬉しそうな兄ちゃんに、俺はわけがわからなくて混乱した。
 だって、自分の裸見られて興奮されてんだよ? 普通は

『キモっ……。俺の弟キモっ……』

 って引くところだよね?
 それなのに、引くどころか喜ぶ兄ちゃんって何なんだ。一体どういう思考回路をしているわけ?

「どういうって……そりゃ普通に嬉しくね?」
「え。何で?」

 何を言っているんだろう、この兄は……。嬉しいって? どのあたりに兄ちゃんが嬉しくなるポイントがあるんだよ。

「だってよぉ、お前が興奮するくらい兄ちゃんの身体が逞しくて惚れ惚れしたってことだろ? 兄ちゃんとして誇らしいじゃねーか」
「……………………」

 そうくるか。というか、そう取るんだ。
 確かに、兄ちゃんの身体は逞しくて惚れ惚れする立派な身体つきだよ。
 でもね、俺は兄ちゃんの身体に男らしさを感じて興奮したわけじゃなくて、「兄ちゃんの身体エロっ!」ってところに興奮したんだよ?
 兄ちゃんのおっぱいがデカいとことか、乳首が綺麗なピンク色をしているとか、キュッと締まった細い腰とか、腰からお尻にかけてのラインがいやらしくて悩殺されたんですけど?

「あ? その顔は何だ? 何が不満なんだよ」
「別に……」

 やっぱ兄ちゃんって他人の感情に鈍過ぎるし、他人の感情を間違って捉えちゃうこともあるよね。
 昔から格好いい兄ちゃんは周りの異性からちやほやされ、自分は男らしいと思っているみたいだけれど、兄ちゃんには男らしさの他に綺麗さや可愛らしさが豊富に含まれていることを知った方がいい。
 男らしくて逞しいと思っている身体つきだって、色気とフェロモン全開のエロボディーだってことを自覚するべきだよ。
 だけど

「別に何の不満もないよ。兄ちゃんの身体つきは俺と全然違って凄いなって思ったもん。だから、直視するのがちょっと恥ずかしくなったし、自分も兄ちゃんみたいな身体つきになるためにはどうすればいいんだろうって、一晩中考えちゃったよ」

 兄ちゃんの身体は男らしいというよりエロい――なんて言えないから、兄ちゃんの勘違いを肯定することにした。

「だろぉ? 兄ちゃん身長ではお前に負けてるけど、身体つきでお前に負ける気ねーからな」
「そうですか……」

 もしかして兄ちゃん、俺に身長を抜かれたことが悔しくて、今でも身体だけは鍛え続けているんだろうか。
 そのおかげで、昔は薄かった兄ちゃんの胸板がどんどん厚くなり、腹筋は割れ、無駄な肉のない腰はキュッと締まり、お尻の筋肉も発達してぷりんとした綺麗なお尻が出来上がった――ってこと?
 つまり、兄ちゃんが身体を鍛えれば鍛えるほど、兄ちゃんの身体はエロくなっていくということだろうか。
 だったら今すぐ身体を鍛えるのはやめにして、普通のイケメンを目指して欲しい。変に身体を鍛えて、これ以上兄ちゃんの身体が色気とフェロモン全開のエロボディーになっちゃったら、いつか誰かに襲われちゃうかもしれないじゃん。

「何なら今日、久し振りに一緒に風呂でも入るかぁ? 真弥が見たいって言うなら、兄ちゃんの裸見せてやってもいいぜ?」
「遠慮しますっ!」

 何つーことを言い出すんだ。こっちは兄ちゃんの身体に欲情しかけたっていうのに、一緒に風呂なんか入れるか。
 そりゃ兄ちゃんと一緒に風呂に入りたい気持ちはあるんだけど、今の俺が兄ちゃんと一緒に風呂なんか入っちゃったら大惨事だ。大惨事が起きる。
 そして、兄ちゃんは俺が兄ちゃんの身体に興奮した本当の意味を知ることになって、兄弟仲がめちゃくちゃ気まずいことになっちゃうよ。

「何照れてんだよ。男同士なのに」
「男同士だからこそ遠慮したいんだよっ! 兄ちゃんと一緒に風呂なんか入ったら、俺と兄ちゃんの体格差が明らかになって嫌だもんっ!」
「あぁ、なるほど」

 ったくもう……。人をドキッとさせることを言ったかと思ったら、肝心なところではやっぱり鈍いままなんだから。
 兄ちゃんのこういう鋭さと鈍さが、今後も俺を振り回してきそうな気がするのは気のせいかな?
 無自覚小悪魔ってやつなのかも。兄ちゃんって昔からそういうところがあるよね。

「でもま、真弥もそういうことが気になるくらいには成長したってことかぁ」
「まあ……俺ももう高二だし……」

 何か俺と兄ちゃんの間で物凄く温度差があるまま会話が進んじゃってるけど、兄ちゃんの中で俺の精神年齢ってどのくらいだと思われているんだろう。
 俺の予想では、小学校高学年か中学生くらいで止まっているんじゃないかと思われる。
 でも、俺ってもう高二なんだよね。自分が高校二年生の頃を思い出して欲しいんだけど、高校生男子の頭の中なんてわりとエッチなことしか考えていなかったりするんだよ?
 いくら弟だからって、兄ちゃんはもうちょっと自分の弟を疑ってもいいと思う。

「でもなぁ」
「うん?」
「お前はお前でわりと男らしいっつーっか、ちゃんといい男に成長してると思うけど?」
「え?」

 俺のことをまるっきり子供扱いしているのかと思いきや、俺を一人の男として評価してくれるような兄ちゃんの言葉にドキッとした。
 俺は一人じゃ何もできないし、家事の一切は兄ちゃんに任せっきりだ。兄ちゃん無しでは生きて行けない自分に不甲斐なさを感じることもあるのに、兄ちゃんはそんな俺でも成長してると思ってくれているの?

「だってお前、背はたけーし顔だって俺に似て男前じゃねーか。今はまだガキ臭いところが目立つけど、後二、三年もすりゃ、女はお前をほっとかねぇんじゃねーの?」
「そ……そうかなぁ……」

 兄ちゃんと違って女にモテたことがない俺は、そんなことを言われてもピンとこない。
 だから、疑わしそうな顔で兄ちゃんを見てやったんだけど

「おうよ。何せお前は兄ちゃん自慢の弟だからな」

 兄ちゃんは自信満々にそう返してきた。
 二、三年後の自分が女子にモテモテになっている姿は全く想像できないけれど、兄ちゃんの誇らしげな顔を見ると、俺は嬉しい気持ちでいっぱいになった。


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