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熱々干しぶどうとリンゴのパイ
熱々干しぶどうとリンゴのパイ2
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「エドもリンゴ狩り?」
カゴを被った滑稽な姿のままアリシャだったが、スッと視界が拓けてカゴが外された。
「怪我するからやめとけ。バカ丸出しだし。リンゴ狩りと洋ナシ狩りだってよ。んで、明日から誰かさんの宿屋に行って暖炉作りだ。めんどくせー」
「面倒臭いって……ちゃんとやってよね? 私も高いお金を払うんだから」
エドはアリシャのカゴを返しながら「やりたくなくてもやるしかねぇしな」と、不満そうだ。
「やっぱり狩りがいいの?」
「そりゃあな。でも狩りだけじゃ生きていけないのも確かだし、仕方ない」
実はボリスから聞いたのだが、エドの弓の腕前は相当なものらしい。ジョゼフの時も、距離があったにも関わらず、致命傷を負わせる骨と骨の間に矢が入っていたと驚いていた。
「スリに乗って動き回っているジョゼフをそれだけ正確に射抜くのは凄いことなんだよ、アリシャ。アイツは冷静さと瞬時にどうすべきか判断する能力に長けているってことだ。狩りの相棒としてみたら最高だぞ」
ボリスはそうべた褒めしていたが、アリシャはエドが猪を仕留めそこねたのをこの目で見ていた。あの時の恐怖は今も忘れられない。
(どんなに弓の達人だって失敗することはあるし、エドにはあまり……狩りに出て欲しくないなぁ)
「急に黙るな」
考え事を始めるとそちらに熱中してしまう癖があるアリシャは我に返ってエドに「あ、うん。狩りは心配だなーなんて」と伝えると鼻で笑われてしまった。
「俺は狩りが好きなんだよ。一人で居るのが好きなの」
確かにエドはどこか皆から少し離れた所にいる。物理的な意味でも、そうではない意味でも。
「寂しいじゃない……そんなの」
エドは後から懸命に斜面を駆け上がってくるココを見て、足を止めてココを待つ。
「寂しいと思うアリシャは皆に囲まれていれば良い。俺は……一人がいい」
追いついたココを褒めてやるエドの眼差しは柔らかい。言いようのない感情がモヤモヤと渦巻いていく。
(本当に一人がいいの? ツンケンしているけど、実は皆に優しいのに。まるで他人とは関わりたくないみたいな言い方をするけど、それは本心なの?)
「さ、行くぞ」
ココを撫でるのを止めると、すかさずココがエドに甘えて足に擦り寄っていく。エドはそんなココの頭をポンと叩くと歩き出した。
麦は大方刈り終わっているが、今年はいつもの年の倍近く植えたらしく、まだ黄金色の穂が風に揺れていた。
「今年の冬はもしかすると大荒れかもしれないらしい」
「そうなの?」
エドは空を仰ぎ「父さんが言ってた」と風に髪を靡かせた。
「だから宿屋に暖炉を作るのは賛成だってさ」
確かにレオは話の中に避難所という言葉を何度も使っていた。きっとレオも過酷な冬の到来を予見しているのだろう。
「食料を加工して保存しておかなきゃね」
「だな。あーあ、俺は雪に閉じ込められるのが苦痛だ」
「この辺りは積雪が多いの?」
エドは足元のココを見下して、ココくらいすっぽり埋まると言った。
それにしてもココはエドが好きすぎる。飼い主であるアリシャが横にいるのにお構い無しでエドに甘えるのだから。
ココが埋まるならエドの膝下はスッポリ雪の中だということだ。アリシャが住んでいた村より雪が降るのだと思った。
「服の上にローブでしょ。それだけじゃ凍えそうね」
アリシャがなにか防寒着を用意しなければと考えていたら、エドが心配いらないと言うから顔を向けた。
「ほんとに? 寒そうじゃない」
「アリシャが寒い時は俺が温めてやるから」
唐突にそんなことを言われたら、リンゴみたいに赤くなるに決まっている。ボリスはいつもキザだから、心構えが出来て最近は赤くならずにやり過ごせるがエドのは突然過ぎて対処できないのだ。だから顔から湯気が出てるみたいにポッポと赤くなった。
「ほらな。温まったろ?」
アリシャは思わず持っていたカゴをエドに向けて投げつけたが、エドは笑いながらそれをかわした。
転がるカゴをエドが拾った傍から、それを奪ってアリシャは駆け出した。
「転ぶなよー。ほらココ、ご主人様が行っちまうぞ」
アリシャの背に発せられる声は明らかに笑いを含んでいた。
(あーもう! どうしたら動揺せずにやり過ごせるのかしら! 防御の力で心を平坦にできないものなの?)
