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第七章
外伝2 第三の性 最高の花嫁と一緒
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戦場にあっては、憎しみで戦ってはいけない。それでは犬死にするものが増えるだけだ。
"自由と正義の翼"は、憎しみを忘れられないものたちの集まりだったんだろうね。
そして"彼ら"もまた憎しみに呑まれた。親友であったもの同士が殺しあった。これほど悲しいことはない。
だが、人は憎しみを越えて未来に生きることのできる生き物だ。
愛しい人と再開できて俺はそれを知った。
それがせめてもの救いだったよ。
私は温かい生活を手に入れた。
はからずも、戦いに負けたおかげかもしれない。
パラシュートで地上に降りた私を発見したのがベネトナーシュ軍だった。そして、彼と再開できたんだ。
でもそこに、仲間たちの姿はなかった。
01
竹内寛実二等空尉。
元航空自衛隊所属。そして、ベネトナーシュ王立空軍義勇兵。
地球から異世界に配属されて以来、都合3回の被撃墜、そして生還を果たしている男。もちろんイーグルファイターに恥じない戦いをし、戦果もあげている。しかし、3度撃墜されて生き延びたいきさつから、「死ねない男」という通り名がすっかり定着している。
彼の人生は、エリート、勝ち組といっていい人生だったが、必ずしも本意とする人生ではなかった。
親が幕僚まで勤めた航空自衛官という理由でほとんど問答無用で防大に入学し、空自に進む。彼自身はのんびりした気質で、イーグルファイターとなったことも、義勇兵として異世界に派遣されたことも成り行きでしかなかった。それを、体で実感することになる。3機ものF-15Jを壊してしまい、左遷か免職を覚悟した。しかし、なまじ敵機撃墜のスコアも稼いでいたため、左遷によって現場から離れさせてもらうことさえできなかった。あまつさえ、何度も撃墜されながら生還した英雄として、宣伝に使われる動きさえあったのだ。
でも、と思う。撃墜されてさまよった先で、運命の人と言っていい人物に会えた。それは、戦いに身を投じて初めて良かったと思えたことだった。スカートをまくり、パンツを下ろしたその人物に”ついている”ことなどどうでもよかった。
その後、その人物とは紆余曲折あった。それでも、再会して触れ合うことができたのだ。
「ジェイミー...。会いたかったよ!」
「タケウチ...?ふふ...その...私も会いたかったよ」
ゲルセミのベネトナーシュ王立軍の基地、逮捕された”自由と正義の翼”のメンバーが収容される施設。ジェイミーの収用された房に職権乱用という形で忍びこんだ竹内は、感極まってジェイミーを強く抱きしめる。
「おいおい、私は男の娘だぞ...?いいのか?」
「いいよ!俺にはジェイミーしかいないんだ。ジェイミーに会えた...!嬉しくてしょうがないんだ!」
ジェイミーの胸に、温かくて優しい心地が拡がり、そして自分の中で何かが覚醒していく感覚を覚える。これってもしかして、伝え聞く...。
「タケウチ...いやヒロミ...。もし嫌でなければ、私を抱いてくれないか?」
そうして、ジェイミーは竹内に”処女”を捧げた。それがのちのち大騒ぎの元になるのである。
ジェイミー・ルク・ドゥベは、男の娘である。見た目も声も全く女にしか思えないほどの美しさ。だが男の娘だ。
それには相応の理由がある。ドゥベ公国の伝説には、男の娘が民族を救う伝説が残されていたのだ。あるとき戦災と疫病で女が死に絶えてしまい、生き残ったのは男だけ。このままでは滅ぶしかないという状況の中で、男の何人かが男の娘として覚醒し、妊娠、出産能力を持った。
そのおかげで滅びずに済んだという伝承だ。男の娘が妊娠するという話は脇に置いても、男の娘を第三の性として神聖視する風潮はドゥベに残り続けた。
それが、ジェイミー率いる姫若子部隊が高い地位を得ることができた要因でもあった。
だが、電磁波兵器”リディル”を巡る攻防戦と、味方を巻き込んだ地震兵器を用いた作戦を目の当たりにして、ジェイミーは祖国に裏切られた怒りと憎しみに囚われてしまう。ジェイミーは、それまで重ねてきた全てを捨て、”自由と正義の翼”に合流してしまう。ただ、仲間の仇である祖国と多国籍軍への復讐。そして自分に屈辱を与えた青いセントウキを倒すことだけを考えて。
が、その短絡的な憎しみと復讐心こそが、今にして思えば命取りだった。
あっさりと返り討ちにされ、また一頭のドラゴンを死なせてしまった失態は、自分の不徳だとはっきり思える。
もう自分は空に上がることもなければ、部隊を率いることもない。そう思えるのだった。
02
