お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第五章 未知

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 さて。兄ちゃんと遠山先生の関係をやめさせるいい情報を掴んだと思った俺は、その情報をもとに、兄ちゃんに今すぐ遠山先生との関係をやめるよう迫ろうと思ったんだけど――。

「あー……そりゃ遠山の姉ちゃんだ。あいつ、四つ年上の姉ちゃんがいるって言ってたし、姉ちゃんと仲がいいって言ってたからなぁ。ちょっと前に姉ちゃんと一緒に買い物行くっつってたし、その時あの馬鹿を見掛けたとも言ってたから間違いねぇと思う」

 残念ながら俺の目論見は呆気なく打ち砕かれた。

(何だぁぁぁぁ……姉ちゃんかよぉぉぉぉ……)

 姉ちゃんなら女の影もクソもない。遠山先生にとってはただの家族なんだから、そりゃ恋愛関係に発展するはずもないよな。
 まあ、俺のところみたいに、兄弟でもそういう関係に発展するケースもあるにはあるが、それってかなり稀なケースだし。そうあちこちで起こる現象じゃないよな。

「おいおい。随分と残念そうな顔だなぁ? もしかしてお前、遠山に彼女がいると思ったか?」
「うん。思った」
「馬ー鹿。俺だってそこはちゃんと確認するっつーの。人のもんに手ぇ出すほど節操無しじゃねーんだから」
「そ……そうだね……」

 鵜飼先生や遠山先生にいいように言い包められ、なかなか二人との関係を終わらせられないし、俺とも何だかんだ定期的にセックスしちゃう兄ちゃんだから、〈兄ちゃんってチョロい?〉って思うところもあるんだけど、本人にはその自覚が全くないようだった。
 ついでに言わせてもらえば、自分には節操があると思っているところも、俺はちょっとした勘違いなんじゃないかと思ってしまう。
 普通、節操のある人間は複数の人間とセックスなんかしないし、学校のような公共の場でセックスもしないものだ。
 兄ちゃんの中にも兄ちゃんの考えるモラルや節操ってものがあるにはあるんだろうが、その基準は極めて低いものなんじゃないかと思われる。
 まあ、普段人に迷惑を掛けているわけでもないから、一般的なモラルや常識は身につけているとも言えるけど。

「お前からあの馬鹿にも言っといてくんね? 何かあいつ、遠山に彼女がいるって言い触らしてるみたいでよぉ。遠山はもちろん、俺まで〈どうなの?〉って真相聞いてこられんのが面倒くせぇんだよ」
「わかった。与一に言っとく」

 クソー……与一が掴んだ情報が事実だったらどんなに良かったことか……。
 与一の早とちりだったうえに、その早とちりを与一に指摘しなくちゃいけなくなった俺が間抜け過ぎるじゃん。
 かといって、与一のことは責められない。まさか遠山先生に姉ちゃんがいるだなんて話、俺は兄ちゃんから聞くまでは考えもしなかったもん。与一だってそれが遠山先生の姉ちゃんだとは思わなかったんだろうな。
 おそらく、ほとんどの生徒が知らない事実だと思う。
 遠山先生は女子から人気のある先生ではあるけれど、生徒と親しく接する先生ではない。いつも淡々としていて無口だし、あまり話し掛けやすい先生というわけでもないから、生徒相手に自分のプライベートな話をペラペラ話すような先生だとは思えないもんな。
 だからこそ、与一が流した噂のことで、遠山先生自身や、関係のない兄ちゃんにまで真相を確かめようとする生徒が続出しているんだろうし。

「つっても、お前は明日から夏休みだからなぁ……。お前があの馬鹿に会うのもちょっと先の話になんのかぁ」

 今日、一学期の終業式が終わったばかりの俺は、明日から夏休みという心躍る長期休暇が始まるわけなのだが

「そんなことないよ。明日会うから早速言っとく」

 夏休みだからといって特に予定のない俺は、明日も制服を着て学校に行くつもりだった。

「は? 何で?」
「何でって……」
「お前は夏休みだからどこに遊びに行こうが勝手だけど、あの馬鹿は明日から補習があんだろ。まさか、初日からすっぽかすつもりじゃねぇだろうなぁ。んなことしたらぶっ殺すって言っとけぇ」
「いやいや、そうじゃなくて。与一が夏休み中も一人で学校行くのは嫌だって言うから、俺と日向も一緒に学校に行ってあげようって話になってんの。どうせ夏休みだからって予定はないし。兄ちゃんも学校に行くなら、俺も兄ちゃんと一緒に学校に行こうかなって」

