お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第三章 嫉妬

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 六月に入って二度目の日曜日。

「ちょっと見ない間に少し大人っぽくなったんじゃないのか? 真弥」
「え? そうですか?」

 今日は凜さんが家に遊びに来てくれた。
 いや、遊びに来てくれたわけじゃないか。だって、兄ちゃんが呼んだんだもん。
 昨日、俺と三度目のセックスをしてしまった兄ちゃんは、「さすがにこのままじゃ不味い」と思ったのだろう。風呂から出た後に凜さんに電話を掛けて

『明日って暇かぁ? 暇ならうち来てくんね? ちょっと相談してぇことがあってよぉ』

 と言っていた。
 つまり、兄ちゃんは俺とただならぬ関係になってしまったことを凜さんに相談するために、わざわざ凜さんを家に呼びつけたわけである。
 確かに、凜さんは兄ちゃんと鵜飼先生や遠山先生の関係を知っているから、こういう相談をするにはもってこいの人なんだろうけれど、さすがに兄弟でそういう仲になっているとは凜さんも思わないだろうから、厄介な相談を持ち掛けられる凜さんとしては、とんだ災難になるんだろうな。
 そうとは知らない凜さんは、玄関で凜さんを迎え入れる俺を見て、「大人っぽくなった」なんて褒めてくれている。
 これから打ち明けられる話を考えると、俺は凜さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。

「悪いな。急に呼び出しちまって」
「構わない。真弥のテストが終わったら顔を出そうと思っていたしな。だが、お前から相談したいことがあるなんて珍しいな」
「んん……まあ……。とりあえず玄関で立ち話もなんだから、中入れよ」
「ああ。そうさせてもらう」

 昨日は勢い任せに電話を掛けてしまったところがある兄ちゃんだから、今頃ちょっと後悔しているのかもしれない。
 今回の相談相手は凜さん以外に適任がいないって感じではあるが、いざ凜さんを目の前にすると、「やっぱ言えねぇ……」ってなっているのかも。

「ん? 何だ? このソファーカバー。この前来た時はこんなカバー掛けていなかったよな?」
「これはまあ……ちょっとした気分転換ってやつだよ」
「そうか。でも、どうして片方だけなんだ? こっちのソファーにも掛ければいいのに」
「な……何となく? 実際に合うかどうかわかんなかったから、とりあえず片方だけに掛けてみたんだよ」

 俺達と一緒にリビングにやって来た凜さんは、二つあるソファーのうち一つに新しいソファーカバーが掛かっていることを不思議に思ったようだけど、そこは兄ちゃんが全力で誤魔化していた。
 兄ちゃんと初めてセックスした時、俺に何度も突き上げられて潮吹きしてしまった兄ちゃんは、俺にソファーを徹底的に綺麗にするよう命令した。
 兄ちゃんの言いつけ通り、俺はありとあらゆる手段を使ってソファーを綺麗に掃除したんだけど、ソファーが綺麗になった後も、兄ちゃんはそのソファーに直接腰を下ろすことが躊躇われたらしく、その日のうちにソファーカバーなるものをネットで購入した。
 俺とセックスしたソファーが別物に見えるようにしたかったのかもしれない。
 いや、ほんと。もう全然綺麗なんだよ? 洗剤も使ったし、匂いだって残ってないし。

「まあいい。それより、俺に相談とはどういうものだ? その相談は真弥が一緒でも大丈夫なものか?」

 兄ちゃんのさり気ない誘導で、ソファーカバーが掛かっていない方のソファーに腰を下ろした凜さんは、前回部屋に追いやられた俺を気遣ってくれたのか、本題に入る前にそこの確認を兄ちゃんにしていた。
 凜さんの口から俺の名前が出たことで、兄ちゃんの決心も固まったのか

「問題ねぇよ。つーか、今日の相談はこいつのことだ」

 と、自分はソファーカバーの掛かっているソファーにドカッと腰を下ろし、物凄く不機嫌そうな顔だった。

「俺、お茶淹れて来るね」

 何か俺が悪いみたいな顔をする兄ちゃんに居たたまれなくなった俺は、まだ凜さんにお茶も出していないことを理由に、そそくさと台所に逃げた。
 確かに俺が悪いっちゃ悪いんだけどさぁ……。だからって全部俺が悪いみたいな顔をしなくてもいいじゃん。

「真弥のこと? 真弥がどうかしたのか?」
「それがよぉ……」

 俺が台所でお茶を淹れている間にも兄ちゃんの相談事というのは始まってしまい、三人分のお茶を淹れた俺がリビングに戻って来た丁度その時

「こいつ、俺のことが好きとか言うんだけど。ただ言うだけならまだしも、俺とセックスまでしてくるんだけど、どう思う?」

 一切の恥じらいもなく、相談したいことを簡潔過ぎるほど簡潔に述べる兄ちゃんがいて、それを聞いた凜さんが絶句しているところだった。
 いや、言い方……。単刀直入過ぎんだろ。もっと前置きとかして、できるだけ凜さんのダメージが少なくて済むように配慮してやれよ。
 どう思う? の前に、凜さんは突然のカミングアウトに、自分が何を言われているのかもわかっていない顔じゃん。

「いや…………は? ちょっと待て。どういうことだ? お前、真弥とシたのか?」
「おう」
「っ⁉ お……お前っ! ついに弟にまで手を出したということなのか⁉」
「手ぇ出されたの俺の方な。そこんとこ間違えんじゃねぇよ。つーか、弟にまでって何だよ。までって。俺、あいつらにも手ぇ出された側の人間だぞ?」
「そ……そうか、すまない……。だが、まさか真弥がそんな……」
「俺もびっくりしたっちゃしたんだけどよぉ。こいつも男ってことだろ。一度きりならともかく、もう三回も俺に手ぇ出してきやがって」
「三回⁉ お前、三回も真弥と⁉」
「そうなんだよ。だから、お前に相談しようと思ってさぁ」
「……………………」

