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02 恋も仕事も?
空気が重いわけ
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08
その日、青海商事の総務の事務所は空気が重かった。
というよりも、ここ最近ずっとこの調子だ。
具体的にどうということもないが、なにやら元気がないのだ。
(ていうか、やっぱり原因はあれだよねえ…)
瞳には、重い空気の察しがついていた。
その発信源と思しい方向に、さりげなく視線を向けてみる。
「はああ~~」
水無月佐奈が、大きなため息をついている。
いつも明るくムードメーカーな彼女が、なにやら悩みがあるようで元気がない。
そのことが、事務所全体の空気をどんよりとしたものにしているらしい。
(私と係長のことが関係していると考えるのが自然か…)
いつぞや、総務部長室での会話を立ち聞きしていたらしい佐奈が、瞳と克己の姿を見るや脱兎の如く逃げていった。
瞳は、佐奈に元気がない理由を推測してみる。
佐奈は克己と接点が多い。
同じ大学で、サークルも一緒であったらしい。
会社に入社してからも、同じスタッフチームで仕事をしたこともある。
(佐奈ちゃんは恋に積極的そうだけど…案外おくてなのかしら…?)
佐奈は百合でチチモミストではあるものの、男に興味がないいわゆるガチレズというものでもない。
思い返してみると、克己を憎からず思っているようなそぶりはあったと思う。
(どうしたものか…)
瞳は眉間に親指を当てて考え込む。
佐奈が元気がないと、部署全体のテンションが下がってしまう。
明るいムードメーカーという役割がいかに重要か、良くわかる。
(しかし…それ以前に私自身がどうしたものか、だな…)
瞳はそこで壁にぶち当たってしまう。
最近、眼鏡と髪留めをやめるというちょっとしたきっかけから、突然モテ始めてしまった。
3人のイケメンといい感じになっているというのは、悪い気分では決してない。
だが、実際3人のうち誰かと付き合うとなると、どうにも踏み切れないのだ。
(仮の話…係長のことを佐奈ちゃんに譲ってあげられる…?)
佐奈が克己と付き合い始めるところを想像してみる。
2人がデートをしているところ。職場でもいちゃついているところ。そして、結婚式を挙げているところ。
それは嫌だった。
さもしい考えだとわかっていても嫌だった。
「やっぱりだめ!」
つい大きな声を出してしまう。
「え…主任、なにがです…?」
横で電卓を叩いていた経理の女が目を丸くする。
総務の他のメンバーたちも、突然の大きな声になにごとかと瞳に注目している。
「ああ…ごめんなさい…。ちょっと引っかかっていることがあって…。
気にしないで…」
瞳は愛想笑いを作って、苦しい言い訳をする。
主任に任じられて以来、瞳も難しい案件を担当することが増えている。
気苦労や苦難もあるのだろうと、訝りながらもそれ以上誰も追及して来ることはなかった。
(とにかくなんとかしないと…。
取りあえずは…)
瞳は重苦しい空気の発信源である佐奈に目線を向けるのだった。
その日、青海商事の総務の事務所は空気が重かった。
というよりも、ここ最近ずっとこの調子だ。
具体的にどうということもないが、なにやら元気がないのだ。
(ていうか、やっぱり原因はあれだよねえ…)
瞳には、重い空気の察しがついていた。
その発信源と思しい方向に、さりげなく視線を向けてみる。
「はああ~~」
水無月佐奈が、大きなため息をついている。
いつも明るくムードメーカーな彼女が、なにやら悩みがあるようで元気がない。
そのことが、事務所全体の空気をどんよりとしたものにしているらしい。
(私と係長のことが関係していると考えるのが自然か…)
いつぞや、総務部長室での会話を立ち聞きしていたらしい佐奈が、瞳と克己の姿を見るや脱兎の如く逃げていった。
瞳は、佐奈に元気がない理由を推測してみる。
佐奈は克己と接点が多い。
同じ大学で、サークルも一緒であったらしい。
会社に入社してからも、同じスタッフチームで仕事をしたこともある。
(佐奈ちゃんは恋に積極的そうだけど…案外おくてなのかしら…?)
佐奈は百合でチチモミストではあるものの、男に興味がないいわゆるガチレズというものでもない。
思い返してみると、克己を憎からず思っているようなそぶりはあったと思う。
(どうしたものか…)
瞳は眉間に親指を当てて考え込む。
佐奈が元気がないと、部署全体のテンションが下がってしまう。
明るいムードメーカーという役割がいかに重要か、良くわかる。
(しかし…それ以前に私自身がどうしたものか、だな…)
瞳はそこで壁にぶち当たってしまう。
最近、眼鏡と髪留めをやめるというちょっとしたきっかけから、突然モテ始めてしまった。
3人のイケメンといい感じになっているというのは、悪い気分では決してない。
だが、実際3人のうち誰かと付き合うとなると、どうにも踏み切れないのだ。
(仮の話…係長のことを佐奈ちゃんに譲ってあげられる…?)
佐奈が克己と付き合い始めるところを想像してみる。
2人がデートをしているところ。職場でもいちゃついているところ。そして、結婚式を挙げているところ。
それは嫌だった。
さもしい考えだとわかっていても嫌だった。
「やっぱりだめ!」
つい大きな声を出してしまう。
「え…主任、なにがです…?」
横で電卓を叩いていた経理の女が目を丸くする。
総務の他のメンバーたちも、突然の大きな声になにごとかと瞳に注目している。
「ああ…ごめんなさい…。ちょっと引っかかっていることがあって…。
気にしないで…」
瞳は愛想笑いを作って、苦しい言い訳をする。
主任に任じられて以来、瞳も難しい案件を担当することが増えている。
気苦労や苦難もあるのだろうと、訝りながらもそれ以上誰も追及して来ることはなかった。
(とにかくなんとかしないと…。
取りあえずは…)
瞳は重苦しい空気の発信源である佐奈に目線を向けるのだった。
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