ジェイミーは多国籍軍に投降した後、国家に対するテロの罪で逮捕され、二桁に及ぶ罪状で起訴されることとなる。
懲役20年で済んだのは、弁護人たちの努力と、“自由と正義の翼”に同情的な世論を裁判官たちが無視できなかったことがある。
それに加えて、竹内が愛する者のためと奔走したことももちろんあった。
ジェイミーが祖国であるドゥベに裏切られ、戦友や部下を津波によって奪われたこと。ドゥベという国を心から愛していたジェイミーは、祖国が地球の国家の植民地のように扱われることに耐えられなかったことなどを、ドゥベ司法省や多国籍軍の法務に切々と説いた。
また、半ば自暴自棄になっていたジェイミーに、司法取引に応じて減刑を得ようと必死で説得した。竹内の熱意に心を動かされたジェイミーは、“自由と正義の翼”に関して自分の知る情報を全て多国籍軍と司法省に提供することを承諾した。
それが実り、なんと実刑判決を受けながら、週3日までを条件として、バイドラグーンの山の手にある自分の家に居住することが認められたのだ。まあこれは、アメリカがこっそり“自由と正義の翼”に多国籍軍の情報を流していた証拠を得たい地球の各国の思惑もあったが。
ベネトナーシュ軍の航空師団を辞して、ドゥベの駐在武官に志願した竹内は、ジェイミーと一緒に暮らすことになる。週4日は刑務所で服役するため離れなければならないのは辛かったが、それでも愛おしい者が側にいることに変わりはない。
竹内は、この愛しくて可愛い男の娘との生活に幸せを感じていた。
「おめでたです」
「はい…?」
ドゥベ公国首都バイドラグーンの総合病院の特別産婦人科。アメリカの大学から派遣されてきた医師の言葉に、竹内の目が点になる。
「いやあ、私も男の娘を看るのはこれで2回目なんですがね。やっぱり不思議ですねえ」
「いやあ、私も、いざ妊娠してみるとけっこう不思議な感じでして」
いかにも生真面目という感じのアフリカ系アメリカ人が冗談を言っているようには思えない。
照れくさそうに竹内の横で応じるジェイミーの目も、伊達や酔狂の色はない。
「男の娘って妊娠するって本当だったんだ…」
「なにを今さら。それがなかったら、ドゥベは今頃存在してなかったさ」
正直な感想が口を突いて出る竹内に、ジェイミーが語り始める。
かつてこの地に存在した帝国が滅んだ後、戦災や飢饉、疫病などが重なった。ドゥベの祖となった皇帝の血を引く一族に統治された町は、最悪の危機を迎える。若い女に特に重篤な症状をもたらす病によって、町で出産が可能な女が全て死に絶えてしまったのだ。現在バイドラグーンがある場所は、当時は孤立した山間部にある小さな町に過ぎなかった。疫病や飢饉、戦災が続く中では、よそから嫁をもらうのも絶望的な状況だった。
このままでは町は、そして皇帝の血を引く一族は滅ぶしかなくなる。誰もが絶望しかけた時、神々をまつる神官を務めていた男の娘の何人かが覚醒し、驚いたことに妊娠、出産能力を持ったのだ。
完全に男の娘に覚醒しなければ妊娠できないという条件はついたものの、これによって町は滅ぶことを免れた。ここから、大国であるドゥベの歴史は始まったと言ってよかった。
ドゥベにおいて美しい男の娘が神聖視されるのは、この辺りが大きく関係していたのだ。
「実の所、今のドゥベの国民の多くは男の娘の子孫だ。それに、私の母親も男の娘だったんだ」
ジェイミーは説明の最後をそう結んだ。
潮崎がここにいたら、“それなんてエロゲ?”と呆れていたことだろう。
だが、竹内にとっては呆れている場合ではなかった。自分は父親になるのだ。まだ心の準備が出来ていないなどと言ってはいられない。
「ええと、ジェイミー。確かドゥベでは同性婚できるんだよね?」
「ああ、ちょっと違う。もちろん同性婚もできるけどね。男の娘はドゥベでは第三の性として認められてるから、男の娘と男性、男の娘と女性の結婚も認められてるんだ」
竹内の問いに、ジェイミーが真顔で答える。ずいぶん開明的というか倒錯的というか…。まあ、とりあえずジェイミーと結婚ができることに安心した竹内は、早速入籍と結婚式の準備を始めることとしたのだった。
「あんっ...!もう...。もうすぐ式なのに...」
「ごめん、ジェイミーがあんまりきれいだから我慢できなくて」
結婚式場の控室。愛欲を我慢できない竹内とジェイミーは、タキシードとウェディングドレスの姿で愛し合っている。せっかくのドレスがしわになるもの構わず、立ちバックでジェイミーの尻穴に分身を挿入したのだ。ジェイミーのお腹は結婚式の準備の間にすっかり大きくなってしまい、マタニティ用のウェディングドレスを仕立てた。にもかかわらず、元が美しいジェイミーは、全くみっともなく見えないからすごい。
「ああ...ジェイミーのケツママ〇コは最高だよ」
「ううううんっ!もちろんだよ...ヒロミ専用のケツマ〇コだもの...!」
