お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第六章 混戦

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 去年の夏休みは、俺もまだ兄ちゃんと鵜飼先生や遠山先生の関係を知らなかったし、俺自身も兄ちゃんとは普通の兄弟の域を出ていなかったから、極々普通の高校生男子の夏休みを過ごしていた。
 当然、兄ちゃんと一緒にいたいから――という理由で夏休み中に学校に行くこともしなかった。
 でも、去年の今頃には兄ちゃんはもう鵜飼先生や遠山先生と今みたいな関係になっていたから、俺の目がないのをいいことに、あの二人は兄ちゃんとヤりたい放題の夏休みを送っていたのかもしれない。
 そう思うと、どうしても許せないって気持ちが込み上げてくるんだけど

「ふぅ~ん。じゃあ酔った真実ちゃんがどうなっちゃうのかを知ったわけだ。酔った真実ちゃんってめちゃくちゃエロ可愛いだろ?」
「ま……まあ……」

 何で俺はまたしても、恋敵である鵜飼先生を含む兄ちゃんと三人で飯なんか食ってんだろうなぁ……。ほんと、今年の夏休みはちょっと異常だ。普通、学校の先生とプライベートで一緒に飯なんか食いに行かないだろ。
 まあ、そもそも兄ちゃんを巡って争う俺達三人の関係が既に異常だから、俺の日常が異常になってしまうのも無理はないってことなのかな。
 俺はできれば兄ちゃんと二人だけで、平和な毎日を過ごしたいのに。

「つーか、遠山も馬鹿だな。何もするなっつって何もしないわけないのに。俺だったら絶対酔った真実ちゃんにくっついて帰るけどな」
「そんなこと、俺が許すとでも思ってんの?」

 今回は前回の居酒屋と違って、知る人ぞ知るって感じの隠れ家的お洒落なレストランでの食事だった。
 鵜飼先生ってこういう店をいっぱい知っていそうだよな。
 店内の雰囲気はいいし、料理も美味しくていいんだけど、会話の内容は前回と同じっていうか、結局は恋バナないし下ネタって感じである。
 鵜飼先生や遠山先生って兄ちゃんと仕事の話はあんまりしないのかな? 三人共受け持つ教科が違うから、仕事の話はお互いに盛り上がらなかったりするんだろうか。
 それとも、鵜飼先生や遠山先生にとって兄ちゃんは好きな人になるわけだから、仕事の話をするより、そういう話ばかりしていたいのかも。
 別に三人でどういう話をしていようが俺は構わないけれど――できれば俺の話はしないで欲しいけど――、俺がいるのに恋バナや下ネタばっかりっていうのもなぁ……。気まずいというよりはムカつくからやめて欲しいと思う。

「お前なぁ……。そんな話をするために俺達兄弟を飯に誘ったのかぁ? 真弥は一応まだ高校生なんだから、あんまそういう話に巻き込まねぇで欲しいんだけど」

 ご機嫌な鵜飼先生とは対照的に、俺が始終微妙な顔をしているからか、兄ちゃんが助け舟を出してくれた。
 ところが、鵜飼先生の反応はというと

「出た。真実ちゃんの過保護。真実ちゃんってほんと弟に甘いっていうか、弟のことになると口煩い母親みたいだよな。ま、そこが真実ちゃんのいいところだと思うけど」

 やはり反省の色はなく、兄ちゃんと話せること自体が楽しいみたいな顔をしていた。
 体格が良く、顔も整っている鵜飼先生の笑顔を見ると、女にモテるのは理解できる。
 そして

「母親っつーよりは父親のつもりなんだけどな」

 兄ちゃんも鵜飼先生の笑顔を見ると照れ臭い気持ちになるのか、鵜飼先生からさり気なく顔を背けていた。
 二人のセフレの顔がいいことは兄ちゃんも認めているところだと思う。だから、女なら誰でもキュンとしたり、ドキッとするような表情に、兄ちゃんもキュンとしたりドキッとしたりしているんだと思う。
 俺の場合はどうなんだろう。兄ちゃんって俺にキュンとしたり、ドキッとすることってあるのかな?
 子供の頃からずっと見ている顔だから、今更兄ちゃんが俺にキュンとしたり、ドキッとすることなんてないのかもしれない。
 俺は兄ちゃんのふとした表情にドキッとしたり、キュンとしているから、兄ちゃんのこともドキッとさせたり、キュンとさせたりしたいんだけどなぁ……。

「うーん……真実ちゃんはどっちかっていうと母親寄りかな。家事得意だし。子供の世話をあれこれ焼いてあげるのってやっぱ母親じゃん? あと、真実ちゃん可愛いから父親より母親」
「何だそりゃ。可愛いは関係ねーだろ」

