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第六章 混戦
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しおりを挟む八月になると与一の補習も終わり、俺と日向が与一に付き合って学校に行く必要はなくなった。
が、俺と日向は相変わらず学校に通う日々を送っていたりする。
理由はもちろん、俺は兄ちゃんと一緒にいるためだし、日向は上村先生に会うためだ。
せっかくの夏休みだからたまには遊びに行くこともあるし、用がなくても「今日は家でゆっくりしよう」って日もあるけれど、特にこれといって用事がない俺は、家の中で一日のんびり過ごしているよりも、学校に行って勉強している方が充実した時間を過ごせると思ってしまう。
行かなくてもいい学校に足繁く通う自分に、「俺って結構真面目なんだ」なんて、我ながらちょっとびっくりなんだけど、学校に通う理由が〈兄ちゃんと一緒にいたい〉だからなぁ。そこは真面目かどうかの判断が難しいところである。
でもまあ、学校に行けばちゃんと勉強しているわけだから、そこは真面目で間違いないと思う。おかげで夏休みの宿題ももう終わりそうだしな。
宿題が終わったら、今度は受験に備えた勉強をしようと思っている。
実は俺、将来は兄ちゃんと同じ教師になりたいと思っている。そして、大学は兄ちゃんが通っていたところと同じ大学に行きたいと思っている。
兄ちゃんの通っていた大学はレベルが高いうえ、兄ちゃんは数学教師だけど、数学以外の教科も普通にできちゃうからなぁ。
俺が数学以外でわからないところがあっても、兄ちゃんは俺の質問に全部答えてくれるし、わかりやすく教えてくれる。
だから、俺も兄ちゃんみたいにオールマイティーな教師を目指しているんだけど、そのためにはまだまだ勉強が足りないって感じなんだよな。
ちなみに、日向も将来は教師を目指すつもりらしい。
元々人の面倒を見るのが好きで、人の役に立つ仕事をしたいと思っていた日向は、上村先生と出逢うまでは医療関係や福祉関係、保育士なんかに興味があったみたいだけれど、上村先生と出逢ってからは「教師もいいかも」と思うようになったらしい。
二人とも思いっきり好きな人に影響を受けているって感じだけど、好きな人と同じ道に進むことで、好きな人のことがより一層わかる気がするし、好きな人と同じ景色を見てみたいっていう願望もある。
まだ兄ちゃんには言っていないけれど、夏休み前に進路希望相談なんてものがあったから、担任の上村先生にはそれとなく俺の進路を伝えている。
もしかしたら、上村先生経由で兄ちゃんの耳にも入っているかもしれないけど、兄ちゃんからはそれっぽい話をまだされていない。
上村先生が内緒にしてくれているのか、知っているけど俺に聞くのが恥ずかしいのかはわからない。
でも、そのうちそういう話もするだろう。来年は俺も受験生だから、俺と兄ちゃんの間で嫌でも進路の話は出るものだしな。
それはさておき
「何かさぁ、最近やたらと遠山が俺の好みを聞いてくるんだけど、あれって何なの? あいつ、真実ちゃんに飽きて俺のことが好きになったの?」
何で鵜飼先生が俺と日向が勉強している教室にやって来て、俺にそんな話をしているんだろうか。
っていうか、遠山先生は一体どんな聞き方してんの? 何かえらい誤解されてない? 薄々感じてはいたけど、遠山先生ってコミュニケーション下手かよ。
「さあ? そういうことじゃないと思うけど……。ってか、何であんたがうちのクラスに来てんだよ」
鵜飼先生は陸上部の顧問という仕事がある。夏休み中に学校にいてもおかしくはないんだけれど、グラウンドではなく、生徒が自習している教室に顔を出すのはおかしいだろ。仕事しろよ、仕事。
それに、今日の陸上部はどうやら部活が休みらしく、グラウンドに陸上部の姿はなかった。
部活が休みなら、鵜飼先生も今日はゆっくり休めばいいのに。
こういっちゃ何だけど、体育教師って他の先生に比べて授業の準備とかあんましなくて良さそうだし、授業以外の時間は何をしているんだろう? って不思議だよな。
あまり頭を使うこともなさそうだし、時間的に余裕がありそうに思う。だから、学校で兄ちゃんとエロいことばっかしようと考えているのかもしれない。
実際、体育教師の仕事がよくわかっていない俺は、物凄く失礼なことを考えているだけかもしれないけれど。
「俺が今は真実ちゃんに夢中だってわかってる癖に、何でそんな質問? て感じなんだよな。あいつ、何か企んでたりすんの?」
「俺に聞くなよ。俺、遠山先生と仲良しでもねーんだから」
誤解されているし、思いっきり不審がられてるじゃん。
俺が聞いてもまともに答えてくれないと思ったから、鵜飼先生から好みを聞き出す役は遠山先生に任せてみたが、遠山先生に任せたのは失敗だったのかも。
鵜飼先生の言い方からして、遠山先生が相手でも鵜飼先生は遠山先生の質問にちゃんと答えていないって印象を受ける。
まあ、俺と同じく遠山先生も鵜飼先生にとっては恋敵だもんな。敵に有利な情報を進んで与えたりはしないんだろう。
というより何より、この人、今ここに日向がいること忘れてない?
