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トロリ秋の恵みのカルツォーネ
トロリ秋の恵みのカルツォーネ
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森が近いだけあって、アリシャの住むドナ村はキノコが豊富に採れる。カゴをぶら下げ毎日せっせとキノコ狩りをしていた。
「アリシャこれは?」
今日のお供はユーリだ。一番幼いので力仕事より雑用をよく任されている。でも、薪割りは出来るのだと本人が誇らしげに話していた。
「ナジナジナジ、それは正解よ。ヤマドリダケはホント美味しいから沢山採ってね」
父親のナジにそっくりだからナジナジナジなのだが、ユーリの兄も似ているので兄がナジナジ、ユーリはもう一つ増えてナジナジナジと呼ばれたりする。もっぱらふざけて呼ぶことが多いが、本人も呼ばれると笑って応えるのだった。
「ねぇ、ユーリは数は数えられるけど計算は出来ないのよね?」
枯れ葉を掻き分けて熱心にキノコを探しながら「そうだよ」とユーリ。
「読み書きも?」
「うん。学校がなかったんだよ。ヤマドリダケあった!」
ちょうどユーリの手の中に収まるくらいのヤマドリダケ。茶色のカサがぴょこぴょこと枯れ葉の間から顔を覗かせている。
「ねぇ、それをレオさんに言ってもいい?」
「ん? 別にいいけど?」
アリシャはナジナジことナジの長男ルクも読み書きや計算が出来ないことを知っていた。他の人は皆出来るのだが、ルクとユーリだけは出来ないのだ。これはたぶん大人になってから苦労すると密かに危惧していた。
ココもついてきていて一緒に枯れ葉を掻いている。これはキノコを探しているのではなく、ただ遊んでいるだけらしい。たまに動きの鈍くなった虫なんかが這い出てきて、ココははしゃぎ回る。犬が騒いでいると野生の動物は近づいてこないので、ココは遊んでいるのにも関わらず役に立っていた。
(読み書き、計算、習っている時は面倒だったけど出来ないのは困るから、教えてあげて欲しいとレオさんに言ってみよう)
学校がなくても親が教える場合もあるが、ナジは男で一つで二人を育ててきたからそんな時間は取れなかったのだろう。今は村に住んでいるのだから、きっとどうにかやりようがあるはずだ。
考え事をしながらブナの枯れ葉を避けていると、アヴリルが好きだと言っていたアンズダケの群生を見つけた。噛むと甘みがあって、最後は少しだけピリッとするキノコだ。
アヴリルと言えば、昨日の夕方、ボリスとなにやら揉めているのをアリシャは目撃した。遠目にも明らかに口論しているのは歴然で、アリシャは止めに行くべきか迷っていた。
鍬を担いだドクが通り掛かって、アリシャの視線を辿って「あちゃー」とボヤいた。
「痴話喧嘩か。あいつ等本当に兄妹なんかねー」
二人を眺めつつそんなことを言うのでアリシャはびっくりした。疑ったこともないから、ドクの言葉は意外だったのだ。そんなアリシャにドクは帽子をずらしながら、だってよと続ける。
「あんな歳まで一緒に居るのもなんか変だし、あの存在感の薄い……なんっつた?」
「ジョゼフ?」
それだ! と、アリシャを指差して、ドクは頭をポリポリと掻いた。
「なんかアイツだけ二人とは距離があるじゃねーか。だから、ボリスとその嫁アヴリル、それとどちからの兄弟ジョゼフなのかなーなんてな。情勢が不安定になって夫婦が逃げ出すことにしたら、着いてきたってのが俺の見立てなわけだ」
確かにそんな風に勘繰りたくなる気持ちはわからなくない。しかし、兄弟かどうかは置いておいてもジョゼフは少し眉を顰めるような人間なのだ。
「あのー、ジョゼフさんは最近仕事は?」
アリシャの問いに、ドクはケッと悪態をつく。
「ありゃなんだ? なんで一人だけプラプラしてんだ? てっきりボリスと仕事をするんだと思って言及しなかったら、働きゃしねぇ。神様もビックリだ」
ボリスは誰から見ても働き者だし、仕事も早い。一人で二人分働いていると言っても過言ではないが、その分そっくりそのまま働かない弟なのだ。最年少のユーリよりも働かないのだから、なんともすごい話だ。
「働かない理由はあるんでしょうか?」
「いや、ないらしいよ。それとなくボリスに聞いたら謝ってくれたがボリスも珍しく攻撃的な口調だったねぇ。『信じられないくらい困った奴です』とかなんとか吐き捨てるようにな」
兄弟かどうかは別にして、ボリスもジョゼフを快く思っていないのは確からしい。
二人で話していると、口論していたアヴリルが涙ぐんでいる様子が垣間見えてドクとアリシャは顔を見合わせた。
「妹とはいえ泣かせるとは!」
ドクが呆れて言い放った矢先、ボリスがアヴリルを抱きしめた。しっかりと抱き締めた姿は確かに愛情を感じるものだった。それが兄妹愛なのか夫婦愛なのかアリシャには判断つかなかった。
「お? お? ほら、やっぱりありゃ夫婦だな。夫婦なら夫婦って言えばいいものを」
断言したドクは肩を上げて「ボリスは嫌いじゃないが嘘つきは好かんな」と、鍬を肩に乗せて行ってしまった。
ドクは夫婦愛なのだと思ったらしい。それなら本当になぜ隠す必要があるのだろうか。なんとなく見てはいけないものを見てしまった気がして、アリシャも回れ右をして二人に背を向けたのだった。
「──アリシャ?」
ユーリがヤマドリダケを抱えて目の前に佇んでいた。
「聞いてた?」
「ごめん、ごめん。なんだった?」
