お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第四章 秘密

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「それで、本当のところはどうなの? どうして今日は兄ちゃんから俺を誘ってくるみたいなこと言ったの?」

 かれこれ一時間近く、兄ちゃんとベッドの中で付かず離れず状態でイチャイチャしていた俺は、いい加減俺とイチャイチャするのにも飽きてきたのか

『真弥ぁ……風呂ぉ……』

 と言い出した兄ちゃんを連れて浴室に向かった。
 セックスした後の兄ちゃんは全てが億劫になるみたいで、風呂には入りたがるけど自分でその準備をするのが面倒臭いみたいだ。
 だから、俺が全部準備してあげるんだけど、兄ちゃんを浴室まで連れて行くと、兄ちゃんと一緒に風呂に入るのは当然といいますか……。
 兄ちゃんも別に嫌がらないから、兄ちゃんとセックスした後は一緒に風呂に入るって流れが出来上がりつつある。
 まあ、あまりにも疲れた時はそのまま寝ちゃって、翌朝風呂ってパターンもあるけどね。
 でも、夜入るにしても翌朝入るにしても、どのみち兄ちゃんと一緒に風呂には入っている。一緒に風呂に入ることで、俺と兄ちゃんのセックスも終わったって実感がする。

「ん~? だからぁ、どうせスるなら……」
「とか言って、ほんとは兄ちゃんがシたかったんじゃないの? 凜さんと彼女の仲睦まじい姿を見て、〈俺も彼女欲しい〉とか、〈俺もイチャイチャしたい〉って思ったんじゃないの?」

 本当はベッドの中で再度聞こうと思っていたのに、兄ちゃんとのセックスに夢中になるあまり、すっかり聞きそびれてしまっていた。
 だから、兄ちゃんと一緒に入る風呂の中で、改めてその質問を兄ちゃんに浴びせてみたんだけれど、スイッチがオフになった兄ちゃんは、俺からの質問を適当にあしらおうとしてきた。
 しかし、そうはさせない俺がちょっと踏み込んだ突っ込みを入れると

「……………………」

 兄ちゃんは湯気が立ち込める浴室の天井を何気なく仰いでから

「……まあ、ちょっとはそういう気持ちもあったかもなぁ。俺、ここ数年ずっと彼女いねぇし。彼女ができて幸せそうな凛を見たら、ちょっとくらい羨ましいって思っちまうだろ」

 そう答えてくれた。
 やっぱり少しは羨ましいって気持ちがあったんだ。
 そりゃそう思うよな。俺だって全力で羨ましいと思ったもん。好きな人と恋人同士になれた凜さんのこと。
 凜さんと桃さんの仲睦まじい様子を見て、「俺も兄ちゃんとこうなりたい」って何度思ったことか。その数はとても数えきれるものじゃなかったと思う。
 でも、それは俺が兄ちゃんのことを好きだからで、好きな人がいるからこそ、恋人同士の姿を羨ましいと思うものなんだと思った。
 だけど、兄ちゃんには現在好きな人というものが存在していない。好きな人がいなくても、恋人同士の姿を羨ましいって思うものなのかな。
 確かに、好きな人がいなくても恋人同士という関係を羨ましく思う人間は多いと思うけど、兄ちゃんには今、三人の人間との肉体関係がある。三人共恋人ではないにしろ、恋人同士っぽいことはしているわけで、そんな兄ちゃんが恋人同士を羨ましく思う気持ちはちょっと不思議だった。

「兄ちゃんって恋人が欲しいの? だったら俺と付き合えばいいじゃん」

 兄ちゃんにそういう願望があるのであれば、真っ先に立候補したいと思った俺は、ベッドの中ではスルーされてしまった〈兄ちゃんと付き合いたい〉って気持ちを、もう一度主張してみたんだけど

「何言ってんだ。兄弟で恋人同士にはなれねぇっつってんだろ」

 兄ちゃんから返ってきた返事は相変わらずというか、「もうそれ良くない?」って感じのもので、俺をおおいにがっかりさせてくれた。
 兄ちゃんはあくまでも俺と自分の関係を兄弟だと主張してくるけど、俺とセックスしている時点で「兄弟だから」って主張は通らないと思うんだよな。
 あまり一般的ではないけれど、世の中には近親相姦って言葉がある。全ての近親相姦が恋人関係だとは言えないけれど、血の繋がった家族でも愛し合うケースはあるんだから、俺と兄ちゃんもそうなっちゃえばいいじゃん。今更モラルがどうこう言えるような状況でもないんだから。

「またそれ? 別にいいじゃん。兄弟で付き合っても」

 弟の俺は恋愛対象にならないっていう、兄ちゃんの気持ちはわからなくもないけれど、弟だって理由だけで兄ちゃんと恋人同士になれないのも納得がいかない。人を好きになる気持ちは自由だし、モラルに縛られるものでもないと思うもん。
 それに、俺とセックスするようになった兄ちゃんに、心境の変化ってやつが全く無いのかどうかも気になるところだ。普通何かが変わらない? 変わってくるものじゃない?
 一度きりならまだしも、俺と兄ちゃんって毎週セックスしてるんだよ? ちょっとは何か変わらないと変じゃん。

