お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第五章 未知

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 遠山先生が兄ちゃんと職場の同僚以上の関係を築いている背景には、鵜飼先生のおかげであるところが大いにあるのだとは思う。
 だがしかし、鵜飼先生も兄ちゃんのことを好きでいる以上、遠山先生にとっての鵜飼先生は恋敵にもなるのである。
 俺に対するほどの敵対心はなかったとしても、いずれは排除したい存在であることは間違いない。
 何せ二人とも兄ちゃんを自分のものにしようと思っているんだから、それはどちらの中にもある感情に違いないはずなんだ。
 そして、その感情を垣間見ることができる目の輝きを放った遠山先生は

「おそらく、鵜飼は俺ほど神崎一筋というわけではないと思う。あいつは俺と違って恋愛経験が豊富だし、若い頃からいろんな女性と付き合ったことがあると言っていた。神崎のことも〈今は一番好き〉という言い方をしているし、他にいい相手ができれば、あっさりそちらに乗り換えるんじゃないかと思われる」

 俺相手にも饒舌になり、鵜飼先生について語り出した。
 きっと遠山先生の中にも〈二人より一人〉という思いがあるのだろう。
 鵜飼先生や遠山先生にとって、最も警戒するべきはお互いよりも俺で、その俺との決着に専念するためにも、もう一人の障害は早めに排除しておきたいという考えがあるのかもしれない。
 そのためには、まず一番厄介だと思う俺と協力して、もう一人の障害を排除するという作戦もアリだと思ったのかも。
 正直、俺は遠山先生と協力がしたいわけじゃないんだけど、それで障害が一つ減るのであれば、遠山先生との協力もやぶさかではない。協力した方がいいと思うところはある。
 結局は兄ちゃんを巡って争う相手ではあっても、最終的に俺が兄ちゃんをものにできればいいわけだから、それまでの過程はどうでもいいというか、最後に勝つのは自分であれば問題ないんだから。
 それに、恋愛経験豊富な鵜飼先生と、恋愛経験未熟な俺と遠山先生じゃ、どうしても恋愛経験豊富な鵜飼先生の方が有利なんじゃないかって不安があるもんな。
 俺が思うに、鵜飼先生と兄ちゃんは性格的に似ている部分があって、気が合う存在のような気がする。お互いに恋愛経験もあるから、あまり自分に固執しない鵜飼先生と一緒にいる方が、兄ちゃんも楽なんじゃないかって気がするよな。
 多少の面倒臭さは感じているみたいだけれど、鵜飼先生って好きな相手の扱いを心得ていそうだし、何だかんだと兄ちゃんも鵜飼先生といるのが楽しいのかもしれない。
 案外、酔った兄ちゃんがあっさり鵜飼先生からのキスに流されてセックスしちゃったのも、「鵜飼ならいっか」と思ったからなのかもしれないし。
 俺としては、「そこは流されるところじゃないからね」って全力で突っ込みたいところだけど。
 ちなみに、その兄ちゃんはというと

「真弥ぁ……。兄ちゃんちょっとねみぃから寝るなぁ~。後で起こせぇ……」

 唐突なおねむタイムがきてしまったらしく、俺の肩にもたれて目を閉じてしまった。

(こんなところで寝んなよ……)

 って思うし

(俺と遠山先生の会話には興味がないってこと?)

 ってことなんだろうか。
 だとしたら、ちょっと失礼な話でもあるが、別に兄ちゃんに聞いて欲しい話をしているわけでもない。
 むしろ、兄ちゃんにはこのまま眠っておいてもらった方が好都合といえば好都合だった。
 だって格好悪いじゃん。兄ちゃんを自分のものにしたいと思っている男二人が、協力してもう一人の恋敵を排除しようとする話をしているわけだから。そんな話を兄ちゃんには聞かれたくないって思っちゃうよな。
 だから、兄ちゃんにはこのまましばらくの間眠っていて欲しいと思う。そして、兄ちゃんが眠っている間に、現状が良くなる方法を思いつけたらいいと思う。

「そもそも、今まで女性としか付き合ったことがない鵜飼だ。いつまでも神崎との関係を続けるつもりがあるのかどうかも怪しい。そろそろ男の身体に飽きているかもしれないな」
「それはどうかなぁ……。前にあの人、一度兄ちゃんとシたら女より兄ちゃんの方がいい、みたいなこと言ってたけど」

 鵜飼先生に兄ちゃん以外のいい人ができたら、兄ちゃんからあっさりそっちに乗り換えるんじゃないか――という考えは兄ちゃんも一緒だった。
 だけど、今現在兄ちゃんとの関係を楽しんでいる鵜飼先生に、兄ちゃんの身体に飽きているだとか、誰か他の相手を探しているような気配はないんだよなぁ……。
 現状に満足しているわけではないけれど、飽き飽きしているわけでもないっていうか……。なかなか堕とせない相手を攻略するのを楽しんでいるって方がしっくりくるような気がする。
 男ならそういう相手の方が燃えそうだもんな。モテる男ほど、自分に堕とせない人間はいないと思っていそうだし。