こうして見ると、”ついている”以外は女にしか見えないんだよな。タケウチはそんなことを思う。きちんと結った美しい茜色の髪。絹のような白い肌。細面で目鼻筋の整った美しい顔立ち。まあ、性別などささいなことなのだと、これほど幸せだと思えるのだが。
「ジェイミー、出すよ!」
「私も、私もイく...イくうううううううっ!」
タケウチがジェイミーの腸の奥に白濁を浴びせた瞬間、ジェイミーも達し、分身から白濁をとろとろと溢れさせていく。
「せっかく着付けしたのに!それにこのにおいどうするの!?」
竹内は、事後ジェイミーに怒られている。ジェイミーはしっかりした性格なので、厳粛な場所でみっともない装いや、事後のにおいなどいけないという考えが頭にあるのだ。
「まあ、いろいろ考えてありますとも」
竹内はウエットティッシュで汚れた部分を処理すると、ファブ〇ーズでにおいをごまかしていく。そして、あらかじめデジカメで撮っておいた花嫁姿を見ながら、着付けをし直していく。
「こういうことばっかり用意がいいんだから...」
「だめ...かな?」
ジェイミーは化粧を直しながら深くため息をつく。
「まあ、そういう人だと知っていて結婚を決めたんですけどね」
そう言って花が開くような笑顔を向ける。
これだよ。この笑顔が見たいから、ずっと一緒にいたいと思えたんだ。竹内は、そう思ったのだった。
03
「本当に疲れが溜まってるね。駐在武官ていうのは大変みたいね」
「そうなんだ...。戦闘機に乗ってたころが時々懐かしくなるよ...。ああ...いい感じだ...」
広い風呂場の中、竹内は、日本から取り寄せたソープマットの上で、ジェイミーのマッサージを受けている。うつぶせになった自分にジェイミーの肌が当たる感触が心地いい。
勉強熱心なジェイミーは、刑務所の職業訓練の中からマッサージを選択し、通常の服役の傍ら修練を重ねていた。
これは竹内にとってはありがたいことだった。一日中座りっぱなしで書類とにらめっこをし、官僚や政治家のお相手をする職務は、パイロットとは別の意味で疲労するのだ。
「ヒロミ、じゃあ、今度は奥までマッサージするからね...」
「うん...。頼む...」
そう言ったジェイミーは、竹内の尻にローションを垂らし、分身を軽く尻の割れ目に擦りつける。そして、ゆっくりと分身を竹内の尻穴に挿入して行く。
「ああ...!入ってくるうっ...!」
痛みはない。すでに何度も受け入れているから。
ジェイミーと添い遂げることに決めた竹内だが、逆アナルをされる感覚というのには抵抗が消えない。ましてそれが、男の娘のものであるとは言え、本物の男性器であればなおのこと。
だから、いつもマッサージという名目で自分をごまかしているのだった。ジェイミーに逆アナルをされている事実を認めるのは時間がかかりそうだった。例えすでに尻穴の快楽を教え込まれているとしても。ジェイミーの尻穴開発は、それくらい巧みで心地よかったのだ。
「ううううっ!出るううっ!」
「私も出るよっ中に出すからね!」
ジェイミーの分身が竹内の中で爆ぜるのとほぼ同時に、竹内も所謂トコロテン射精をしていた。誰も触れていない亀頭の先から、とろとろと白濁が溢れていく。普通の射精とは全く違う。女のように尻穴を犯されて出してしまうという感覚がたまらない。
もう自分はジェイミーなしでは生きては行けない。竹内はそう思った。
「母上、申し訳ありません!薫はいい子にしていますか?」
激しい逆アナルの余韻から覚めて、風呂場の後始末をしたジェイミーと竹内が、屋敷の居間にバスローブ姿で足を運ぶ。レイチェルが”静かに”と合図をする。
二人が結婚した後、ジェイミーの後見役であったレイチェルの勧めで、二人はレイチェルの家に住まわせてもらうことにしたのだ。二人とも忙しい身、メイドや執事を雇うのも安くないとなれば、これは非常にありがたいことだった。
ジェイミーは、子育てのため、子供が1歳になるまでという期限を設けて、刑務所での服役を免除されていた。子育てを丸投げして夫とのセックスに夢中になっていたらまずいだろうなとは思うが、どうしても触れ合いたくて我慢できないのだ。まあその辺はレイチェルもわかってくれているが。
「今やっと寝付いたところですよ。ジェイミー、赤ちゃんのころのあなたに似て、よく泣く子ね」
メイドの一人から竹内とジェイミーの子、薫を受け取り、ベビーベッドに寝かせたレイチェルは苦笑する。
「む...昔のことを言われるのは...」
「あら、ごめんなさい。でも、赤ちゃんのころのあなたって、とても可愛かったのよ」
レイチェルがころころと笑う。母性本能の強い人だから、こういうのが楽しいのだろう。
「レイチェル様、感謝の限りです。薫の面倒まで見ていただいているのですから...」