俺と兄ちゃん、鵜飼先生や遠山先生と兄ちゃんの関係は、一応日向が知らないことになっているはずなんだけど。
相手が日向だからいいと思ったのか? 夏休み中も学校に来て、俺と一緒に勉強している日向なら、俺達の関係も知っていると思ったのか?
実際にそうではあるけれど、だからって当たり前のように日向の前でそういう話をするか? 話す前に、まずは探りとか入れるものじゃない?
それとも、何かの拍子に日向と上村先生の関係を知っちゃったとか?
鵜飼先生と上村先生は同期で仲がいいっていうし。上村先生は兄ちゃんと鵜飼先生の関係を知っているから、自分と日向の関係も鵜飼先生にバレちゃったのかな?
でも、それだったらまず日向に上村先生との関係を確認する方が先って気がするよな。
それに、生徒としての日向の立場を守ることを最優先しそうな上村先生が、鵜飼先生に日向との関係を素直に認めるとも思えない。
ってことは、鵜飼先生は別にバレてもいいと思っているんだ。俺と兄ちゃん、自分と兄ちゃんの関係が他の生徒に知られても構わないと思っているんだ。
それはとんでもなく危険な思考で、自分の身を滅ぼす可能性もあるっていうのに。
自分は生徒から人気のある先生だから、ちょっとしたスキャンダルなら許されるとでも思っているのか?
世の中そんなに甘くねぇんだよ。たとえ生徒が許しても、学校側は許さねぇだろ。体育教師だけあって脳筋なのか? もうちょっと自分の立場や兄ちゃんの立場ってものも考えてくれよ。
あと、俺の立場も。
先生同士の色恋沙汰なら、百歩譲って職場恋愛ってことで済まされるかもしれないけど、こっちは近親相姦だぞ。どう考えてもドン引きされる案件じゃねーか。
「もしかして俺の好みを聞き出して、俺に真実ちゃんのこと諦めさせようとしてる? で、お前もそれに一枚噛んでたりすんの?」
「っ⁉」
何かバレてるっ⁉ 鵜飼先生がいないところで、俺と遠山先生が立てた些細な計画が、鵜飼先生に勘付かれちゃってる⁉
(何でそんなにあっさりと⁉)
と焦る俺。
でも、よくよく考えてみればそう思うのが普通だ。
遠山先生の聞き方が良くなかったのもあるんだろうけど、今現在、兄ちゃんを巡ってライバル関係にある人間から好みを聞かれれば、そういう相手を自分にあてがい、自分を排除しようとしているんだって誰でも思うよな。
恋愛経験の少ない俺や遠山先生の思いつくことなんて所詮その程度のものだったってことだ。計画にもなっていないのかもしれない。
ぶっちゃけ、俺だって最初から上手く行くとは思っていなかったけれど、それでも〈ちょっとでも兄ちゃんを取り巻く環境が変われば〉って期待したくなっちゃうじゃん。こっちは何が何でも兄ちゃんをものにしたいと思っているんだから。
「やっぱそういうことか。ま、いきなり遠山に〈お前の好みを詳しく聞かせろ〉なんて言われたら、そういうこと考えているとしか思えないもんな。何で? って聞いたら、お前が知りたがってるっつってたし」
「……………………」
何で俺が一枚噛んでることまで気付かれているのかと思ったら、遠山先生が普通にバラしていやがった。
そこで俺の存在を出したらバレるわ。そんなこと言ったら、鵜飼先生も好みなんて教えてくれなくなんだろ。
俺だってもう少しマシな聞き方ができたと思うのに、遠山先生ってほんとダメだな。日頃からあんま人と関わらないからそうなるんだ。遠山先生はもっといろんな人と交流を深めて、人付き合いが上手くなった方がいいと思う。
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