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05 愛だの恋だの仕事だの
私にモテ期とか冗談でしょ?
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07
「寂しいけど、これでいいんだよね…」
秋島瞳は飛行機のシートの上でため息をつく。
飛行機は、まもなく羽田空港を飛び立ち長崎へ向かう予定だった。
1ヶ月の出張の予定だ。
1週間前のことだった。
「長崎にですか?」
「そう。あなたが勉強会で検索したメガフロート農業構想がいよいよ着手される。
まずは、小さな筏にガラスケースを乗せた試作品が作られるの。
すでに完成間近よ。
海上で農業を行う際の様々な問題を検証するわけ。
あなたにもプロジェクトチームの一因として、参加してもらうわ」
総務部長兼取締役である夏目麻佳から、出張の辞令があったのだ。
年明けの横断的な勉強会で瞳が検索したメガフロート農業構想は、大まじめに進められていた。
中央省庁、自治体、企業、金融機関、研究機関が縦割りの構造を乗り越えて、国益のため、国民の将来のために団結して取り組んだ結果だった。
食料自給率の低下に今まで手がつけられてこなかったのは、理由はいろいろある。
だが、一番の問題は具体策がなかったことにある。
瞳が検索したメガフロート農業構想は途方もない話だが、具体策としては一番現実的だったのだ。
ともあれ、瞳本人にとっては思いも寄らぬことだった。
商社の一介の経理屋には、身の丈に合わない役目に思えた。
さりとて、正式な辞令であれば拒否するわけにもいかない。
なにより、本社から離れて遠くに行けるなら渡りに船に思えたのだ。
(ぎくしゃくしてるしなあ…)
克己、勇人、龍太郎とのデートはことごとくトラブルに見舞われた。
あれから、3人とはうまくいっているとは言いがたい。
やはり、自分にみつまたなど無理だったのかも知れない。
少し距離を置いて考えたいと思ったのだ。
いつの間にか、3人がそばにいることが普通になっていた。
きっと寂しいだろうが仕方ない。
そう思えるのだった。
が…。
「失礼するよ」
聞き慣れた声がした。
「え…係長…どうして…?」
横の席に腰掛けたのは、どういうわけか克己だった。
「俺も出張だよ。なにせ、プロジェクトチームには偉い人がたくさんいるでしょ?
とっかかりとして名刺だけでも交換しておければと思ってね」
克己は当然のように応える。
だが、瞳はあっけにとられた。
そんな話は聞いていない。
「で、僕は営業の新規開拓っす。
向こうに得意先なんかないかも知れない。でも探す価値はある」
そう声をかけてきたのは勇人だった。
本気で九州で営業をする気なのだろう。
身だしなみがいつもよりちゃんとしている。
「私は本社との連絡役。
やはり、広報としては自分の目で見ておきたいしね。
メガフロート農業構想が実現したとき、自分もその場にいたい。
一生の自慢になる」
続いて、いつの間にか克己の反対側にいた龍太郎がこともなげに言う。
「あれ…?お三方…本当に九州まで行かれるんですか…?」
瞳は頭の中がぐるぐるしてものを考えられなかった。
みつまたをかけるなどという不道徳な行為をしたために天罰が下った。
だからデートがうまくいかなかった。
そんなことを考えて落ち込んでいたところなのだ。
これでは、距離を置いて考えることも仕切り直すこともできない。
そう思ったとき、SNSに着信が入る。
“サプライズ大成功。 水琴”
“向こうでも頑張って下さいね。いろいろとww。 つかさ”
“そろそろ誰かに決めてください。もしくは逆ハーでも。 佐奈”
“逃げられると思ったのかしら? 麻佳”
どうやら、みんなで示し合わせて瞳を驚かせる計画だったらしい。
自分は、誰かとくっつくまで、あるいは逆ハーレムを形成するまで逃げられないということだろうか?
