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第六章 混戦
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しおりを挟む「正直、いつの間にお前と遠山がそんなに仲良くなってんの? って思ったけど、お前ら俺がいない間に真実ちゃんも含めて飯食いに行ったんだって? その時に〈打倒鵜飼〉って話で盛り上がったりでもしたか?」
「べ……別に……。そんな話で盛り上がってねーもん」
俺が兄ちゃんに誘われて、急遽遠山先生を含む三人で飯を食いに行ったあの日。鵜飼先生は陸上部の合宿で不在だったらしい。
何で鵜飼先生がいないんだろうって不思議に思ったけれど、合宿の引率じゃ仕方ないよな。そういう話を聞くと、鵜飼先生もちゃんと教師やってるんだってホッとする。
でも、俺達が三人で飯を食いに行ったことは内心面白くないと思っていそう。
自分だけ仲間外れにされたっていう不満ではなくて、〈俺も真実ちゃんと飯食いに行きたかった〉っていう不満は大いにあるんだろうな。
遠山先生がちょっとした自慢で鵜飼先生に話したのか。はたまた、合宿から帰って来た鵜飼先生が兄ちゃんに
『俺がいない間どうしてた?』
なんて聞いて、兄ちゃんが
『真弥や遠山と飯食いに行ったなぁ』
って話したのかどうかは知らないけれど。
どちらにしても、その情報は鵜飼先生に言わない方が良かったのでは? と俺は思う。
「あのぉ……お話し中申し訳ないんですけど、俺もいますよ?」
俺と日向しかいない教室に乱入してくるなり、日向の存在を無視して俺ばっかりに話し掛けてくる鵜飼先生のせいで、俺と日向の勉強は当然中断。最初はおとなしく聞き手に回っていた日向だけれど、一向に鵜飼先生の話が終わりそうにないことに居たたまれなくなったのか、とうとう俺達の会話に割って入ってきた。
俺は今、日向と真面目に勉強をしている最中なんだから、本来は鵜飼先生の相手なんかしなくてもいいはずだ。
いつまでも日向をほったらかしにしておくのも申し訳ないから
「そうだよっ! 俺達今勉強中なんだから邪魔すんなよっ!」
俺はここぞとばかりに日向の言葉に乗っかったつもりだったんだけど
「朝比奈がいることくらい知ってるわ。別に問題ないだろ? どうせ朝比奈はお前や俺達のこと知ってんだろうから」
鵜飼先生は全く怯む様子がなく、むしろ日向を巻き込んでもおかしくない言い種だった。
更に
「それとも、大事な友達に言ってねーの? お前と真実ちゃんのこと。大事な友達にも言えないようないけないことしてるって感覚なのか? だったら真実ちゃんのことは潔く諦めろ。言っとくけど俺、真実ちゃんとの関係を人に言えないいけないことだとか、恥ずかしいだなんて思ってねーから」
なんて俺を煽るようなことまで言われると、俺もおとなしく引き下がれないって気分になっちまうよな。
遠山先生と違って人付き合いに困ったことなんてなさそうな鵜飼先生は、人を挑発するのも上手いとみた。
(ほんと、対照的な二人だよなぁ……)
見た目や性格、兄ちゃんの愛し方、その全てが対照的だとしか思えない二人に、俺は
(何で兄ちゃんもこんな対照的な二人をセフレにしたのかな?)
と不思議に思う。
二人が似たようなタイプの人間なら、〈それが兄ちゃんにとって付き合いやすいタイプの人間なんだ〉って考え方もできるけど、こうもタイプが違う二人だと、兄ちゃんがどういうタイプの人間に惹かれるのかがよくわからない。
二人とも凜さんとはまた違ったタイプの人間だし。
「俺だって兄ちゃんとの関係をいけないことだなんて思ってねーし、恥ずかしいとも思ってねーよっ! でも、モラルってもんがあんだろ! 一般道徳ってもんは大事なのっ! 俺は良くても、他の人間はそれを聞いて不快に思うかもしれないじゃんっ! そういうことは進んで人に話すことじゃないと思えよっ!」
鵜飼先生の発言がまるで自分の方が兄ちゃんのことを好きだと言っているみたいに聞こえたから、俺も負けじと言い返してやった。
いつも言われっぱなしになるのも癪だから
「ってか! あんたは仮にも教師なんだから、そういうところは俺よりもっと慎重になんなきゃいけねーんじゃねーのかよっ! 言っとくけど俺、あんたのせいで兄ちゃんに何か不都合なことがあったら、あんたを絶対許さねーからなっ!」
結構生意気なことも言ってみたんだけど、鵜飼先生は相変わらず怯む様子がなく、余裕綽々の涼しい顔で
「そうなった時はちゃんと責任取ってやるって。もし、俺のせいで真実ちゃんが職を失うようなことになったら、俺が真実ちゃんを一生養ってやるから安心しな」
なんてふざけたことを言ってきた。
一見、格好いいことを言っているように思えるが
『その時はあんたも職を失うんだよ』
って言ってやりたい。
もし、何かの拍子で兄ちゃんと鵜飼先生の関係がバレてしまい、兄ちゃんが教師をやめることになってしまったら、兄ちゃんとそういう関係になっている自分にも同じ処分が下されることがわかっていないんだろうか。
むしろ、責任の問題でいったら先に兄ちゃんに手を出した鵜飼先生の方が罪は重い。兄ちゃんが処分を免れることはあっても、鵜飼先生が処分を免れることはないと思うんだけど。
端からそんなことにはならないと思っているから、ちょっと格好いいことを言ってみたかっただけなのか?
