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トリの柔らか煮込み
トリの柔らか煮込み6
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腑に落ちないエドをドクが無言で背を押した。この話はこれで終わりにしようという合図だった。
レオは自分の家の方へと戻り、ドクはリアナを呼びに行った。
エドはドクの後ろ姿を見送りながら、こんなことになるなら狩りに行きたいなどと言わなければよかったと後悔していた。出発前は久しぶりの狩りに気持ちが踊っていたが、大人しくジャンの家を改修していればアリシャは苦しまなかったのだ。
(アリシャを連れて行かなければこんなことにはならなかったのに……)
連れて行けと言われて面倒だとも感じたのは確かだが、心のどこかでは楽しんでいたのも事実。
(たまにはスリと一緒に居たいだろうとか、余計なことだったな)
アリシャの涙を見てからは全てが後悔へと繋がっていく。
このままジャンの家に向かおうとしたが、猪や野鳩がそのままだったことに気が付き、家畜小屋の方へと方向転換した。
獲った獲物を捌くのはいつもなら誇らしい気持ちになるが、今回ばかりは全くだ。寧ろあの猪が忌々しい。
(さっさと吊るすか)
アリシャの涙がチラつくのを振り払うように石の敷かれた道を駆け出していった。
顔をしっとりとしたものが行き来する。それからふわりと時々風を感じていた。
アリシャは重い瞼を押し上げると、ココがアリシャの顔を一心に舐めていた。
「ココ……ちょっと……わかった、待って」
肘をついてベッドから起き上がると、ココはアリシャのベッドから飛び降りて部屋の中をぐるぐる回り始めた。これはトイレの合図で外に出してほしいときにやる動作だった。
ベッドから這い出ると靴を履いた。そこで自分が服を着たままであったことに気がついた。
(あれ? そういえば私はエドと森に行ったはずなのに)
扉を開けてやるとココは外へと飛び出していった。
(あ……エド! そう、エドが猪に襲われそうに──)
「起きたのね! 良かった!」
料理部屋へと繋がる扉が開いていて、そこからリアナが顔を出した。ひどく安堵した顔にアリシャの方が面食らう。
「あの、私……寝ていたのね。どうして寝ていたの?」
「森から戻ってきた時に気を失っていて、そのまま目を覚まさなかったから……でも、レオさんの苦い気つけ薬を飲んだからそのうち目覚めるよってドクさんが」
言われてアリシャは驚くほど苦いものを飲まされた記憶が戻って顔を顰めた。
「なんだか不味い感覚だけ残ってる……」
そこで調理用の大きなスプーンを持っていたリアナが「あ!」と声を上げ、調理部屋の奥へと消えていった。何事かと思いアリシャも部屋に入っていくとリアナがスプーンで鍋の中身をかき混ぜていた。
「私、今日はアリシャの代わりにご飯を作ることになったの。と言ってもこれしか作れないんだけど」
リアナが真面目な顔でかき混ぜている鍋の中身をアリシャも覗いてみた。
立ち昇る湯気にミルクの香りとスパイシーな香りが乗っている。
「美味しそうね。ミルクで煮たのね? 肉と玉ねぎに人参かしら」
スプーンで具材を掬い上げたリアナが「本当は冬によく食べたんだけど、私はこれしかレシピがわからないから」と言う。
掬い上げられた玉ねぎは少し焦げた跡があり、クタクタになっている。
「炒めたの?」
「そう。玉ねぎと小麦粉を入れて焦がさないように炒めてから更に肉を入れて炒めるの」
「味見してもいい?」
そのままスプーンを顔の近くに持ってきてくれたから、アリシャはほんの少し舐めてみた。
「美味しい。美味しいわね。お母さんの味?」
リアナが破顔して頷いた。
「私の大好物だから作り方を教えてもらったんだぁ。良かった、聞いておいて……」
嬉しそうな顔が曇ったのでアリシャはリアナを抱きしめた。
「きっとどこかで元気にしてるわよ。リアナが元気にしてればご家族は喜ぶわ」
これはレオに言われたことの受け売りだが、リアナはアリシャの胸の中で頷いた。
気を取り直して鍋を混ぜ始めたリアナに肉は何を使ったのか聞いてみた。見た目的には判断すればウサギかトリのようだが。
「野鳩よ。狩りで獲ってきたって」
野鳩。アリシャは口の中で繰り返していた。そういうこの辺りで獲れるものは獲らないとエドは話していたと記憶している。
「本当の狩りの収穫は猪よ。とても大きな猪。猪は捌くのに時間が──」
リアナの声が遠のいていき、アリシャはあの時の景色を思い出した。
(そうだ、エドが襲われそうになって──)
「リアナ! エドは? エドはどうしてる? 怪我は?」
「え? どこも怪我してなかったわ。あ、アリシャ!」
リアナの答えは聞こえていたが、アリシャは居ても立っても居られず、外へと飛び出していった。
(だってあんなに大きな猪なのに! 無傷なわけないわ。だって、だって……あんなに間近に迫って)
戸口の近くに居たココがアリシャを見つけて嬉しそうに走ってきた。
「ココ、エドはどこかしら? あーもう、こんな時ココが話せたら!」