「同じカゴに入れていい? って聞いた」
アリシャは自分の横に置いてあるカゴをグイッと前に押して「入れて、入れて」と遅ればせながら答えた。
抱えていたヤマドリダケをバラバラと高い位置から落とすので、カゴに入らなかったり、跳ね返って外に飛び出したり。
「アリシャこれは?」
今日のお供はユーリだ。一番幼いので力仕事より雑用をよく任されている。でも、薪割りは出来るのだと本人が誇らしげに話していた。
「ナジナジナジ、それは正解よ。ヤマドリダケはホント美味しいから沢山採ってね」
父親のナジにそっくりだからナジナジナジなのだが、ユーリの兄も似ているので兄がナジナジ、ユーリはもう一つ増えてナジナジナジと呼ばれたりする。もっぱらふざけて呼ぶことが多いが、本人も呼ばれると笑って応えるのだった。
「ねぇ、ユーリは数は数えられるけど計算は出来ないのよね?」
枯れ葉を掻き分けて熱心にキノコを探しながら「そうだよ」とユーリ。
「読み書きも?」
「うん。学校がなかったんだよ。ヤマドリダケあった!」
ちょうどユーリの手の中に収まるくらいのヤマドリダケ。茶色のカサがぴょこぴょこと枯れ葉の間から顔を覗かせている。
「ねぇ、それをレオさんに言ってもいい?」
「ん? 別にいいけど?」
アリシャはナジナジことナジの長男ルクも読み書きや計算が出来ないことを知っていた。他の人は皆出来るのだが、ルクとユーリだけは出来ないのだ。これはたぶん大人になってから苦労すると密かに危惧していた。
ココもついてきていて一緒に枯れ葉を掻いている。これはキノコを探しているのではなく、ただ遊んでいるだけらしい。たまに動きの鈍くなった虫なんかが這い出てきて、ココははしゃぎ回る。犬が騒いでいると野生の動物は近づいてこないので、ココは遊んでいるのにも関わらず役に立っていた。
(読み書き、計算、習っている時は面倒だったけど出来ないのは困るから、教えてあげて欲しいとレオさんに言ってみよう)
学校がなくても親が教える場合もあるが、ナジは男で一つで二人を育ててきたからそんな時間は取れなかったのだろう。今は村に住んでいるのだから、きっとどうにかやりようがあるはずだ。
考え事をしながらブナの枯れ葉を避けていると、アヴリルが好きだと言っていたアンズダケの群生を見つけた。噛むと甘みがあって、最後は少しだけピリッとするキノコだ。
アヴリルと言えば、昨日の夕方、ボリスとなにやら揉めているのをアリシャは目撃した。遠目にも明らかに口論しているのは歴然で、アリシャは止めに行くべきか迷っていた。
鍬を担いだドクが通り掛かって、アリシャの視線を辿って「あちゃー」とボヤいた。
「痴話喧嘩か。あいつ等本当に兄妹なんかねー」
二人を眺めつつそんなことを言うのでアリシャはびっくりした。疑ったこともないから、ドクの言葉は意外だったのだ。そんなアリシャにドクは帽子をずらしながら、だってよと続ける。
「あんな歳まで一緒に居るのもなんか変だし、あの存在感の薄い……なんっつた?」
「ジョゼフ?」
それだ! と、アリシャを指差して、ドクは頭をポリポリと掻いた。
「なんかアイツだけ二人とは距離があるじゃねーか。だから、ボリスとその嫁アヴリル、それとどちからの兄弟ジョゼフなのかなーなんてな。情勢が不安定になって夫婦が逃げ出すことにしたら、着いてきたってのが俺の見立てなわけだ」
確かにそんな風に勘繰りたくなる気持ちはわからなくない。しかし、兄弟かどうかは置いておいてもジョゼフは少し眉を顰めるような人間なのだ。
「あのー、ジョゼフさんは最近仕事は?」
アリシャの問いに、ドクはケッと悪態をつく。
「ありゃなんだ? なんで一人だけプラプラしてんだ? てっきりボリスと仕事をするんだと思って言及しなかったら、働きゃしねぇ。神様もビックリだ」
ボリスは誰から見ても働き者だし、仕事も早い。一人で二人分働いていると言っても過言ではないが、その分そっくりそのまま働かない弟なのだ。最年少のユーリよりも働かないのだから、なんともすごい話だ。
「働かない理由はあるんでしょうか?」
「いや、ないらしいよ。それとなくボリスに聞いたら謝ってくれたがボリスも珍しく攻撃的な口調だったねぇ。『信じられないくらい困った奴です』とかなんとか吐き捨てるようにな」
兄弟かどうかは別にして、ボリスもジョゼフを快く思っていないのは確からしい。
二人で話していると、口論していたアヴリルが涙ぐんでいる様子が垣間見えてドクとアリシャは顔を見合わせた。
「妹とはいえ泣かせるとは!」
ドクが呆れて言い放った矢先、ボリスがアヴリルを抱きしめた。しっかりと抱き締めた姿は確かに愛情を感じるものだった。それが兄妹愛なのか夫婦愛なのかアリシャには判断つかなかった。
「お? お? ほら、やっぱりありゃ夫婦だな。夫婦なら夫婦って言えばいいものを」
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ドクは夫婦愛なのだと思ったらしい。それなら本当になぜ隠す必要があるのだろうか。なんとなく見てはいけないものを見てしまった気がして、アリシャも回れ右をして二人に背を向けたのだった。
「──アリシャ?」
ユーリがヤマドリダケを抱えて目の前に佇んでいた。
「聞いてた?」
「ごめん、ごめん。なんだった?」
「同じカゴに入れていい? って聞いた」
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