美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
52 / 131
トロリ秋の恵みのカルツォーネ

トロリ秋の恵みのカルツォーネ2

しおりを挟む
「エドのこと?」

 飛び出したキノコを拾うとカゴに投げ入れてユーリが唐突にエドを出す。不意打ちにアリシャが動きを止める。

「なんで、エドなの?」

「アリシャとエドはなんだってリアナが言ってた。そういう仲ってなんのことだよ、わかんない」

「ち、違うから。エドとはじゃないってば」

「だからそういう仲って何さ。あ、あそこにヤマドリダケ見っけ」

 自分で切り出しておいて、子供らしい心変わりをみせ、キノコ狩りに戻ってしまった。確かに走っていったところにヤマドリダケが見えている。

(リアナには言っておかなきゃ。エドとはなんでもないんだし、そんなことが他の大人の耳に届いたら困るもの。エド本人なんかに言われたら……)

 想像しただけでアリシャは赤面して、隠すために俯いた。

(困る、困る。やだやだ恥ずかしい)

 そんな事を考えていたからなのか、弓を担いだエドと村の入口でばったり出くわした時、無駄に余計なことを考えないように必死だった。空なんか仰ぎ見て「何やってんだ?」とエドに怪訝そうに言われてしまった。

「いや、あの、空が……綺麗? だなぁと」

「はぁ?」

 エドの反応はもっともだ。今日は薄暗い曇天なのだから。アリシャは咳払いをしてから隣にいるユーリに先に行っててほしいと伝えた。ユーリも不思議そうな顔をしたが、とりあえずここは言うことを聞いてキノコ入のカゴを運んでいった。

「えっと……それで弓を担いでどこに?」

「キノコ狩りにな」

「ウソだー」

 エドは肩を上げて「じゃあ聞くなよ。お前どうかしてるぞ?」と、アリシャの横を通り過ぎようとした。

「狩り! か、狩りなら私も行きましょうか? また猪が突進してきたら──」

 エドの右眉がクイッと持ち上がる。

「まだ力をコントロールできない癖によくいうよ。俺は一人の方が安全にやれる。お前が居ると集中出来ない」

 断られると思っていてもなんだか悲しかった。それが伝わったのか「そういう顔はやめろ」と言われる始末。

「俺で暇つぶしをするな。ボリスがいるだろ?」

「あ、ボリス! どうしてボリスを誘わないの? 忙しいから?」

 二人は狩り仲間らしいし、とにかくこの間のこともありアリシャは一人で狩りに行かないで欲しかった。

「それが見当たらないんだよなぁ。ま、旅人が狼をこの近くで見たって言うからそれをやるだけだし、一人でやれるけど」

「それならやはり私が──」

 エドは片手でアリシャを追い払う仕草をした。

「やめとけ、やめとけ。また暴走したら困るだろ。それに野宿だ、連れてけねぇよ」

 ぐうの音も出ない。胸の前で握り締めた拳に力がこもる。心配だからといってついていくのはどう考えても逆効果だった。足手まといにしかならない。

「ボリスを見たら……エドは狩りに行ったと伝えるわね」

 あわよくば後を追って狩りに行ってくれれば心強い。

「いいって。……あんまりボリスに肩入れすんなよ」

 引っ掛かりを覚えて「肩入れ?」とオウム返しをするが、エドはいつものように核心には触れずに手を振って出掛けてしまった。

 エドは狩りには慣れているらしい。確かに弓を引く姿は様になっているし、二の腕や肩周りの筋肉は息を呑むほど美しい。訓練の賜物なのだろう。エドを信じ、自分の我儘を押さえ付けて見送った。ただ今夜は長い夜になる予感がしていた。

 その予感が予想とは違った理由で的中することになろうとは……。

 エドを見送った後、料理部屋に行くとキノコのカゴだけ置かれていてユーリの姿はなかった。大方、誰かに違う仕事を貰い精を出しているのだろう。後でキノコ狩りの手伝いのお礼を渡さなければと、アリシャはいつも下げているポーチの中を漁ったが生憎銀貨シギグしか入っていなかった。

 銅貨ブルグのやり取りは億劫だとリリーに言われ、最近は売上を記録してくれていて、銀貨に届くと精算ということになっていた。これはアリシャの品物の評判が良い事と、リリーとの信頼関係が構築できた証だからアリシャにとって嬉しい事柄だったが、こんな風に手間賃を渡したい時は困るのだ。

収納箱長持ちから出さなきゃね。忘れないうちに用意しよう)

 アリシャは自室にある鍵付きの収納箱に銅貨を取りにいった。

(え……?)

 部屋に入るとアリシャは口を思わず手で覆った。血の気が引き、悪い夢を見ている感覚に頭が真っ白になる。

 収納箱の鍵が壊されて中身が散乱していたのだ。中身といってもアリシャの財産はシーツや下着、それに金だけだ。収納箱に駆け寄ると残っていたシーツを掻き分けた。

(ない、ない、私のお金……)

 シーツを全て出して挟まったり隠れてしまっているのではないかと探してみるが、出てきたのは空の巾着のみ。

(そんな……もうすぐ個室用の掛け布団カバーの支払いをするつもりだったのに)

 探す手が止まりぼう然とするアリシャの横からココが顔を出し、辺りを熱心に嗅ぎ回っている。

「誰か……私以外の人の臭いがするのね」

 それが誰なのか知りたいが、ここ数日は宿屋に客は来ていないことを考えると、知るのが怖かった。村の人を疑いたくない。でも、金は返してほしい。アリシャはどうしたらいいのか一所懸命頭を働かせようとした。

「ココ……どうしよう。変に疑って、間違えたりしたら──」

 アリシャが部屋に居なかったのは皆知っているし、アリシャと一緒にいたユーリすら盗み出す時間は十分にあった。

(でも、一人でなんとかするのは無理だわ……。泣き寝入り出来る金額でもないし)

 三銀貨近くここに入っていたのだ。これはドクへ野菜の支払いをするにも必要な金だった。

 アリシャは立ち上がり、一番近くに居るであろうレゼナを頼ることにした。誰一人として疑いたくないが事実、金は消えている。巾着だけあるならば盗まれた以外にないだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

処理中です...