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ほうれん草とマスのミルフィーユ
ほうれん草とマスのミルフィーユ
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ドクから届いたカゴを覗いていたら、肩をとんとんと叩かれて顔を上げてしゃがんだまま振り返った。
「エド!」
アリシャは思わず立ち上がっていた。エドが料理部屋に来るのは最近では本当に珍しく、それだけに喜び勇んで立ち上がってしまった。
「なんだお前、体調悪いって聞いたけど元気じゃねぇか」
そう、アリシャは野菜入りのカゴを持って来てくれたドクに、不思議な感覚に悩まされていることを相談していた。未だにゾクゾクとする症状が続いているのだ。
「あー、元気は元気なの」
ドクに相談したのは病気とは違う気がしたのでレオに言うことでもないと考えてのことだった。それでもなんとなく気にかかるのでちょっと気持ちを吐露したといった具合だった。
「天気が関係しているのかしらと思ってちょっとドクさんに聞いただけ。でもあの、エド?」
「なんだよ」
「気にしてくれたの……嬉しかった……です?」
エドは「なんでそこ疑問形なんだ」と、眉を上げた。
「だって」
照れ臭かった。エドと気持ちが通じているはずだが、ほとんど一緒に居られないのでどうしても気恥ずかしさが拭えなかった。エドはこっちに来いとアリシャの自室に向かった。険しい顔をしていたのを見てしまったアリシャは、喜びから一転、怯む気持ちを圧してギクシャク足を動かしついていった。
扉が閉まり二人きりになってもエドは腕組をし、表情を和らげることなく佇んでいた。
「アリシャ」
「はい」
「お前、色々わかってんのか?」
色々とはなんだ。わかっているのかとはなんだ。まるっきりわからない。
そんなアリシャを見越してエドがアリシャの頬をプニッと引っ張った。
「こっちは覚悟してドク達に話したりしてるっていうのに。金持ちの男にうつつを抜かすとか」
引っ張られていたのは解放されたが、頬がヒリヒリ痛んだ。
「ただお客様だからお相手してるだけだし、他のお客さんと同じようにしてるわ……」
語尾が弱くなり、最後はアリシャ自身弱々しくて説得力がないと感じた。
「あー、クソ。アイツがいちいちアリシャを構ってるのはわかってんだよ。ただ、腹立つっつーか」
ザライムはエドの言うとおり、なんでもアリシャを通そうとするのだ。イザクとの会話で天気の話になった時ですらこうだ。
「ザライム様、今日は雲行きがよろしくないようです」
「そうか。アリシャ、雲の様子はどうであった?」
そんなことにいちいち声をかけられても困るが、客であるが故に邪険にできずにアリシャは律儀に返事をしていた。あまりに話しかけてくるので仕事は遅れがちになり、正直困っていた。
アリシャは見上げて背伸びをし、エドにキスをする。エドもそんなアリシャを抱き締めてキスを返してきた。アリシャは触れ合っていると幸福感に包まれるし、とてつもなく安心することもできた。それに──
「エド……ねぇ、聞いて」
首に唇を押し当てたエドを軽く叩く。
「ずっと感じていた背中の違和感がおさまったみたいなの」
それを聞いたエドがさも可笑しそうに髪を揺らして笑った。
「キスで治るってなんだよ」
「だって本当なんだもん」
戸惑うアリシャをよそに、ますます笑うエド。そんなエドを見ていると笑われているにも関わらず嬉しくなるアリシャは少しどうかしていた。
「欲求不満?」
いたずらな視線を投げるエドにこれまでで一番ドキリとしたし、とにかく艶っぽかった。ただ、アリシャの方は空気を吹き込まれた炭みたいに一気に顔が赤く熱くなっていった。
「そんなんじゃないから!」
エドのシャツを掴んで額を胸に付けて顔を隠したアリシャに、エドはアリシャをサッと抱き上げて自分と視線が合う位置まで上げた。
「レオに話さなきゃならない。それまでは……」
琥珀の瞳にアリシャを映し、エドは目を細めた。
「俺にも防御を張るといい」
「……エドには張らないわ」
「欲求不満だから?」
茶化すエドにジタバタと下ろしてと騒ぐと、軽くキスをしてやっと下ろしてくれた。
「でも、力は無闇やたらと使うべきじゃないってエドも言ったじゃない」
「まぁな。ただ、魔力が子供に移行してしまう以上、お前は自分の身を守る必要がある。俺とそうなりたくないと思えば使えばいい」
「エドには……使わないもの、絶対」
エドは目を細めて「もういく。これ以上ここにいるのはまずいから」と、アリシャの顔の横に垂らしてある髪を引っ張ると出ていった。
一人になると自分が発した言葉が次々に思い返されて、アリシャはいつまでも顔が燃えるように熱かった。
(この背中のゾクゾクするような感覚が欲求不満なら、恥ずかしい……ドクさんに相談しちゃった。わぁーどうしよう……)
こんな時はやはり仕事に冒頭するしかないと料理部屋に戻ると、ドクが持って来てくれたカゴにココが手を掛けて中身を盛んにクンクン嗅いでいた。
「ココ、いけない! 手を下ろしなさい」