つい恐縮してしまう竹内。なんと言っても、相手は名目上だったとはいえ、先代のこの国の君主なのだ。
「もう、いつになったらお義母さんて呼んでくれるのかしら?ママでもいいけれど?」
「それは...」と竹内は口ごもってしまう。レイチェルとは5つしか年が離れていないのだ。レイチェルの実家は子だくさんで、貴族の家とは言え、長女であったレイチェルも下の兄弟たちの世話をしていた経緯もあって、赤ちゃんが大好きというのは知っている。
たしかにいいお母さんだとは思うが、お義母さんと呼ぶのはどうも...。
とはいえ、子育てという大変で責任ある役目を丸投げするのは忍びなかったのだ。
「まだ若いのに、おばあちゃんになったのは、嬉しいけどいろいろ複雑なんです。孫の顔を長く見ていたい気持ちもお察しくださいな?キャサリンも、薫が好きみたいだしね」
レイチェルはそう言って、よちよちと歩み寄ってくる我が子、キャサリンを抱き上げる。豊かなふくらみを露出させると、授乳を始める。
正に母、優しく器の大きい人だ。とジェイミーは思う。多国籍軍の拘置所で再会した時、レイチェルはジェイミーをひっぱたいて厳しく叱った。
その後で、「無事で良かった」「心配したのですよ」と、実の母のように接してくれた。ジェイミーは、レイチェルの愛情に背を向けて反乱兵となったことを後悔した。
そして、自分を我が子と思ってくれるこの母のためにも、しっかりと人生をやり直そうと決意したのだ。
レイチェルは、ジェイミーが竹内と結婚するにあたり、正式にジェイミーを養子とした。竹内は、ベネトナーシュ王国で功績を認められ、貴族の称号を賜っている立場だ。両親が死亡して誰の後ろ盾もない状況で嫁に出すのは忍びないと、結婚の直前に縁組を申し出たのだ。
本当に強い女性だ。いや、いくつもの逆境や悲しみ、過ちを経験して強くなったと言うべきか。ジェイミーと竹内はそう思う。自分たちも、親として彼女と同じくらいに強くならなければ。そう思えるのだった。
04
そろそろ雪が溶けて、春の足音が聞こえる季節。バイドラグーン郊外のカール刑務所から、市街へと帰路に着く馬車があった。
「ジョージめ。相変わらず人を食った態度だ。あれじゃ仮釈放はいつになるか」
薫を抱いたジェイミーが渋面を貼り付けて言う。レイチェルに連れられ、キャサリン、竹内、薫と一緒に服役中のジョージと面会してきたところだ。ジョージは相変わらず人を茶化してばかり。仮釈放が得られるのか、本当に心配になってくる。
「まあ、ああいう子ですから。若いころのリチャードにそっくり」
ジェイミーと竹内は、やれやれと顔を見合わせる。
ふと、戦争の負の記憶を風化させないための記念碑として置かれている、撃墜されたF-35Cが目に入る。
「戦争があったんだよな...」
「そうだね」
遠い眼をするジェイミーに竹内が応じる。
「今にして思うと、私は勝ってどうしたかったんだろう?」
ジェイミーは思いをはせる。全ての物事には理由がある。勝ちたいと思う気持ちも然りだ。
最初は愛する祖国の栄光とか、自分が率いる姫若子部隊に活躍の場を与えるためとか、自分なりの理由があったと思う。それが、いつの間にか勝利そのものが目的になり、勝ってどうしたいのかを忘れていった。
戦いのための戦い。勝利のための勝利など空しいし、危険であるとわかっていたはずなのに、勝利そのものに執着していった。だからこそ自分は”自由と正義の翼”に身を投じ、反乱兵になり果てた。大義という名のエゴのために、多くの人々の命と財産を奪う結果になった。
「ジェイミーはそう疑問に思うことができた。それはいいことだと思うよ」
竹内が優しい声で言う。
「そうですね。戦う理由を見失ったまま戦死していった人たちも多くいたのではないですか?妾は、ジェイミーが自分を顧みることができたのは素敵なことだと思いますよ」
キャサリンを抱いたレイチェルが、穏やかな笑みを浮かべて言う。
「何ていうか...二人にそう言ってもらえて、すごく嬉しいな。私はこれからもいろいろ間違うと思うけど、大事な人がそばにいれば取り返しのつかないことはしないで済みそう。そう思えるんです...」
よく見ると、F-35Cはキャノピーがなく、シートもなくなっている。パイロットはペイルアウトできたらしい。そのパイロットは、生きて再スタートを切れているのだろうか?ジェイミーはそんなことを思う。
平和は次の戦争の準備期間に過ぎない。おそらく今はそれが現実だろう。でも、どんなことがあっても、生きてさえいれば人には明日がある。きっとその先に幸せもある。今の自分のように。
その考えを、これからの指針にしていこうとジェイミーは心に決める。胸に抱いた我が子に、自分のような過ちと不幸を経験して欲しくないと、心から思うから。
男の娘である自分を受け入れて愛してくれる夫と、犯罪者に身を落とした自分を我が子と呼んで理解してくれた義母に、心から感謝しながら。
