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第七章
外伝ex To the next
しおりを挟む「まさか飛行教導群の隊長とはねえ...」
百里基地に新しく与えられた机の上に、新しく自分が引率する部隊の資料を拡げた潮崎は複雑な気分になる。飛行教導群は、空自に存在するアグレッサー部隊だ。仮想的部隊として非常に高い能力が求められる部隊で、空自の中ではエリート部隊とみなされる一方、勤務内容の過酷さでも知られる。まあ、その甲斐あってか、国際合同訓練では、「こいつら人間じゃねえ!」(意訳)という評価を頂戴するほどの実力を示しているのだが。
潮崎も、異世界でGPSや軍事ネットワークがない中で武功を重ねてきたことが買われ、三等空佐への昇進と同時に、教導群に新設される部隊の隊長を拝命したのだ。
ただ、自分がまかされる部隊は少し特殊なようだ。前職はヘリのパイロットや地上勤務、輸送機や哨戒機とそれぞれだが、どうもサイコシンクロニティとの適合率が高い人間が集まっているようだ。
つまり、サイコセンサーとサイコトランスミッターを実戦レベルで使いこなせる才能のある者たち。行ってしまえばニュー〇イプ部隊の候補生たちということになる。
当然のように、サイコシンクロニティは異世界でこそ真価を発揮するから、自分が担当する部隊は、アグレッサー部隊とは名ばかりの、異世界の空で戦うことを予定した部隊ということになる。
「しかも、任される機体がF-35CJだと?」
F-35CJは、F-35シリーズの空母艦載機型であるC型を日本の技術で手直しした機体だ。最初は与太話と聞き流していたが、”海さん”こと海自が、正規空母の運用を予定しているという話は、この書類と、実際に外の滑走路に駐機しているF-35CJを見る限り本当らしい。
なぜパイロットの養成が空自に廻って来るかと言えば、完全に独立した戦闘機部隊を保有する余裕が、人手不足の海自にはないことによる。現状海自のヘリ搭載護衛艦に乗せられるF-35BJのパイロット達にしたって、全員空自からの出向組だ。
潮崎はなにやらきな臭いものを感じずにはいられなかった。異世界の情勢は、”時空門”が開いた直後に比べれば安定しているとはいえ、紛争や暴動、地方の反乱と言った不安要素はなくなったわけではない。地球に目を向ければ、異世界に大衆の関心が向いていて小康状態とはいえ、島や海域を巡ってのにらみ合いや小競り合いは続いている。
また次の戦いの準備か。ため息をつかずにはいられないが、それならば、無駄死にが出ることが決してないように、徹底的に部下を鍛え上げるのが自分の仕事。潮崎はそう思った。
「失礼します!」
事務所に大きな声が響く。いかにも初任幹部の若造という感じの幹部自衛官が入って来る。
「潮崎三佐、お目にかかれて光栄です!木ノ原慎治三尉、着任報告いたします!」
まだ着慣れていない青い制服をまとった若者が、敬礼しながら元気よく報告をする。
背丈は185センチを超える。肩幅が広く、胸板も厚い。おそらく地毛だろう赤毛のせいであまり自衛官らしくは見えない。もっともチャラそうな感じはしない。どちらかと言うと、スポーツ選手かロックミュージシャンというところか。
「ご苦労。潮崎だ。
貴様か、初任幹部の分際で教導群に配属されたという若造は?覚悟しておけ。幹校が天国に思えるほどきついぞ!」
潮崎は立ち上がり、脅し文句をかける。目の前にいる若造は、当然のように実戦経験はない。
まあ訓練成績は優秀だし、サイコシンクロニティの適合率はなんと自分とどっこいだ。磨けばさらに光るだろう。だが、それだけでは実戦は戦えない。厳しい訓練に耐え、上官の罵倒に耐えて、機体を自分の体の一部と思えるようになって、ようやく実戦の入り口に立つ資格を得るに過ぎない。
どんなに優秀で、必死で努力しているやつらでも死ぬときは死ぬ。それが戦場だ。だが、この若造は鍛え上げれば生き残れるような気が、潮崎にはしたのだ。
そのためには、徹底してしごいてやらなくては。
「幹校では優秀だったからって、ここで通用すると思うな。空では実力が全てだ。それを教え込んでやる」
期待と、少しばかり意地悪な気持ちを込めて、潮崎はそう言った。
内心で、この若造にとって異世界の空が意義のある場所であることを願いながら。
了
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