別に格好いいとは思わないし、兄ちゃんを養うのであれば、今まで散々兄ちゃんの世話になった俺が養うわ! ってなる。
「ちょっと気になるんですけど、どうして鵜飼先生は真実さんのことを〈真実ちゃん〉って呼ぶんですか?」
存在は認識してもらっていても、なかなか俺と鵜飼先生の会話に入れない日向。
それでも、鵜飼先生の口から何度も兄ちゃんのことを「真実ちゃん」と呼ぶ発言が飛び出すことが気になるのか、絶妙なタイミングでそこを突っ込んできた。
俺もいつか突っ込んでやろうと思っていた突っ込みを、日向が絶妙なタイミングで突っ込んでくれて良かったと思う。
「ん? だって可愛いだろ? 真実ちゃん。思わずちゃん付けしたくなる可愛さがあるじゃん」
鵜飼先生からの答えは至極単純なもので、ただ兄ちゃんが可愛いから、という理由だった。
「可愛い……ですか? 真実さんってどっちかというと格好いいイメージしかないと思うんですけど」
しかし、日向はその答えじゃちょっと納得がいかないらしく、眉間に皺を寄せ、首を傾げていたりする。
そりゃ日向にはわからないだろうな。日向にとって兄ちゃんは〈可愛い〉ではなく〈格好いい〉でしかないんだろうから。
昔からずっと言われていた。
『真実さんって格好いいよね』
って。
だから、いくら兄ちゃんの可愛さを日向に語ったところで、日向には兄ちゃんの可愛さがわからないんだと思う。
「ま、一般的にはそうなのかもしんねーけど、見る奴が見たら真実ちゃんはすげー可愛いんだよ。可愛過ぎてめちゃくちゃ甘やかしたくなっちゃう感じ」
「へー……」
できればその〈見る奴が見たら〉って人種に、鵜飼先生が当て嵌まらないで欲しかった。鵜飼先生は兄ちゃんのどこを見てそう思ったんだろう。
先日、遠山先生から聞いた話だと、鵜飼先生は兄ちゃんがこの学校に教師としてやって来た時から、兄ちゃんのことはそういう目で見ていたみたいだけど。
兄ちゃんが可愛いところには同意だし、そもそも顔がいい兄ちゃんに鵜飼先生が興味を持つのもわからないではない。
でも、顔の良さで言ったら、兄ちゃんと一緒にこの学校に来た遠山先生だって負けていないと思う。それなのに、鵜飼先生は遠山先生じゃなく兄ちゃんに惹かれた。
元々鵜飼先生の好みが遠山先生よりも兄ちゃん寄りだったからなんだとは思うけど、遠山先生は兄ちゃんと違って美人だから、男ならそっちに惹かれるのが普通って感じがするよな。
「真実ちゃんって猫みたいなところあるじゃん? ぱっちりしたつり目だし、髪の毛柔らかくてふわふわしてるし。性格的にも気分屋でツンデレってやつじゃない? 素っ気ないかと思ったら、めちゃくちゃ甘えてくることもあるしさ。あと、意外に甘えたがりで寂しがり屋なのかな? って思うところもあるから、そういうところを知れば知るほど沼るんだよ」
「はあ……」
いくら兄ちゃんの魅力を伝えてみたところで、日向にはその全てが「誰の話?」って思えて仕方がない顔だった。
しかし、俺の方は「もういい」って気持ちになるし、鵜飼先生に兄ちゃんを語って欲しくないと思ってしまう。
鵜飼先生が兄ちゃんの魅力を語れば語るほど、兄ちゃんが鵜飼先生の前でいろんな姿を見せていることがわかっちゃうし。
俺も兄ちゃんとセックスするようになってから、今鵜飼先生が言ったような兄ちゃんの魅力を知ることができた。兄ちゃんとそういう関係にならないと、兄ちゃんのそういう一面が見られないってところがもう……。
兄ちゃんと鵜飼先生の関係を確固たるものにするような気がして物凄く不快だ。
まあ、兄ちゃん本人も認めている関係だから、今更そこは疑いようがない関係なんだけどな。
それにしても、俺の前で兄ちゃんとの関係を仄めかすような発言は本当にやめて欲しい。俺、マジでそういう話って全っっっ然聞きたくねーから。
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