つづく
"自由と正義の翼"は、憎しみを忘れられないものたちの集まりだったんだろうね。
そして"彼ら"もまた憎しみに呑まれた。親友であったもの同士が殺しあった。これほど悲しいことはない。
だが、人は憎しみを越えて未来に生きることのできる生き物だ。
愛しい人と再開できて俺はそれを知った。
それがせめてもの救いだったよ。
私は温かい生活を手に入れた。
はからずも、戦いに負けたおかげかもしれない。
パラシュートで地上に降りた私を発見したのがベネトナーシュ軍だった。そして、彼と再開できたんだ。
でもそこに、仲間たちの姿はなかった。
01
竹内寛実二等空尉。
元航空自衛隊所属。そして、ベネトナーシュ王立空軍義勇兵。
地球から異世界に配属されて以来、都合3回の被撃墜、そして生還を果たしている男。もちろんイーグルファイターに恥じない戦いをし、戦果もあげている。しかし、3度撃墜されて生き延びたいきさつから、「死ねない男」という通り名がすっかり定着している。
彼の人生は、エリート、勝ち組といっていい人生だったが、必ずしも本意とする人生ではなかった。
親が幕僚まで勤めた航空自衛官という理由でほとんど問答無用で防大に入学し、空自に進む。彼自身はのんびりした気質で、イーグルファイターとなったことも、義勇兵として異世界に派遣されたことも成り行きでしかなかった。それを、体で実感することになる。3機ものF-15Jを壊してしまい、左遷か免職を覚悟した。しかし、なまじ敵機撃墜のスコアも稼いでいたため、左遷によって現場から離れさせてもらうことさえできなかった。あまつさえ、何度も撃墜されながら生還した英雄として、宣伝に使われる動きさえあったのだ。
でも、と思う。撃墜されてさまよった先で、運命の人と言っていい人物に会えた。それは、戦いに身を投じて初めて良かったと思えたことだった。スカートをまくり、パンツを下ろしたその人物に”ついている”ことなどどうでもよかった。
その後、その人物とは紆余曲折あった。それでも、再会して触れ合うことができたのだ。
「ジェイミー...。会いたかったよ!」
「タケウチ...?ふふ...その...私も会いたかったよ」
ゲルセミのベネトナーシュ王立軍の基地、逮捕された”自由と正義の翼”のメンバーが収容される施設。ジェイミーの収用された房に職権乱用という形で忍びこんだ竹内は、感極まってジェイミーを強く抱きしめる。
「おいおい、私は男の娘だぞ...?いいのか?」
「いいよ!俺にはジェイミーしかいないんだ。ジェイミーに会えた...!嬉しくてしょうがないんだ!」
ジェイミーの胸に、温かくて優しい心地が拡がり、そして自分の中で何かが覚醒していく感覚を覚える。これってもしかして、伝え聞く...。
「タケウチ...いやヒロミ...。もし嫌でなければ、私を抱いてくれないか?」
そうして、ジェイミーは竹内に”処女”を捧げた。それがのちのち大騒ぎの元になるのである。
ジェイミー・ルク・ドゥベは、男の娘である。見た目も声も全く女にしか思えないほどの美しさ。だが男の娘だ。
それには相応の理由がある。ドゥベ公国の伝説には、男の娘が民族を救う伝説が残されていたのだ。あるとき戦災と疫病で女が死に絶えてしまい、生き残ったのは男だけ。このままでは滅ぶしかないという状況の中で、男の何人かが男の娘として覚醒し、妊娠、出産能力を持った。
そのおかげで滅びずに済んだという伝承だ。男の娘が妊娠するという話は脇に置いても、男の娘を第三の性として神聖視する風潮はドゥベに残り続けた。
それが、ジェイミー率いる姫若子部隊が高い地位を得ることができた要因でもあった。
だが、電磁波兵器”リディル”を巡る攻防戦と、味方を巻き込んだ地震兵器を用いた作戦を目の当たりにして、ジェイミーは祖国に裏切られた怒りと憎しみに囚われてしまう。ジェイミーは、それまで重ねてきた全てを捨て、”自由と正義の翼”に合流してしまう。ただ、仲間の仇である祖国と多国籍軍への復讐。そして自分に屈辱を与えた青いセントウキを倒すことだけを考えて。
が、その短絡的な憎しみと復讐心こそが、今にして思えば命取りだった。
あっさりと返り討ちにされ、また一頭のドラゴンを死なせてしまった失態は、自分の不徳だとはっきり思える。
もう自分は空に上がることもなければ、部隊を率いることもない。そう思えるのだった。
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ジェイミーは多国籍軍に投降した後、国家に対するテロの罪で逮捕され、二桁に及ぶ罪状で起訴されることとなる。
懲役20年で済んだのは、弁護人たちの努力と、“自由と正義の翼”に同情的な世論を裁判官たちが無視できなかったことがある。