家畜小屋まで来ると丁度ウィンとレゼナが話しながら出てくるところだった。
「あら、アリシャ。目が覚めたのね。今から宿屋に行ってご飯にしようと思っていたのよ」
「大丈夫かい? そんな息を切らせて……また気を失わないかい?」
レオは自分の家の方へと戻り、ドクはリアナを呼びに行った。
エドはドクの後ろ姿を見送りながら、こんなことになるなら狩りに行きたいなどと言わなければよかったと後悔していた。出発前は久しぶりの狩りに気持ちが踊っていたが、大人しくジャンの家を改修していればアリシャは苦しまなかったのだ。
(アリシャを連れて行かなければこんなことにはならなかったのに……)
連れて行けと言われて面倒だとも感じたのは確かだが、心のどこかでは楽しんでいたのも事実。
(たまにはスリと一緒に居たいだろうとか、余計なことだったな)
アリシャの涙を見てからは全てが後悔へと繋がっていく。
このままジャンの家に向かおうとしたが、猪や野鳩がそのままだったことに気が付き、家畜小屋の方へと方向転換した。
獲った獲物を捌くのはいつもなら誇らしい気持ちになるが、今回ばかりは全くだ。寧ろあの猪が忌々しい。
(さっさと吊るすか)
アリシャの涙がチラつくのを振り払うように石の敷かれた道を駆け出していった。
顔をしっとりとしたものが行き来する。それからふわりと時々風を感じていた。
アリシャは重い瞼を押し上げると、ココがアリシャの顔を一心に舐めていた。
「ココ……ちょっと……わかった、待って」
肘をついてベッドから起き上がると、ココはアリシャのベッドから飛び降りて部屋の中をぐるぐる回り始めた。これはトイレの合図で外に出してほしいときにやる動作だった。
ベッドから這い出ると靴を履いた。そこで自分が服を着たままであったことに気がついた。
(あれ? そういえば私はエドと森に行ったはずなのに)
扉を開けてやるとココは外へと飛び出していった。
(あ……エド! そう、エドが猪に襲われそうに──)
「起きたのね! 良かった!」
料理部屋へと繋がる扉が開いていて、そこからリアナが顔を出した。ひどく安堵した顔にアリシャの方が面食らう。
「あの、私……寝ていたのね。どうして寝ていたの?」
「森から戻ってきた時に気を失っていて、そのまま目を覚まさなかったから……でも、レオさんの苦い気つけ薬を飲んだからそのうち目覚めるよってドクさんが」
言われてアリシャは驚くほど苦いものを飲まされた記憶が戻って顔を顰めた。
「なんだか不味い感覚だけ残ってる……」
そこで調理用の大きなスプーンを持っていたリアナが「あ!」と声を上げ、調理部屋の奥へと消えていった。何事かと思いアリシャも部屋に入っていくとリアナがスプーンで鍋の中身をかき混ぜていた。
「私、今日はアリシャの代わりにご飯を作ることになったの。と言ってもこれしか作れないんだけど」
リアナが真面目な顔でかき混ぜている鍋の中身をアリシャも覗いてみた。
立ち昇る湯気にミルクの香りとスパイシーな香りが乗っている。
「美味しそうね。ミルクで煮たのね? 肉と玉ねぎに人参かしら」
スプーンで具材を掬い上げたリアナが「本当は冬によく食べたんだけど、私はこれしかレシピがわからないから」と言う。
掬い上げられた玉ねぎは少し焦げた跡があり、クタクタになっている。
「炒めたの?」
「そう。玉ねぎと小麦粉を入れて焦がさないように炒めてから更に肉を入れて炒めるの」
「味見してもいい?」
そのままスプーンを顔の近くに持ってきてくれたから、アリシャはほんの少し舐めてみた。
「美味しい。美味しいわね。お母さんの味?」
リアナが破顔して頷いた。
「私の大好物だから作り方を教えてもらったんだぁ。良かった、聞いておいて……」
嬉しそうな顔が曇ったのでアリシャはリアナを抱きしめた。
「きっとどこかで元気にしてるわよ。リアナが元気にしてればご家族は喜ぶわ」
これはレオに言われたことの受け売りだが、リアナはアリシャの胸の中で頷いた。
気を取り直して鍋を混ぜ始めたリアナに肉は何を使ったのか聞いてみた。見た目的には判断すればウサギかトリのようだが。
「野鳩よ。狩りで獲ってきたって」
野鳩。アリシャは口の中で繰り返していた。そういうこの辺りで獲れるものは獲らないとエドは話していたと記憶している。
「本当の狩りの収穫は猪よ。とても大きな猪。猪は捌くのに時間が──」
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「え? どこも怪我してなかったわ。あ、アリシャ!」
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(だってあんなに大きな猪なのに! 無傷なわけないわ。だって、だって……あんなに間近に迫って)
戸口の近くに居たココがアリシャを見つけて嬉しそうに走ってきた。
「ココ、エドはどこかしら? あーもう、こんな時ココが話せたら!」
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