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第四章 秘密
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しおりを挟む兄ちゃんと一緒にお出掛け――。
それは別に珍しいことじゃない気もするけれど、両親が亡くなってからというもの、全然遠出をしなくなったと思う。
俺が兄ちゃんと一緒に出掛けるといえば買い物くらいのもので、大体が近所のスーパーであることが多い。たまにちょっと足を延ばして大型ショッピングモールに行くこともあるが、ただ単に遊び目的で出掛けることはなくなっていた。
それでも、俺は兄ちゃんと一緒に出掛けることが楽しかったし
『スーパー行くけど真弥も行くかぁ?』
って毎回俺を誘ってくれる兄ちゃんの言葉が嬉しかった。
だがしかし、今日はいつものお出掛けとはちょっと違う。
目的はあるっちゃあるけれど、その目的は食材の買い出しでも、日用品の買い出しでもない。
行き先は全国的にも有名な観光地で、完全に遊び目的での兄ちゃんとお出掛けである。
わざわざ観光地を選んだのは、観光地なら人が多いってことと、いつも仕事と家事の両立で忙しくしている兄ちゃんに、ちょっとは羽根を伸ばして欲しいと思ったからだ。
まあ、人が多いところに行けば、それだけ男同士のカップルに遭遇する確率も上がると思ったからではあるけれど。
今回のお出掛けの真の目的は、兄ちゃんに男同士のイチャイチャを自覚させると同時に、俺がどさくさに紛れて兄ちゃんとイチャイチャデートをしてやろうという、個人的な願望も含まれている。
俺が兄ちゃんとイチャイチャデートをしたいってところ以外は、それとなく行きの電車の中で兄ちゃんに伝えてみたんだけど、俺がそんなことを考えているとは思っていなかった兄ちゃんは
「はあ⁉ お前、そんな理由で出掛けようって兄ちゃんを誘ったのかぁ?」
目を丸くして驚いていた。
と同時に、物凄く呆れている様子でもあった。
「だってぇ……。兄ちゃんの考え方を変えるためには、まずいろんなものを見ることが必要なんじゃないかって思ったんだもん。もちろん、純粋に兄ちゃんと一緒に遊びに行きたいっていう、俺の願望もあるんだけど」
「ったく……。呆れたもんだなぁ。いろんなもん見たからって、ただ見ただけじゃ人の考え方なんて早々に変わんねーぞ。第一、そんな都合よく野郎同士のカップルに遭遇するとも限らねぇのに」
「そう言われちゃうとその通りなんだけどぉ……」
やっぱ通常モードの兄ちゃんは手厳しいというか、言っていることが至極まとも過ぎて、俺は反論の余地がない。
でもまあ、半分は俺のためでもあるから、仮に兄ちゃんの考え方が変わらなくても、都合よく男同士のカップルに遭遇しなかったとしても、俺が兄ちゃんとデートっぽいことができたらそれでいいと思っているところもある。
何せ俺、今日は兄ちゃんと手を繋いで歩いてやろうと思っているもん。都合よく男同士のカップルに遭遇しなくても、俺と手を繋いで外を歩けば、兄ちゃんも
『あれ? これって何か恋人同士っぽくね? これがイチャイチャしてるってことか?』
って気付くかもしれないもんね。
「まあ、別にいいけどよ。買い物以外で真弥と出掛けんのも随分久し振りだし。休みの日はいつも家で過ごしてるんじゃ、お前もつまんねぇよな」
「別に俺、兄ちゃんと一緒なら一日中家の中にいても楽しいよ?」
「そこはつまんねぇって言えよぉ。空気読めぇ」
「……はい」
俺が兄ちゃんと出掛けたがった本当の理由を知った兄ちゃんは、その理由を別の理由に擦り変えようとしてきたけれど、俺が反論したから「空気読め」って怒られてしまった。
だって、本当のことだもん。俺、兄ちゃんがいればそれでいいから、今日みたいに出掛けなくても、充分楽しい毎日を送っている。
むしろ、兄ちゃんこそ〈つまんねぇ〉って思っていないかが心配で、今日の行き先に観光地を選んだところもある。
兄ちゃんって本当はどんな休日を過ごしたいと思っているのかな。
たまには友達と一緒に出掛けたいだろうし、職場の同僚と飲みに行ったりとかもしたいのかも。
でも、俺がいるからそういうことができなくて、兄ちゃんにつまらない毎日を送らせていたらどうしよう。
兄ちゃんまだまだ若いし、本来なら遊び盛りな年頃だよな。
「ねぇ、兄ちゃん」
「んー?」
「兄ちゃんこそ、いつも俺と一緒でつまんなくない?」
不安になったからついつい聞いてしまうと、兄ちゃんはジッと俺の顔を見てきて
「んなわけあるか。家族なんだから一緒にいんのが当たり前だろが。変な心配してんじゃねーよ」
俺の頭をクシャクシャっと撫でながらそう言ってくれた。
あー……やっぱ大好きだ。俺、兄ちゃんのことがマジで死ぬほど好き。好き過ぎて辛い。
こんなに兄ちゃんのことが好きなのに。セックスしてるだけの関係ってやっぱ嫌だよな。俺、兄ちゃんとは身体だけじゃなくて、心も深く繋がりたいって思っちゃうよ。
もっとも、家族としての絆ならもう充分深いし、兄弟としてお互いを想う気持ちは誰にも負けないって感じだけど。
「ありがと、兄ちゃん。俺、兄ちゃんの弟で本当に幸せだよ」
兄ちゃんには弟以上に俺のことを想って欲しい。
その気持ちに嘘偽りはないけれど、こうして弟として兄ちゃんから無償の愛と思いやりを注いで貰えることが嬉しいのも事実で、自分が兄ちゃんの弟で本当に幸せだと思う気持ちも本物だった。
俺のこういう中途半端なところが、鵜飼先生や遠山先生からしたら面白くないところであり、ズルいと思われるところなのかもな。
確かに兄ちゃんは俺に対して過保護だし、弟としての俺のことは溺愛してくれていると思うから。
俺が弟という立場を利用していると、あの二人に思われても仕方がないんだろうな。
だからって、俺があの二人に引け目を感じる必要は一切ないと思うけどな。前に兄ちゃんも言ってくれたけど、それが弟の特権ってやつなんだから。
それに、本当に手に入れたいもののために、手段を選ばない方法は間違っているわけでもない。
利用できるものは全て利用する――なんて言い方をしたら、眉を顰める人もいるだろうが、そんなものは人目を気にした偽善的な行為であって、誰もがやっていることのはずだもん。
大事なのは利用する、しない、の問題じゃなくて、それによって誰かを傷つけないかどうかってことだと俺は思う。
利用できるものを利用せず、目的を果たせなかったら意味がないもんな。
何はともあれ
「だろぉ? お前の兄ちゃんは最強だろ?」
どこまで本気でそう言っているのかわからない兄ちゃんと、今日は兄弟水入らずの休日デートを思いっきり楽しもうと、心に決める俺なのであった。
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