それに加えて、竹内が愛する者のためと奔走したことももちろんあった。
ジェイミーが祖国であるドゥベに裏切られ、戦友や部下を津波によって奪われたこと。ドゥベという国を心から愛していたジェイミーは、祖国が地球の国家の植民地のように扱われることに耐えられなかったことなどを、ドゥベ司法省や多国籍軍の法務に切々と説いた。
また、半ば自暴自棄になっていたジェイミーに、司法取引に応じて減刑を得ようと必死で説得した。竹内の熱意に心を動かされたジェイミーは、“自由と正義の翼”に関して自分の知る情報を全て多国籍軍と司法省に提供することを承諾した。
それが実り、なんと実刑判決を受けながら、週3日までを条件として、バイドラグーンの山の手にある自分の家に居住することが認められたのだ。まあこれは、アメリカがこっそり“自由と正義の翼”に多国籍軍の情報を流していた証拠を得たい地球の各国の思惑もあったが。
ベネトナーシュ軍の航空師団を辞して、ドゥベの駐在武官に志願した竹内は、ジェイミーと一緒に暮らすことになる。週4日は刑務所で服役するため離れなければならないのは辛かったが、それでも愛おしい者が側にいることに変わりはない。
竹内は、この愛しくて可愛い男の娘との生活に幸せを感じていた。
「おめでたです」
「はい…?」
ドゥベ公国首都バイドラグーンの総合病院の特別産婦人科。アメリカの大学から派遣されてきた医師の言葉に、竹内の目が点になる。
「いやあ、私も男の娘を看るのはこれで2回目なんですがね。やっぱり不思議ですねえ」
「いやあ、私も、いざ妊娠してみるとけっこう不思議な感じでして」
いかにも生真面目という感じのアフリカ系アメリカ人が冗談を言っているようには思えない。
照れくさそうに竹内の横で応じるジェイミーの目も、伊達や酔狂の色はない。
「男の娘って妊娠するって本当だったんだ…」
「なにを今さら。それがなかったら、ドゥベは今頃存在してなかったさ」
正直な感想が口を突いて出る竹内に、ジェイミーが語り始める。
かつてこの地に存在した帝国が滅んだ後、戦災や飢饉、疫病などが重なった。ドゥベの祖となった皇帝の血を引く一族に統治された町は、最悪の危機を迎える。若い女に特に重篤な症状をもたらす病によって、町で出産が可能な女が全て死に絶えてしまったのだ。現在バイドラグーンがある場所は、当時は孤立した山間部にある小さな町に過ぎなかった。疫病や飢饉、戦災が続く中では、よそから嫁をもらうのも絶望的な状況だった。
このままでは町は、そして皇帝の血を引く一族は滅ぶしかなくなる。誰もが絶望しかけた時、神々をまつる神官を務めていた男の娘の何人かが覚醒し、驚いたことに妊娠、出産能力を持ったのだ。
完全に男の娘に覚醒しなければ妊娠できないという条件はついたものの、これによって町は滅ぶことを免れた。ここから、大国であるドゥベの歴史は始まったと言ってよかった。
ドゥベにおいて美しい男の娘が神聖視されるのは、この辺りが大きく関係していたのだ。
「実の所、今のドゥベの国民の多くは男の娘の子孫だ。それに、私の母親も男の娘だったんだ」
ジェイミーは説明の最後をそう結んだ。
潮崎がここにいたら、“それなんてエロゲ?”と呆れていたことだろう。
だが、竹内にとっては呆れている場合ではなかった。自分は父親になるのだ。まだ心の準備が出来ていないなどと言ってはいられない。
「ええと、ジェイミー。確かドゥベでは同性婚できるんだよね?」
「ああ、ちょっと違う。もちろん同性婚もできるけどね。男の娘はドゥベでは第三の性として認められてるから、男の娘と男性、男の娘と女性の結婚も認められてるんだ」
竹内の問いに、ジェイミーが真顔で答える。ずいぶん開明的というか倒錯的というか…。まあ、とりあえずジェイミーと結婚ができることに安心した竹内は、早速入籍と結婚式の準備を始めることとしたのだった。
「あんっ...!もう...。もうすぐ式なのに...」
「ごめん、ジェイミーがあんまりきれいだから我慢できなくて」
結婚式場の控室。愛欲を我慢できない竹内とジェイミーは、タキシードとウェディングドレスの姿で愛し合っている。せっかくのドレスがしわになるもの構わず、立ちバックでジェイミーの尻穴に分身を挿入したのだ。ジェイミーのお腹は結婚式の準備の間にすっかり大きくなってしまい、マタニティ用のウェディングドレスを仕立てた。にもかかわらず、元が美しいジェイミーは、全くみっともなく見えないからすごい。
「ああ...ジェイミーのケツママ〇コは最高だよ」
「ううううんっ!もちろんだよ...ヒロミ専用のケツマ〇コだもの...!」
こうして見ると、”ついている”以外は女にしか見えないんだよな。タケウチはそんなことを思う。きちんと結った美しい茜色の髪。絹のような白い肌。細面で目鼻筋の整った美しい顔立ち。まあ、性別などささいなことなのだと、これほど幸せだと思えるのだが。