「お前こそ、何で俺と付き合いたがんだよ。セックスしてんだからいいじゃねーか」
「えー……」

 何て乱暴な……。そんな言い方ある?
 それって早い話

『好きですっ! 付き合ってくださいっ!』

 って誠心誠意込めて告白してきた相手に向かって

『付き合いはしねーけどセックスはしてもいい』

 って言っているようなもんじゃん。
 それで誰が納得するっていうんだよ。

「でも、兄ちゃんだって恋人が欲しいって気持ちはあるんでしょ?」
「そりゃまあ、ちょっとは」
「やっぱり女がいいの? でも、兄ちゃんって今更女が抱けんの? 俺、無理だと思うんだけど」
「うっ……うっせーなぁっ! それについては兄ちゃんも色々考えてんだよっ!」
「色々? 色々って?」
「色々は色々だっ!」
「たとえば?」
「……………………」

 今日は土曜日。明日は日曜日で俺と兄ちゃんは休み。
 平日はなかなか兄ちゃんとじっくり話す時間もないから、この週末は兄ちゃんとゆっくり話がしたいと思っていた。
 俺と兄ちゃんの関係が鵜飼先生と遠山先生に知られたことで、兄ちゃんと今後の話もしておきたいと思っているし。
 だけど、兄ちゃんの方は俺にそういう話をされると困るみたいで、色々兄ちゃんから聞き出そうとする俺に困り顔だった。
 あんまり急かさない方がいいのかな。兄ちゃんだって何も考えていないわけじゃないだろうから、自分のペースで答えを出したいと思っているよね。
 でも、そんなにもたもたしている時間もないって気がする。
 兄ちゃんがあれこれ考えている間にも、状況はどんどん変わっていくんだもん。俺もそうだけど、あの二人だって兄ちゃんの決断をおとなしく待ってくれないと思う。
 これ以上、俺とあの二人の間で揉め事が起こらないためにも、兄ちゃんには一刻も早い決断を下して欲しいと思ってしまう。
 もっとも、その決断が俺にとって都合の悪いものだった場合、俺はせっかく出した兄ちゃんの決断を到底受け入れられないとは思うけれど。

「兄ちゃんの中で男同士の恋愛ってナシなの?」

 質問の仕方をちょっと変えてみた。まずは基本的なところというか、俺と兄ちゃんが付き合う云々の前に、兄ちゃんが男同士の恋愛をどう思っているのかを聞いてみることにした。
 よくよく考えてみれば、そこをちゃんと聞いたことはなかったもんな。
 そもそも、兄ちゃんに自分と同じ男と恋愛する気がないのであれば、まずはそこから変えていかなきゃいけなくなる。

「あぁ? アリがナシかっつったらナシだろ。付き合ってどうすんだよ」
「……………………」

 やっぱりナシだった。そんな気はしていたけれど、兄ちゃんの中で男と付き合う選択はやっぱりなかった。
 しかも、「付き合ってどうすんだよ」って……。それ、男同士でセックスしている人間が言うセリフなの?

「そりゃまあ、デートしたり、イチャイチャしたり、エッチなことしたり……。普通の恋人同士がすることと同じことするだけだよ」
「それ、楽しいか? お前は男同士でイチャイチャしてぇの?」
「……………………」

 いやいやいや。さっきまでわりとイチャイチャしてなかった? 俺と兄ちゃん。今だって一緒に風呂に入ってんだから、充分イチャイチャしてるってことにならない? 兄ちゃんにはその自覚が皆無なの?

「したいよ。好きな相手となら。俺、兄ちゃんとめちゃくちゃイチャイチャしたいし、兄ちゃんとイチャイチャするのは楽しいと思ってるけど?」
「ふぅ~ん。そうなんだ」

 自分から聞いておいて「ふぅ~ん」って何だ。

『そんな〈どうでもいい〉って反応するくらいなら聞かないでよっ!』

 って言いたくなる。
 でも、ここはグッと我慢だ。兄ちゃんには色々自覚ってものがないみたいだから、自分が俺とイチャイチャしている時もあるって現実が見えていないんだ。
 まずは兄ちゃんに男同士のイチャイチャを自覚させる必要があるんだけれど、それってどうすればいいのかなぁ……。
 実際に男同士で付き合っている恋人同士を見せれば手っ取り早い気もするけど、あいにく俺の周りにそういう人間っていないからなぁ……。

「ねぇ、兄ちゃん。明日一緒に出掛けない?」

 ちょっと考えた末、家の中にいても答えが出ないと思った俺は、その手掛かりを家の外に求めることにした。
 ある程度人が集まる場所に出掛けてみれば、一組か二組はいるかもしれないもんな。男同士のカップル。
 そういうカップルを兄ちゃんに見せて、「あれが男同士でイチャイチャしてるってことだよ」って教えてあげれば、兄ちゃんも自分と俺がわりとイチャイチャしている自覚が生まれてくるかもしれない。
 突然俺に「明日一緒に出掛けない?」と誘われた兄ちゃんは、思いっきり「何で?」って顔をしたものの

「別にいいけど……」

 俺の誘いは断らなかった。



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