時空を駆ける荒鷲 シーズン2 F‐15J未智の海原へ

ブラックウォーター

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06

外伝2 過ちと裏切りの果ての幸せ

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 01
 地球から見て異世界と呼ばれる場所の海。
 空母“ほうしょう”を基幹とする空母機動群5隻はその威容を示しながらブローンルック半島沖を航行している。
 かつて“ジョン・F・ケネディ”と呼ばれた米海軍の通常動力空母を安く下取りし、機関をガスタービンと電動機に交換。蒸気カタパルトはリニアカタパルトに換装して艦載機の運用効率も飛躍的に向上している。
 私は伊藤文。一等海佐で、海上自衛隊から平和維持軍に派遣されている。
 この“ほうしょう”の初代艦長を拝命し、現在訓練航海の真っ最中だ。
 言うまでもないことだが、空母はそれ自体は海に浮かぶ巨大な鉄の箱に過ぎない。字義通り、艦載機の母艦として機能してこそその価値を発揮する。
 「来たか」
 ブリッジの中、私はそう言って窓に近寄り、双眼鏡でエンジンの音がする方向を確認する。まだ豆粒のような大きさだが、そのマッシブなシルエットは間違いようがない。
 我が国が誇るF-15JSだった。6機の編隊は一糸乱れぬ動きで接近してくる。
 『こちらシグルド1。“ほうしょう”へ着艦許可願う』
 低く良く通る女の声が着艦許可を求めてくる。
 私は飛行長の橋本由紀保三等海佐に「任せます」と告げる。
 「シグルド隊、着艦を許可する。歓迎するぞ」
 橋本三佐の許可に応じて、F-15JSが次々と着艦してくる。
 どうも違和感が消えないな。私はそう思う。本来艦載機ではないF-15JSに最低限の改造を施しただけの機体で、型番もそのままだ。それが危なげなく飛行甲板に着艦しているのだから、奇妙に見えない方がおかしい。
 まあ、本格的な制空戦闘機と言える艦載がなかったのだから仕方ない。空母艦載機としてはいろいろ問題があるが、F-15JSの空戦能力はどうしても必要と判断された結果だった。
 機体を整備員に預けた6人のパイロットたちが整然とブリッジに入ってきて整列する。
 「龍坂素子一等海尉以下6名、シグルド隊着任報告いたします!」
 飛行服姿のパイロットたち6名が、一斉に敬礼をする。
 もちろん“彼”も。
 彼、シグルド6こと木ノ原慎治三等海尉は、私と目線が合うと露骨に引きつった顔をする。
 あの時の坊ちゃんが今やパイロット。立派になったものだと思ったのは買いかぶりだったらしい。

 02
 10年ほど前、私は夫を裏切ってしまった。
 最初は酒で酔いつぶされて無理やり犯された。
 その段階で毅然としていれば、過ちとは言えなかっただろう。なのに…。
 「こんばんは、文さん。会いたかったよ」
 私は慎治君の待つビジネスホテルに自分で足を運んでいた。もう何度目になるだろう…。
 彼に呼び出されてしまうとどうしても抗うことができない。こんなこといけない。終わりにしなければと思うのに、彼の求めに応じてしまう…。
 「慎治君…困るわ…」
 「まあそう言わずに。今日もきれいだよ」
 息子ほども年が離れた男の子に抱きしめられて、私は女の芯が熱くなるのを感じる。
 きれいだと言われて、嬉しくなってしまう自分が惨めで仕方がない。実際、慎治君と不倫関係になってからきれいになっている自覚があるから…。
 娘が生まれて以来、育児と仕事の両立に必死で、おしゃれに気を遣う暇もなかった。
 いつの間にか化粧も服装も適当になり、肌や髪の手入れもおざなりになっていた。
 でも、慎治君と不倫を初めて以来、彼がきれいだと言ってくれるのが嬉しくて、自分を磨くようになってしまっていた。
 美容院やエステにめんどくさがらず通うようになって、肌や髪が若返っている。運動する習慣をつけたお陰で、だらしなくたるみはじめていたお腹周りやお尻が引き締まっていく。
 不倫相手である慎治君にきれいだと言ってもらえるのが嬉しくて…。
 海上自衛官である私は家にいないことが多いし、夫は都市銀行の課長でいろいろ忙しい。もうずっとレスの状態が続いている…。
 女としての私を見て、褒めてくれて、性の対象として見てくれる慎治君との不倫セックスに、私はすっかり夢中になってしまっていたのだ。
 「文さん、好きだよ」
 キスをされ、愛を囁かれると、私の理性は完全に麻痺してしまう。
 慎治君が望むなら、なんでもしてしまうようになる。
 「もうこんなに濡らしてるんだね」
 「ああ…そんなこと言わないで…」
 裸にされてベッドの転がされるだけで、私の女の部分はすでにえっちな汁でとろりと濡れている。
 「ああああっ…慎治君…待って…待ってってば…!」
 「なにいってんのさ?大洪水じゃないか!
 旦那じゃ満足できないんだろ?お○んこ大好きおばさん!」
 私を熱くて固い物で貫きながら、慎治君はそんなことを言う。
 ひどい…こんなおばさんを無理やり犯したのは慎治君じゃない…。
 こんな大きくて固いもので何度も犯されて…。お尻の穴にまで入れられて…。夫では感じることができなかった気持ちよさを感じさせられて…。
 セックスのことしか考えられなくなっても仕方ないじゃない…。慎治君じゃないと満足できなくなっても…。
 「愛してるよ、文さん…」
 「ああ…慎治君…私も愛してるわ…」
 嘘なのはわかっている。彼が人妻を抱きたがるのは単なる趣味だ。私以外にも何人もの人妻と不倫関係にある。
 私が最初に彼に犯されたのも、彼のいいなりになっていた人妻の1人にお酒を飲まされてホテルに連れ込まれたのが始まりだった。
 友達だと思っていた女が、よもや息子のような年の男の子と不倫をしていて、しかも私を巻き込むとは思いも寄らなかった。
 でも…今なら彼女がそうなってしまったのもわかる気がする。
 私や彼女のような年の女は、欲求不満であることが多い。夫は忙しくてセックスより仕事優先になりやすいのが相場だ。なにより、女は30代から性欲が強くなるのに、男は30代から勢力が減衰するのだ。
 夫とずっとなくて身体が疼いているところに、こんな気持ちいいセックスをしてしまったら…。
 夫が最近すっかり言ってくれなくなった「好き」「愛してる」という言葉を、思い切り強く抱きしめられながら耳元で囁かれたら…。
 彼に愛してもらうこと、セックスをしてもらうこと以外なにも考えられなくなってしまう…。