「私にモテ期とか冗談でしょ?」
離陸する飛行機のエンジン音に混じって、瞳のぼやきが響いた。
期せずしてモテ期が到来し、心の準備ができないまま恋愛が始まると本当に大変だ。
瞳はそう思わずにはいられないのだった。
了
「寂しいけど、これでいいんだよね…」
秋島瞳は飛行機のシートの上でため息をつく。
飛行機は、まもなく羽田空港を飛び立ち長崎へ向かう予定だった。
1ヶ月の出張の予定だ。
1週間前のことだった。
「長崎にですか?」
「そう。あなたが勉強会で検索したメガフロート農業構想がいよいよ着手される。
まずは、小さな筏にガラスケースを乗せた試作品が作られるの。
すでに完成間近よ。
海上で農業を行う際の様々な問題を検証するわけ。
あなたにもプロジェクトチームの一因として、参加してもらうわ」
総務部長兼取締役である夏目麻佳から、出張の辞令があったのだ。
年明けの横断的な勉強会で瞳が検索したメガフロート農業構想は、大まじめに進められていた。
中央省庁、自治体、企業、金融機関、研究機関が縦割りの構造を乗り越えて、国益のため、国民の将来のために団結して取り組んだ結果だった。
食料自給率の低下に今まで手がつけられてこなかったのは、理由はいろいろある。
だが、一番の問題は具体策がなかったことにある。
瞳が検索したメガフロート農業構想は途方もない話だが、具体策としては一番現実的だったのだ。
ともあれ、瞳本人にとっては思いも寄らぬことだった。
商社の一介の経理屋には、身の丈に合わない役目に思えた。
さりとて、正式な辞令であれば拒否するわけにもいかない。
なにより、本社から離れて遠くに行けるなら渡りに船に思えたのだ。
(ぎくしゃくしてるしなあ…)
克己、勇人、龍太郎とのデートはことごとくトラブルに見舞われた。
あれから、3人とはうまくいっているとは言いがたい。
やはり、自分にみつまたなど無理だったのかも知れない。
少し距離を置いて考えたいと思ったのだ。
いつの間にか、3人がそばにいることが普通になっていた。
きっと寂しいだろうが仕方ない。
そう思えるのだった。
が…。
「失礼するよ」
聞き慣れた声がした。
「え…係長…どうして…?」
横の席に腰掛けたのは、どういうわけか克己だった。
「俺も出張だよ。なにせ、プロジェクトチームには偉い人がたくさんいるでしょ?
とっかかりとして名刺だけでも交換しておければと思ってね」
克己は当然のように応える。
だが、瞳はあっけにとられた。
そんな話は聞いていない。
「で、僕は営業の新規開拓っす。
向こうに得意先なんかないかも知れない。でも探す価値はある」
そう声をかけてきたのは勇人だった。
本気で九州で営業をする気なのだろう。
身だしなみがいつもよりちゃんとしている。
「私は本社との連絡役。
やはり、広報としては自分の目で見ておきたいしね。
メガフロート農業構想が実現したとき、自分もその場にいたい。
一生の自慢になる」
続いて、いつの間にか克己の反対側にいた龍太郎がこともなげに言う。
「あれ…?お三方…本当に九州まで行かれるんですか…?」
瞳は頭の中がぐるぐるしてものを考えられなかった。
みつまたをかけるなどという不道徳な行為をしたために天罰が下った。
だからデートがうまくいかなかった。
そんなことを考えて落ち込んでいたところなのだ。
これでは、距離を置いて考えることも仕切り直すこともできない。
そう思ったとき、SNSに着信が入る。
“サプライズ大成功。 水琴”
“向こうでも頑張って下さいね。いろいろとww。 つかさ”
“そろそろ誰かに決めてください。もしくは逆ハーでも。 佐奈”
“逃げられると思ったのかしら? 麻佳”
どうやら、みんなで示し合わせて瞳を驚かせる計画だったらしい。
自分は、誰かとくっつくまで、あるいは逆ハーレムを形成するまで逃げられないということだろうか?
「私にモテ期とか冗談でしょ?」
離陸する飛行機のエンジン音に混じって、瞳のぼやきが響いた。
期せずしてモテ期が到来し、心の準備ができないまま恋愛が始まると本当に大変だ。
瞳はそう思わずにはいられないのだった。
了
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