美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
4 / 131
肉のパン包みフリッターガーリック風味

肉のパン包みフリッターガーリック風味3

しおりを挟む
 レゼナはポンと手を叩いて、その案に大いに喜んだ。

「いいと思いますよ。あそこの炉は立派だし、部屋も広いもの。それに時々、旅人が勝手に廃屋に泊まるじゃないですか。あれはちょっと嫌だったのですよ。それならばしっかり宿に泊まってもらって、ついでにお金を落としてもらいましょう」

 三人は揃ってドクの家に入って行き、レオは入口近くに持ってきた斧を立て掛けた。

 この家はレオの住まいと広さは変わらず、しかしベッドが四つもあるので、こちらの方が感覚的に息苦しくなるほど狭かった。それに炉の前に置かれたテーブルも、スツールが五つあるので通るのも座るのも大変そうなのだ。

「もう暖かいのだし、宿屋の戸や窓がなくたって死にはしないわ。ご飯は直ぐにでもあちらで食べましょう」

 腕まくりをしたレゼナが腰に手を当てて、テーブルを眺めた。

「とはいえ、今はお腹ペコペコ。食べてからよね。あちらの炉はそれは立派なのだけど使うとなると煤払いやら掃除やらしなくちゃならないし」

 レオはスツールを一つ引いて腰を掛け、アリシャに座るようテーブルを叩いた。

「とにかくシーツとかけるもの、うつわ類は買ってこなければならないな。あとは下着か」

 座ったアリシャを見ながらレゼナがテキパキと木皿を出し、そこにパンを乗せていく。

「私が隣村まで行ってきますよ。アリシャはまず家というか塔を整えて、男性陣に手伝って貰ってベッド作って貰いなさいな」

 言い終えるとくるりと身を翻し、次は樽から燻製肉を取り出してそれも器に乗せてテーブルの上に置く。

「扉が外れていたから、あれを直して……ああ、階段もついでに板で囲って登り口だけシーツを上から垂らせば幾分風も遮れるだろう」
「じゃあシーツを二枚手に入れましょう」
「レゼナさん、お代をお渡しします」
「後払いでいいわよ。めいいっぱい値切って来るわね」

 話しながらなのに、レゼナの手は止まることをしらない。木のカップを人数分出すと、そこに次々とミルクを注いでいく。注ぎ終わったものを各スツールの前に置いて、とうとうレゼナも腰を下ろした

「いつもなら待つところですけど、食べましょう。忙しい一日になるわ」

 レゼナは提案ではなく宣言すると、神への祈りもササッと済ませてパンを一つ取り上げる。

「そうだな。アリシャ、食べなさい」

 立場はレオの方が上なのだろうが、はっきりとした上下関係はないのだろうとアリシャは感じながら頭を下げて丸いパンを取り上げた。
 レオもパンを取るとちぎり始めた。

「こんな時にエドったら森にいってしまうのだから……今日はえんどう豆を植えるから手伝いなさいってドクに言われたんですよ。あの子は農作業が嫌いだから困るわ」

 レゼナの話に耳を傾けながらパンを齧ったアリシャは思わず動きを止めていた。

 手に持ったパンはライ麦パンのはずだ。色合いや匂いからしてもライ麦パンそのものなのに、口の中にあるのは味のしないパサパサとした何かだった。

 困ったアリシャはカップに入ったミルクでとにかくそれを流し込んだ。

「んー、バレちゃったわね。私って料理がとことん苦手なのよ」

 アリシャが驚いて顔を上げると、苦笑したレゼナがアリシャを見ていた。

「あの、そうじゃなくて……慌てて食べたから──」
「いいの、いいの。本当に美味しくないわ、私のパン。アリシャはお料理得意?」
「あ、はい。毎日私が作っていました」
「それは最高! こうしない? 料理はアリシャにしてもらうことにして、私は服や靴を縫うわ。そっちは得意中の得意なのよ」

 レゼナの顔が突然母のものに取って代わり、笑いかけてこう言った。

「おかしいわね? 私が産んだ子なのに料理が得意で針仕事がダメだなんて。私とまるっきり逆。これは神様が足らないところを補うようにアリシャを私に授けてくださったのね」

「──アリシャ? 何か気に触ったかしら?」

 唐突に引き戻された現実に傍と目を瞬かせて、慌てて首を振った。母の面影、懐かしい言葉の数々を追い払った。
「いえ、お役に立てるなら喜んでやらせていただきます。私はお針が好きじゃないので、お料理やらせてください」

 にっこり微笑んだレゼナは手にしていたパンを口に放り込んであっという間に飲み込んでみせた。

「こうして味を感じない方法を習得しちゃうくらい美味しくないし、嫌な仕事から解放されるなんて踊りたくなるほど嬉しいわ」

 ねぇ、レオ様なんて話を振るから、レオは答えに窮して「得手、不得手はあるからな」とお茶を濁した。

「んー、なんだもう食べていたのか。急いで戻ったのに」

 戸口に立ったドクが桶を置いて言う。その後ろにはウィンが控えている。

「忙しくなりそうだったから。それより聞いて頂戴! 今日から料理はアリシャがやってくれるのよ。最高じゃない? みんな私のまずい料理から解放されるのよ」

 手が空いたので被っていた麦わら帽子を取り、それを壁に掛けたドクはハハハと短く笑う。

「お前は作るの嫌がってたもんなぁ、そりゃおめでとう。まぁ、俺はお前の料理も嫌いじゃないがな」

 スツールに座った二人にレゼナはパンを出した。

「私は嫌だわ。美味しいものを食べて満足して寝れば、どんなに疲れた日でも幸福に満たされて終わるってものよ」

 パンを食べきったレオが肉を摘んでミルクを飲み干す。

「飢えないだけでも御の字だ。さて、木を切ってこよう。ベッド用の藁を都合してやってくれ」

 立ち上がったレオを見上げてドクが返事をする。

「天気もいいし、風にさらしておきましょう。ベッドの枠を作る終えてから塔に藁を運んでも遅くはないでしょうし」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

処理中です...