「ジェイミー、出すよ!」
「私も、私もイく...イくうううううううっ!」
タケウチがジェイミーの腸の奥に白濁を浴びせた瞬間、ジェイミーも達し、分身から白濁をとろとろと溢れさせていく。
「せっかく着付けしたのに!それにこのにおいどうするの!?」
竹内は、事後ジェイミーに怒られている。ジェイミーはしっかりした性格なので、厳粛な場所でみっともない装いや、事後のにおいなどいけないという考えが頭にあるのだ。
「まあ、いろいろ考えてありますとも」
竹内はウエットティッシュで汚れた部分を処理すると、ファブ〇ーズでにおいをごまかしていく。そして、あらかじめデジカメで撮っておいた花嫁姿を見ながら、着付けをし直していく。
「こういうことばっかり用意がいいんだから...」
「だめ...かな?」
ジェイミーは化粧を直しながら深くため息をつく。
「まあ、そういう人だと知っていて結婚を決めたんですけどね」
そう言って花が開くような笑顔を向ける。
これだよ。この笑顔が見たいから、ずっと一緒にいたいと思えたんだ。竹内は、そう思ったのだった。
03
「本当に疲れが溜まってるね。駐在武官ていうのは大変みたいね」
「そうなんだ...。戦闘機に乗ってたころが時々懐かしくなるよ...。ああ...いい感じだ...」
広い風呂場の中、竹内は、日本から取り寄せたソープマットの上で、ジェイミーのマッサージを受けている。うつぶせになった自分にジェイミーの肌が当たる感触が心地いい。
勉強熱心なジェイミーは、刑務所の職業訓練の中からマッサージを選択し、通常の服役の傍ら修練を重ねていた。
これは竹内にとってはありがたいことだった。一日中座りっぱなしで書類とにらめっこをし、官僚や政治家のお相手をする職務は、パイロットとは別の意味で疲労するのだ。
「ヒロミ、じゃあ、今度は奥までマッサージするからね...」
「うん...。頼む...」
そう言ったジェイミーは、竹内の尻にローションを垂らし、分身を軽く尻の割れ目に擦りつける。そして、ゆっくりと分身を竹内の尻穴に挿入して行く。
「ああ...!入ってくるうっ...!」
痛みはない。すでに何度も受け入れているから。
ジェイミーと添い遂げることに決めた竹内だが、逆アナルをされる感覚というのには抵抗が消えない。ましてそれが、男の娘のものであるとは言え、本物の男性器であればなおのこと。
だから、いつもマッサージという名目で自分をごまかしているのだった。ジェイミーに逆アナルをされている事実を認めるのは時間がかかりそうだった。例えすでに尻穴の快楽を教え込まれているとしても。ジェイミーの尻穴開発は、それくらい巧みで心地よかったのだ。
「ううううっ!出るううっ!」
「私も出るよっ中に出すからね!」
ジェイミーの分身が竹内の中で爆ぜるのとほぼ同時に、竹内も所謂トコロテン射精をしていた。誰も触れていない亀頭の先から、とろとろと白濁が溢れていく。普通の射精とは全く違う。女のように尻穴を犯されて出してしまうという感覚がたまらない。
もう自分はジェイミーなしでは生きては行けない。竹内はそう思った。
「母上、申し訳ありません!薫はいい子にしていますか?」
激しい逆アナルの余韻から覚めて、風呂場の後始末をしたジェイミーと竹内が、屋敷の居間にバスローブ姿で足を運ぶ。レイチェルが”静かに”と合図をする。
二人が結婚した後、ジェイミーの後見役であったレイチェルの勧めで、二人はレイチェルの家に住まわせてもらうことにしたのだ。二人とも忙しい身、メイドや執事を雇うのも安くないとなれば、これは非常にありがたいことだった。
ジェイミーは、子育てのため、子供が1歳になるまでという期限を設けて、刑務所での服役を免除されていた。子育てを丸投げして夫とのセックスに夢中になっていたらまずいだろうなとは思うが、どうしても触れ合いたくて我慢できないのだ。まあその辺はレイチェルもわかってくれているが。
「今やっと寝付いたところですよ。ジェイミー、赤ちゃんのころのあなたに似て、よく泣く子ね」
メイドの一人から竹内とジェイミーの子、薫を受け取り、ベビーベッドに寝かせたレイチェルは苦笑する。
「む...昔のことを言われるのは...」
「あら、ごめんなさい。でも、赤ちゃんのころのあなたって、とても可愛かったのよ」
レイチェルがころころと笑う。母性本能の強い人だから、こういうのが楽しいのだろう。
「レイチェル様、感謝の限りです。薫の面倒まで見ていただいているのですから...」
つい恐縮してしまう竹内。なんと言っても、相手は名目上だったとはいえ、先代のこの国の君主なのだ。
「もう、いつになったらお義母さんて呼んでくれるのかしら?ママでもいいけれど?」