ハッと顔を上げたココはアリシャの元に駆け寄って、尻尾を振りながらお座りをしてみせた。
「あげないわよ? そんないい子アピールしても」
ソワソワと今度はテーブルの方へと行き、テーブルの下でもお座りをした。テーブルには今朝方ボリスが持って来てくれた大振りなマスが五匹も乗っている。どうやらそっちがココの本命らしい。
「エド!」
アリシャは思わず立ち上がっていた。エドが料理部屋に来るのは最近では本当に珍しく、それだけに喜び勇んで立ち上がってしまった。
「なんだお前、体調悪いって聞いたけど元気じゃねぇか」
そう、アリシャは野菜入りのカゴを持って来てくれたドクに、不思議な感覚に悩まされていることを相談していた。未だにゾクゾクとする症状が続いているのだ。
「あー、元気は元気なの」
ドクに相談したのは病気とは違う気がしたのでレオに言うことでもないと考えてのことだった。それでもなんとなく気にかかるのでちょっと気持ちを吐露したといった具合だった。
「天気が関係しているのかしらと思ってちょっとドクさんに聞いただけ。でもあの、エド?」
「なんだよ」
「気にしてくれたの……嬉しかった……です?」
エドは「なんでそこ疑問形なんだ」と、眉を上げた。
「だって」
照れ臭かった。エドと気持ちが通じているはずだが、ほとんど一緒に居られないのでどうしても気恥ずかしさが拭えなかった。エドはこっちに来いとアリシャの自室に向かった。険しい顔をしていたのを見てしまったアリシャは、喜びから一転、怯む気持ちを圧してギクシャク足を動かしついていった。
扉が閉まり二人きりになってもエドは腕組をし、表情を和らげることなく佇んでいた。
「アリシャ」
「はい」
「お前、色々わかってんのか?」
色々とはなんだ。わかっているのかとはなんだ。まるっきりわからない。
そんなアリシャを見越してエドがアリシャの頬をプニッと引っ張った。
「こっちは覚悟してドク達に話したりしてるっていうのに。金持ちの男にうつつを抜かすとか」
引っ張られていたのは解放されたが、頬がヒリヒリ痛んだ。
「ただお客様だからお相手してるだけだし、他のお客さんと同じようにしてるわ……」
語尾が弱くなり、最後はアリシャ自身弱々しくて説得力がないと感じた。
「あー、クソ。アイツがいちいちアリシャを構ってるのはわかってんだよ。ただ、腹立つっつーか」
ザライムはエドの言うとおり、なんでもアリシャを通そうとするのだ。イザクとの会話で天気の話になった時ですらこうだ。
「ザライム様、今日は雲行きがよろしくないようです」
「そうか。アリシャ、雲の様子はどうであった?」
そんなことにいちいち声をかけられても困るが、客であるが故に邪険にできずにアリシャは律儀に返事をしていた。あまりに話しかけてくるので仕事は遅れがちになり、正直困っていた。
アリシャは見上げて背伸びをし、エドにキスをする。エドもそんなアリシャを抱き締めてキスを返してきた。アリシャは触れ合っていると幸福感に包まれるし、とてつもなく安心することもできた。それに──
「エド……ねぇ、聞いて」
首に唇を押し当てたエドを軽く叩く。
「ずっと感じていた背中の違和感がおさまったみたいなの」
それを聞いたエドがさも可笑しそうに髪を揺らして笑った。
「キスで治るってなんだよ」
「だって本当なんだもん」
戸惑うアリシャをよそに、ますます笑うエド。そんなエドを見ていると笑われているにも関わらず嬉しくなるアリシャは少しどうかしていた。
「欲求不満?」
いたずらな視線を投げるエドにこれまでで一番ドキリとしたし、とにかく艶っぽかった。ただ、アリシャの方は空気を吹き込まれた炭みたいに一気に顔が赤く熱くなっていった。
「そんなんじゃないから!」
エドのシャツを掴んで額を胸に付けて顔を隠したアリシャに、エドはアリシャをサッと抱き上げて自分と視線が合う位置まで上げた。
「レオに話さなきゃならない。それまでは……」
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「俺にも防御を張るといい」
「……エドには張らないわ」
「欲求不満だから?」
茶化すエドにジタバタと下ろしてと騒ぐと、軽くキスをしてやっと下ろしてくれた。
「でも、力は無闇やたらと使うべきじゃないってエドも言ったじゃない」
「まぁな。ただ、魔力が子供に移行してしまう以上、お前は自分の身を守る必要がある。俺とそうなりたくないと思えば使えばいい」
「エドには……使わないもの、絶対」
エドは目を細めて「もういく。これ以上ここにいるのはまずいから」と、アリシャの顔の横に垂らしてある髪を引っ張ると出ていった。
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こんな時はやはり仕事に冒頭するしかないと料理部屋に戻ると、ドクが持って来てくれたカゴにココが手を掛けて中身を盛んにクンクン嗅いでいた。
「ココ、いけない! 手を下ろしなさい」
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