斜面を駆けていたら直ぐに息が上がってきて、ゼェゼェしながら段々と速度が落ちていった。
(でも、この力は自分のために使うべきではないんじゃないかしら。それに怒ったり、笑ったり、時には悲しんだりする方が人間らしい気がする)
前の村の惨事を思い出さないでいられるのは、防御のおかげだと言われているが、アリシャもそれには大いに納得していた。ただ、ジャンの脚が元には戻らないと聞いたときは胸がズキンと痛んだし、アヴリルの夫が戻ってこない話には深く心を痛めた。
(何も感じなくなるのは快適なのかもしれないけど……人間らしくない。今のところ、あの惨劇以外には作用してないし、それでいいのよ)
からかわれて赤くなるのは悔しいけど、エドの笑顔を見られるなら赤面症も悪くないのかもしれない。
(いいえ、悪いわよ! 恥ずかしいもの)
気持ちがあっちに傾いたり、こっちに傾いたりするが、これはエドといるとよくなることだった。なかなか穏やかな気持ちのままでは居られないのに、アリシャはエドと二人の時間を心待ちにしていた。アリシャはそんな自分が理解不能で不思議に感じるのだった。
カゴを被った滑稽な姿のままアリシャだったが、スッと視界が拓けてカゴが外された。
「怪我するからやめとけ。バカ丸出しだし。リンゴ狩りと洋ナシ狩りだってよ。んで、明日から誰かさんの宿屋に行って暖炉作りだ。めんどくせー」
「面倒臭いって……ちゃんとやってよね? 私も高いお金を払うんだから」
エドはアリシャのカゴを返しながら「やりたくなくてもやるしかねぇしな」と、不満そうだ。
「やっぱり狩りがいいの?」
「そりゃあな。でも狩りだけじゃ生きていけないのも確かだし、仕方ない」
実はボリスから聞いたのだが、エドの弓の腕前は相当なものらしい。ジョゼフの時も、距離があったにも関わらず、致命傷を負わせる骨と骨の間に矢が入っていたと驚いていた。
「スリに乗って動き回っているジョゼフをそれだけ正確に射抜くのは凄いことなんだよ、アリシャ。アイツは冷静さと瞬時にどうすべきか判断する能力に長けているってことだ。狩りの相棒としてみたら最高だぞ」
ボリスはそうべた褒めしていたが、アリシャはエドが猪を仕留めそこねたのをこの目で見ていた。あの時の恐怖は今も忘れられない。
(どんなに弓の達人だって失敗することはあるし、エドにはあまり……狩りに出て欲しくないなぁ)
「急に黙るな」
考え事を始めるとそちらに熱中してしまう癖があるアリシャは我に返ってエドに「あ、うん。狩りは心配だなーなんて」と伝えると鼻で笑われてしまった。
「俺は狩りが好きなんだよ。一人で居るのが好きなの」
確かにエドはどこか皆から少し離れた所にいる。物理的な意味でも、そうではない意味でも。
「寂しいじゃない……そんなの」
エドは後から懸命に斜面を駆け上がってくるココを見て、足を止めてココを待つ。
「寂しいと思うアリシャは皆に囲まれていれば良い。俺は……一人がいい」
追いついたココを褒めてやるエドの眼差しは柔らかい。言いようのない感情がモヤモヤと渦巻いていく。
(本当に一人がいいの? ツンケンしているけど、実は皆に優しいのに。まるで他人とは関わりたくないみたいな言い方をするけど、それは本心なの?)
「さ、行くぞ」
ココを撫でるのを止めると、すかさずココがエドに甘えて足に擦り寄っていく。エドはそんなココの頭をポンと叩くと歩き出した。
麦は大方刈り終わっているが、今年はいつもの年の倍近く植えたらしく、まだ黄金色の穂が風に揺れていた。
「今年の冬はもしかすると大荒れかもしれないらしい」
「そうなの?」
エドは空を仰ぎ「父さんが言ってた」と風に髪を靡かせた。
「だから宿屋に暖炉を作るのは賛成だってさ」
確かにレオは話の中に避難所という言葉を何度も使っていた。きっとレオも過酷な冬の到来を予見しているのだろう。
「食料を加工して保存しておかなきゃね」
「だな。あーあ、俺は雪に閉じ込められるのが苦痛だ」
「この辺りは積雪が多いの?」
エドは足元のココを見下して、ココくらいすっぽり埋まると言った。
それにしてもココはエドが好きすぎる。飼い主であるアリシャが横にいるのにお構い無しでエドに甘えるのだから。
ココが埋まるならエドの膝下はスッポリ雪の中だということだ。アリシャが住んでいた村より雪が降るのだと思った。
「服の上にローブでしょ。それだけじゃ凍えそうね」
アリシャがなにか防寒着を用意しなければと考えていたら、エドが心配いらないと言うから顔を向けた。
「ほんとに? 寒そうじゃない」
「アリシャが寒い時は俺が温めてやるから」
唐突にそんなことを言われたら、リンゴみたいに赤くなるに決まっている。ボリスはいつもキザだから、心構えが出来て最近は赤くならずにやり過ごせるがエドのは突然過ぎて対処できないのだ。だから顔から湯気が出てるみたいにポッポと赤くなった。
「ほらな。温まったろ?」
アリシャは思わず持っていたカゴをエドに向けて投げつけたが、エドは笑いながらそれをかわした。
転がるカゴをエドが拾った傍から、それを奪ってアリシャは駆け出した。
「転ぶなよー。ほらココ、ご主人様が行っちまうぞ」
アリシャの背に発せられる声は明らかに笑いを含んでいた。
(あーもう! どうしたら動揺せずにやり過ごせるのかしら! 防御の力で心を平坦にできないものなの?)
斜面を駆けていたら直ぐに息が上がってきて、ゼェゼェしながら段々と速度が落ちていった。
(でも、この力は自分のために使うべきではないんじゃないかしら。それに怒ったり、笑ったり、時には悲しんだりする方が人間らしい気がする)
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(何も感じなくなるのは快適なのかもしれないけど……人間らしくない。今のところ、あの惨劇以外には作用してないし、それでいいのよ)
からかわれて赤くなるのは悔しいけど、エドの笑顔を見られるなら赤面症も悪くないのかもしれない。
(いいえ、悪いわよ! 恥ずかしいもの)
気持ちがあっちに傾いたり、こっちに傾いたりするが、これはエドといるとよくなることだった。なかなか穏やかな気持ちのままでは居られないのに、アリシャはエドと二人の時間を心待ちにしていた。アリシャはそんな自分が理解不能で不思議に感じるのだった。
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