「それは...」と竹内は口ごもってしまう。レイチェルとは5つしか年が離れていないのだ。レイチェルの実家は子だくさんで、貴族の家とは言え、長女であったレイチェルも下の兄弟たちの世話をしていた経緯もあって、赤ちゃんが大好きというのは知っている。
たしかにいいお母さんだとは思うが、お義母さんと呼ぶのはどうも...。
とはいえ、子育てという大変で責任ある役目を丸投げするのは忍びなかったのだ。
「まだ若いのに、おばあちゃんになったのは、嬉しいけどいろいろ複雑なんです。孫の顔を長く見ていたい気持ちもお察しくださいな?キャサリンも、薫が好きみたいだしね」
レイチェルはそう言って、よちよちと歩み寄ってくる我が子、キャサリンを抱き上げる。豊かなふくらみを露出させると、授乳を始める。
正に母、優しく器の大きい人だ。とジェイミーは思う。多国籍軍の拘置所で再会した時、レイチェルはジェイミーをひっぱたいて厳しく叱った。
その後で、「無事で良かった」「心配したのですよ」と、実の母のように接してくれた。ジェイミーは、レイチェルの愛情に背を向けて反乱兵となったことを後悔した。
そして、自分を我が子と思ってくれるこの母のためにも、しっかりと人生をやり直そうと決意したのだ。
レイチェルは、ジェイミーが竹内と結婚するにあたり、正式にジェイミーを養子とした。竹内は、ベネトナーシュ王国で功績を認められ、貴族の称号を賜っている立場だ。両親が死亡して誰の後ろ盾もない状況で嫁に出すのは忍びないと、結婚の直前に縁組を申し出たのだ。
本当に強い女性だ。いや、いくつもの逆境や悲しみ、過ちを経験して強くなったと言うべきか。ジェイミーと竹内はそう思う。自分たちも、親として彼女と同じくらいに強くならなければ。そう思えるのだった。
04
そろそろ雪が溶けて、春の足音が聞こえる季節。バイドラグーン郊外のカール刑務所から、市街へと帰路に着く馬車があった。
「ジョージめ。相変わらず人を食った態度だ。あれじゃ仮釈放はいつになるか」
薫を抱いたジェイミーが渋面を貼り付けて言う。レイチェルに連れられ、キャサリン、竹内、薫と一緒に服役中のジョージと面会してきたところだ。ジョージは相変わらず人を茶化してばかり。仮釈放が得られるのか、本当に心配になってくる。
「まあ、ああいう子ですから。若いころのリチャードにそっくり」
ジェイミーと竹内は、やれやれと顔を見合わせる。
ふと、戦争の負の記憶を風化させないための記念碑として置かれている、撃墜されたF-35Cが目に入る。
「戦争があったんだよな...」
「そうだね」
遠い眼をするジェイミーに竹内が応じる。
「今にして思うと、私は勝ってどうしたかったんだろう?」
ジェイミーは思いをはせる。全ての物事には理由がある。勝ちたいと思う気持ちも然りだ。
最初は愛する祖国の栄光とか、自分が率いる姫若子部隊に活躍の場を与えるためとか、自分なりの理由があったと思う。それが、いつの間にか勝利そのものが目的になり、勝ってどうしたいのかを忘れていった。
戦いのための戦い。勝利のための勝利など空しいし、危険であるとわかっていたはずなのに、勝利そのものに執着していった。だからこそ自分は”自由と正義の翼”に身を投じ、反乱兵になり果てた。大義という名のエゴのために、多くの人々の命と財産を奪う結果になった。
「ジェイミーはそう疑問に思うことができた。それはいいことだと思うよ」
竹内が優しい声で言う。
「そうですね。戦う理由を見失ったまま戦死していった人たちも多くいたのではないですか?妾は、ジェイミーが自分を顧みることができたのは素敵なことだと思いますよ」
キャサリンを抱いたレイチェルが、穏やかな笑みを浮かべて言う。
「何ていうか...二人にそう言ってもらえて、すごく嬉しいな。私はこれからもいろいろ間違うと思うけど、大事な人がそばにいれば取り返しのつかないことはしないで済みそう。そう思えるんです...」
よく見ると、F-35Cはキャノピーがなく、シートもなくなっている。パイロットはペイルアウトできたらしい。そのパイロットは、生きて再スタートを切れているのだろうか?ジェイミーはそんなことを思う。
平和は次の戦争の準備期間に過ぎない。おそらく今はそれが現実だろう。でも、どんなことがあっても、生きてさえいれば人には明日がある。きっとその先に幸せもある。今の自分のように。
その考えを、これからの指針にしていこうとジェイミーは心に決める。胸に抱いた我が子に、自分のような過ちと不幸を経験して欲しくないと、心から思うから。
男の娘である自分を受け入れて愛してくれる夫と、犯罪者に身を落とした自分を我が子と呼んで理解してくれた義母に、心から感謝しながら。
つづく
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