 再び凜さん絶句。今から半月ほど前までは普通の兄弟だった俺と兄ちゃんが、たった半月の間に三回もセックスする仲になっていることが信じられない様子である。
 家に来るなり、とんでもない相談事を兄ちゃんに持ち掛けられた凜さんは、俺と兄ちゃんの顔を見比べて、自分はどちらの味方をするべきか悩んでいるようだった。

「一つ確認したいんだが、真弥は真実のことが恋愛対象として好き……なんだよな?」
「みてぇだな」
「お前の方はどうなんだ? というより何より、お前、あの二人との関係はどうなっている。真弥とそういうことになっているのであれば、奴らとの関係は清算済みってことでいいのか?」
「いや……それは追々ってことで……」
「待て待てっ! それはおかしいだろっ!」

 ナイスだ、凜さん。いや、もうマジほんと、良くぞ言ってくれたって感じ。
 兄ちゃんは俺が何度言っても、あの二人との関係をやめてくれないけれど、親友の凜さんに諭されれば、多少は考えが変わってくれるかもしれない。
 俺の前でも兄ちゃんとあの二人の関係を口にするということは、もう俺が兄ちゃんとあの二人の関係を知っていると判断したんだろうな。
 兄ちゃんとセックスした俺は、兄ちゃんの身体が男を知っていることに気付いたと思っただろうし。そもそも、俺が兄ちゃんのことを好きだなんて言い出したのも、俺が兄ちゃんとあの二人の関係を知ったからだと推測できそうだもん。
 今まで普通の兄弟だった俺達の関係が崩れるとしたら、それなりの理由というか、原因があったのだと考えるだろう。
 もしくは、俺とこうなる前に、兄ちゃんは凜さんとの会話を俺に聞かれた話を凜さんに伝えていたのかもしれない。
 相談は何も直接顔を合わせなくても、電話やメールでもできるもんな。
 俺に鵜飼先生や遠山先生との関係を知られてしまった兄ちゃんは、凜さんにどうすればいいか聞いていたかもしれない。

「あの二人との関係も続いている⁉ それで更に真弥ともそういうことをシてるっていうのか⁉」
「まあ……」
「どうなっているんだっ! お前やあの二人はもう立派な大人だから、そういうことは自己責任で勝手にしろって感じだが、真弥はまだ高校生だぞ⁉ お前にとっては何者にも変えられない大事な弟なんじゃないのかっ! それなのに、その真弥とまで身体だけの付き合いみたいなことをっ!」
「だってよぉ……こいつが俺に襲い掛かってくるんだぞ? 俺にどうしろっつーんだよ」

 あぁ……凜さんってほんと頼りになる。親友だからって変に兄ちゃんを甘やかさないし、何より俺のこともしっかり気遣ってくれる。
 兄ちゃん的には凜さんが自分の味方をしてくれなくて面白くないのかもしれないけど、俺にとってはまさに神様みたいな存在だよ。

「とりあえず、あの二人とは一刻も早く別れろ。別れて真弥との関係について真面目に考えろ」
「別れろって言われてもぉ……。別に俺、あいつらと付き合ってるわけじゃねーよ?」
「同じようなものだろ。付き合ってはいなくとも、ヤることはヤっているんだから」
「そこ、一緒にされたくねーんだけどなぁ……」

 兄ちゃんは今日、凜さんに俺との関係について相談するつもりだったのに、凜さんに説教ばかりされる羽目になり、それがちょっと不満そうだった。
 だけど、その後も凜さんは兄ちゃんにあれこれと説教を浴びせつつ、兄ちゃんに色々とアドバイスをしたり、兄ちゃんの主張もちゃんと聞いてあげたりと、兄ちゃんの相談にはしっかり乗ってあげていた。
 その結果

「わかった。とにかくあいつらとの関係はなるべく早く清算するし、真弥との関係もどうにかする」

 ということで結論を出した兄ちゃんは、まだ少し納得がいかない顔をしていたものの、今後の方針が決まったことには安堵した様子だった。
 随分と長い間、ああでもないこうでもないと話していたから、話が一段落ついた頃にはもう夕方になっていた。
 昼過ぎにうちに顔を出した凜さんは、四時間以上も喋り通しになってしまったから、さすがにちょっと疲れたみたいだった。
 そんな凜さんを労うように

「晩飯食ってくだろ?」

 と尋ねる兄ちゃんに

「ああ、そうさせてもらおう」

 と答えていた。
 軽い気持ちで遊びに来てみれば、とんでもない相談事を持ち掛けられたしまったものだから、夕飯くらいご馳走にならないと割に合わないと思ったのかもな。
 俺は兄ちゃんと二人だけの生活を誰にも邪魔されたくないと思っているけれど、凜さんだけは例外だ。凜さん本人にも言ったことがあるが、凜さんならいつでも大歓迎だと思っている。
 兄ちゃんが台所で夕飯を作っている間、俺と凜さんは二人だけで話をしたし、その時、凜さんの気になる人との進展具合も聞いてみたんだけれど、凜さんと彼女はなかなかいい感じになっているように思えた。
 俺と兄ちゃんの関係はまだまだ前途多難って感じだけど、凜さんの方はもうすぐいい結果になりそうだな――と、そう思う俺だった。


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