 ふーん……。鵜飼先生って兄ちゃんが家事得意なことを知っているんだ。それって鵜飼先生が兄ちゃんの家庭的な一面を見たことがあるってことなのかな?
 たとえば、兄ちゃんの手料理を食べたことがある――とか。
 一体どういうタイミングでそんな状況になったのかは知らないけれど、去年までの何も知らない俺なら、兄ちゃんが鵜飼先生とどこで何をしているのかなんて考えたことなかったもんな。いくらでもそのチャンスはあったわけだ。

「お前はほんといいよな、真弥。毎日真実ちゃんの手料理が食えて、真実ちゃんにあれこれ手を焼いてもらえてさ。俺も真実ちゃんにそういうのして欲しいわ」

 でもって、急に俺に絡んでこないで欲しい。そんなこと言われても、俺と兄ちゃんは家族で、一緒に住んでいるんだから仕方ないじゃん。
 兄ちゃんは俺の兄ちゃんだから、自分が弟の世話を焼くのは当然だと思っているみたいだし。
 それに、最近は俺も兄ちゃんにちょっとずつ料理とか教えてもらっているから、俺ばっかりが兄ちゃんに世話を焼かれているわけでもない。俺が兄ちゃんの代わりに朝飯を作ることだって増えてきているんだからな。
 兄ちゃんとセックスした翌朝は、兄ちゃんもちょっと疲れているから、そういう日はなるべく俺が朝飯を作ってあげることにしている。
 俺が朝飯を作ると兄ちゃん喜ぶし。兄ちゃんが喜ぶ顔を見たら、「また作ってあげたい」って気持ちになる。
 だから、最近の俺は兄ちゃんに手を焼かせているだけでもないんだよな。

「一緒に住んでる家族なんだから当然だろ。俺の方が兄ちゃんなんだから、俺が弟の面倒を見るのも普通だし」

 前回の失敗があるからか、今日の兄ちゃんは酒を飲んでいなかった。
 相手が鵜飼先生になると、酔った自分を見て〈早く家に帰して休ませてやろう〉なんて思ってくれないだろうから、警戒しているのかもしれない。
 鵜飼先生もさっき言ってたもんな。

『俺だったら絶対酔った真実ちゃんにくっついて帰るけどな』

 って。
 そんな発言をする人間の前では、いくら危機管理能力低めの兄ちゃんでも、さすがに警戒するよな。

「ところでさ、真実ちゃんって相変わらず誰とも付き合う気ないの?」

 何かデジャヴ。この前の遠山先生も似たようなこと言ってたよな。兄ちゃんとそろそろ正式に付き合いたいとか何とか。
 やっぱ俺が加わったことで、若干の焦りみたいなものがあるんだろうか。
 それとも、もう一年以上もこういう関係を続けているんだから、いい加減付き合うで良くない? って感じなのかな。
 ぶっちゃけ、俺だってそう思うところはある。定期的にセックスしている仲なんだから、付き合うでいいじゃん。って常に思っているけどな。
 だけど、兄ちゃんからの返事は相変わらずで

「ねぇな」

 という、素っ気ないものだった。
 あくまでも男同士はセフレ止まりって関係を貫きたいらしい。
 一体どうすれば、兄ちゃんが男相手に〈付き合おう〉って気持ちになってくれるんだろう。兄ちゃんが俺達三人のうちの誰かを、恋愛的な意味で好きだと思えば付き合ってくれるんだろうか。
 でも、セックスしてもそういう感情が芽生えてこないみたいだから、兄ちゃんに惚れてもらうのは相当難易度が高いってことだよなぁ……。
 こうなったら、以前兄ちゃんが言っていた大学の先輩って人に会ってみたい気もするけれど、今兄ちゃんがその人に会って、その人のことを「好き」とか言い出したら堪ったものじゃない。やっぱここは自力でどうにかして、兄ちゃんを俺に惚れさせるしかないよな。

「だってさ、真弥。お前の兄ちゃんもなかなか強情だよな」
「それについては同感」

 何か俺、急に鵜飼先生から下の名前で呼ばれ始めたんだけど、一緒に飯食いに行ったら名前呼びになるの?
 元々鵜飼先生は遠山先生に比べたら俺に対してフレンドリーなところがあったから、そういう展開になってもおかしくないっちゃおかしくない。
 ただ、何の前触れもなくいきなり距離を縮めてこられると、こっちは心の準備ができていなくて少し戸惑う。
 しかし、兄ちゃんが強情だという意見には賛成だ。
 ほんと、どうして〈付き合う〉って選択がないんだろう。兄ちゃんがその選択をしないから、俺達三人の関係も相変わらずで、混戦状態が続いてるっていうのに。


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