「確かに、神崎の身体は最高だ。生憎俺は神崎以外の人間とシたことはないが、神崎の身体を知っていれば、他の人間の身体を知りたいとも思わない」
「……………………」

 何か遠山先生が俺と同じようなことを言っている。兄ちゃんで童貞を卒業した者同士、そういうところは同じ考え方をしてしまうものなのかも。
 でも、遠山先生がそう言っているのを聞いて、ちょっと気持ち悪いと思ってしまう俺がいた。
 自分ではなく、遠山先生がそう言うから気持ち悪いと感じるんだとは思う。
 つーかさぁ、あんま俺の前で兄ちゃんとシてるって話をしないで欲しいんだけど。俺、別に兄ちゃんと遠山先生の関係を認めているわけじゃないんだから。

「それはさておき、鵜飼が今現在どこまで神崎に本気なのかは俺も正直わからない。が、本来のあいつは一人の相手と末永く付き合うより、色々な相手との関係楽しみたいと思う男だ。新しい出逢いがあれば、あいつの神崎に対する気持ちも薄れると思うんだがな」
「うーん……。それはそれでちょっと複雑」

 鵜飼先生が兄ちゃんから手を引いてくれるなら、それは俺にとっても願ったり叶ったりではある。
 しかし、そんな花の蜜を求めて飛び回る蝶みたいに、気になる相手には片っ端から手を出すような人間なら、最初から兄ちゃんに手を出さないで欲しいと思っちゃうよな。
 鵜飼先生にとって兄ちゃんは数多くある恋愛経験の一つだったとしても、俺にとっては大事な兄ちゃんで、本気で好きな相手なんだから。

「まあ、その気持ちはわからなくもない。こっちは神崎に本気だからな。もし、あいつが軽い気持ちで神崎との関係を続けているのであれば、潔く神崎から手を引き、さっさと他に行けと思う。ただ、先程も言ったように、俺も鵜飼がどれだけ神崎に本気なのかはよくわからないから、本気だった場合は厄介だと思っている」
「まあ……そうっスよねぇ……」

 何かマジで本格的な作戦会議みたいになってきているけど、これといって具体的な作戦が出てくるわけではなかった。
 それというのも、俺や遠山先生には恋愛経験というものが全く無いから、恋愛的な戦略とか、恋の駆け引きというものが思いつかないんだろう。
 つまり、俺と遠山先生が手を組み、いくら話し合ったところで意味がないのでは? と思ったりもしたんだけれど

「とりあえず、今度あいつの好みというやつを詳しく聞いてみることにする。そして、その条件に合った人間を探し、その人間をあいつに紹介しようと思うんだが、どうだろうか」

 ようやく作戦っぽいものが提案されたから

「確かに、それくらいしかできることがないって感じですよね。でも、何もしないよりは確実にマシだと思います」

 俺はすかさずその提案に乗ることにした。
 実は俺もそうするしかないと思っていたんだけれど、俺が鵜飼先生に好みのタイプを聞いたところで、鵜飼先生はまともに答えてくれないだろうと思った。
 そうなると、その役は遠山先生に任せなくちゃいけなくなるわけだけど、遠山先生にはまだそこまで心を開いていない俺は、遠山先生に頼み事をすることに抵抗があった。
 だから、遠山先生の方からそういう提案をしてもらえて良かったと思う。

「正直、お前とこうして手を組むような真似をするのはどうかと思うが、背に腹は代えられないからな。最終的に俺が神崎と上手く行けば問題がないわけだから、しばらくの間は一時休戦としよう」
「……そうですね」

 やれやれ。そういう考え方も俺と一緒かよ。もしかして、俺と遠山先生って物凄く気が合ったりする?
 いや。そんなはずはない。だって俺と遠山先生の共通点とか全然見当たらないもん。
 しいて言うなら、二人とも兄ちゃんのことが好きってことくらいで、それ以外の部分で俺と遠山先生に似ている部分は皆無と言っても過言ではない。
 そもそも、本当に気が合う相手なら、いくら恋敵でも険悪になることはないもんな。
 一時休戦を決めた今は普通に接してくれているが、元々遠山先生は俺に対して冷たいし、辛辣だもん。おそらく、遠山先生は俺が好ましいタイプの人間じゃないと思っているんじゃないんだろうか。
 それでも、一度協力関係を結んだのであれば、目的を達成するまで、表面上では遠山先生といがみ合うわけにはいかない。
 それは俺にとってストレスを感じることにもなりそうだけど、幸い今は夏休み。
 そんなに遠山先生と顔を合わす機会もないことが救いだと思う俺だった。


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