 その理由の一つが、夏休み中に三つの教科で補習を受けなくちゃいけなくなった与一に付き合ってあげるためだった。
 元々与一は兄ちゃんの受け持つ数学の成績が壊滅的なうえ、一学期はあまり真面目に勉強をしていなかったのか、英語と古文まで補習を受けることになってしまった。
 与一の自業自得と言えばそれまでだけど、自分だけ夏休みも学校に行かなくてはならなくなった与一は、俺と日向に

『俺一人だけ学校に行かなくちゃいけないなんて嫌過ぎるっ! 辛いっ! 泣きそうっ! だからお前らも付き合って! 頼むよぉぉぉぉ~っ!』

 と泣きついてきたから、俺と日向は仕方なく与一に付き合ってあげることにした。
 それに、俺は明日から夏休みだけど、教師の兄ちゃんは明日からも普通に学校に行かなくちゃいけないもんな。
 今言ったように、明日からは成績の悪かった生徒の補習をしなくちゃいけないし、それ以外にも色々やることがあるみたい。
 もちろん、ちょっとした休みはちゃんともらえるらしいけど、基本的にはいつもと変わらない毎日を過ごすことになっているようだ。
 つまり、俺が家にいても兄ちゃんは家にいない。兄ちゃんがいない家にいてもつまらないから、俺は与一に付き合って学校に行くことに何の不満もなかった。
 多分、日向も俺と同じだろう。
 日向は俺と違って上村先生と一緒に住んでいるわけじゃないから、夏休みになると上村先生に会う機会が一気に減ってしまう。
 上村先生も兄ちゃんと同じで、夏休み中も基本的には学校にいるそうだから、日向も与一に「付き合って!」と言われて助かったところがあるんじゃないかと思う。
 生憎、どの教科も補習を受ける必要がない俺と日向は、与一と一緒に補習まで受けることはできないけれど、与一が補習を受けている間、空いている教室で夏休みの宿題でもしていようって話になった。
 同じ宿題をするのも、一人より二人の方が楽しいもんな。
 早い話、俺と日向が明日からも学校に行く理由は、与一に頼まれたから――というのはただの口実。本当は自分が好きな人の傍にいたいという理由が一番だった。
 それに学校には鵜飼先生や遠山先生だっているはずだから、兄ちゃんから目を離したくないという気持ちもある。
 俺が家でのんびりしている間に、あの二人がまた兄ちゃんにちょっかい出すのなんて嫌だもん。
 だけど

「はあ? 何でお前があの馬鹿に付き合ってやんなきゃいけねーんだよ。補習受けなきゃなんねーのはあの馬鹿の自業自得だろ。お前がいちいち付き合ってやる必要はねぇだろ。つーか、そういうところであの馬鹿甘やかすな」

 兄ちゃんと一緒にいたい俺の気持ちに気付かない兄ちゃんは、与一に付き合ってあげるという俺に盛大な呆れ顔だった。
 ほんと、ちょっと考えたらわかりそうなものなのになぁ……。俺が兄ちゃんと一緒にいたいって思う気持ち。
 そりゃ学校じゃ家にいる時ほど兄ちゃんと一緒にいられないことくらいわかっちゃいるけど、兄ちゃんが学校にいるってわかっているのに、俺だけ家の中にいたってしょうがないじゃん。兄ちゃんが学校に行くなら俺も学校に行きたい、って思うのは普通じゃん。
 そういう気持ちを全然わかっていないんだよな、兄ちゃんって。
 兄ちゃんだってこれまで何度か恋愛はしてきているのに、そういう気持ちに疎いのは何でなんだろうって不思議になっちゃうよ。

「別に甘やかしてないよ。俺が学校に行きたいって思うんだから」

 俺の気持ちに全然気付いてくれない兄ちゃんに、ちょっと拗ねた顔になってそう言うと

「お前、そんなに学校好きなのか?」

 兄ちゃんは目を丸くして、またトンチンカンなことを言ってきた。
 こんな鈍い兄ちゃんには、色々ハッキリ言ってあげた方がいいよな。

「じゃなくてっ! 兄ちゃんがいるから俺も学校行きたいのっ! それくらいわかれよっ!」

 ややキレ気味にそう言う俺に、兄ちゃんの目はもっと丸くなり、しばらくその丸くなった目で俺をジッと見詰めた後

「お前、どんだけ俺のことが好きなんだよ……」

 顔を真っ赤にして照れていた。
 真っ赤になった顔を両手で覆い、消え入りそうな声でそう言う兄ちゃんの照れ方が可愛くて、今日はまだ週末じゃないけど

(今夜絶対兄ちゃんを抱くっ!)

 心の中でそう決めてしまう俺がいた。
 兄ちゃんに夏休みはなかったとしても、俺は明日から夏休みだ。ちょっとくらい羽目を外してもいいんじゃないかと。勝手な理屈を捏ねる俺だった


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