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02 恋も仕事も?

戸惑いの味

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09

 夜景が見えるバーの中。
 カクテルをちびちびとやる瞳と佐奈の間に会話はなかった。
 どちらも、なにを話していいかわからないのだ。

 「佐奈ちゃん。一杯付き合わない?」
 仕事が終わって、なんの脈絡もなくかけられた瞳の言葉に、佐奈は内心面食らっていた。
 (どういうご用なんだろう?)
 そう思わずにはいられなかったのだ。

 佐奈は、営業の係長である林原克己が好きだ。
 大学でも会社に入ってからも、優しく、厳しく指導鞭撻してくれた頼れる先輩だ。
 一見するとチャラそうだが、実は芯が強く誠実であることも知っている。
 ついでに言えば、イケメンでもある。
 そんな克己を男として好いている。
 その自分からすれば、瞳は恋敵であるはずだ。
 まあ、はっきりそう言い切ってしまうのも穏やかではないので、口には出さないが。
 (それに…好きって気づいたきっかけがちょっと恥ずかしいしな…)
 佐奈はそんなことを思い、小さく嘆息する。
 実を言えば、克己に恋心を抱いていると自分で気づいたのはごく最近だ。
 きっかけは、克己と瞳がつきあい始めたといううわさが社内で流れ始めたことだった。
 (それがきっかけで好きって気持ちに気づくなんて…)
 自分のさもしさと現金さに、本気で自己嫌悪に陥ったものだ。
 それまで、克己のことはちょっといいかなとは思いながらも、恋愛感情を抱いている自覚がなかった。
 さらに言えば、瞳が急に眼鏡と髪留めをやめて見違えるような美人になり、男ができたとうわさになったとき、応援したいと思ったものだ。
 自分のことのようにドキドキした。

 それなのに、瞳の相手が克己らしいとわかった瞬間、ドキドキはドロドロとモヤモヤに一変した。
 (情けないな…人のものになって欲しくなくて…恋愛感情に気づくなんて…)
 佐奈はまた嘆息する。
 瞳に克己を取られてしまうという危機感で、やっと自分の恋する気持ちに気づいた。
 それは、生き物としては当たり前の本能であったかも知れない。
 ぼんやりしていたら誰かに先を越されてしまう。
 なら、自分のものにしてしまいたい。
 それは自然な欲求なのだ。
 だが、佐奈はそれが情けなく思えた。
 人のものになって欲しくない。だから自分のものにしたい。
 理屈はどうでも、自分の恋のきっかけがどうにも卑しいものに思えてしまったのだ。
 (それに…なんだろう?モヤモヤの原因、それだけじゃない…)
 佐奈は、克己への恋心とは別に、なにか自分でもわからない気持ちが渦巻いているのを感じていた。
 どれだけ考えても、自分に問いかけても、それがなんなのかわからないのだ。
 不思議だが、瞳と一緒に居るとそのモヤモヤが強くなる気がする。
 佐奈は戸惑ったまま、無言でブルーハワイを傾け続けるのだった。
 
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