 03
 そして、何度も彼と不倫セックスをして、避妊もせずに精液を注がれ続けた結果、私は妊娠した。
 「嬉しいな。生んでくれるよね?旦那さんの子供として」
 「はい…」
 慎治君の悪魔の囁きを、私はどうしても拒絶できなかった。不倫相手との子供を旦那の子として育てるなんてうまくいくわけがない…。
 きっといずればれて、破滅する時が来る。家族も仕事も社会的信用も、全部失う時が来る…。
 中絶しろと言われるより、よほど残酷なことだった。
 でも、私はどうしても慎治君に逆らうことができなかったのだ。
 「元気な子を産んでくれよな」
 そう言った慎治君を見て、私はなんとなく思った。彼は正気だ。
 人妻に託卵をする倒錯した喜びとは違う。純粋に私が自分の子供を宿したことを喜んでいるように見えた。
 本人も気づいていないかも知れないけど、決して狂ってはいない。むしろ、正気を保つために狂っている風を演じているように思えた。他人にも、なにより自分に対しても。
 前にベッドの中で話してくれたことを思い出す。
 10代前半の折り、父親の転勤先だった南米某国で内戦に巻き込まれた彼は、生きるために少年兵として戦うことを余儀なくされた。
 両親とはぐれ、土地の警察や軍隊も機能が麻痺しているとなれば、自分の身を守れるのは自分だけだった。
 そこで彼はこの世の地獄を見ることになる。
 まだ10歳の娼婦が身体を売るために裏道で立ちんぼをする姿。生きるためにやむなく強盗を働き、警備員に射殺された妊婦。
 そして、彼と同じように生きるためには銃を取らなければならない子供たち。
 そんな地獄の中で、いっそ狂ってしまえれば楽だったろう。
 でも、慎治君は繊細である一方で、心の根っこはとても強く、そして優しい。
 全部をうっちゃって狂気に身を任せることができなかったのだと思う。
 何人もの人妻に手を出していたのも、攻撃的になり、狂気を演じることで正気を保つため。背徳的で非常識なことをあえてしていたのだと考えれば合点がいく。
 それは、彼との関係がいずれ終わることを意味していた。
 トラウマはいずれ時間が解決してくれることだろう。そうなれば、正気を保つために狂人を演じる必要もなくなる。
 程度の差こそあれ、彼は今中二病真っ盛りの子供に過ぎないのだ。大人に対してなにかまわず反抗する子供の一人に過ぎない。
 人妻とズルズル関係することも卒業する時が来るだろう。
 なら、大人の一人として、今は彼の望みを聞いてあげて、時が来たら彼を潔く送り出してあげるのが私の努め。そう思うことにした。
 彼とズルズルと不倫した挙げ句、彼の子供を妊娠してしまったのは、大人である私の不徳であるのだから…。
 ダメンズそのものの考えかも知れない。欺瞞に満ちた自己満足かも知れない。でも、私はそうしたいし、そうするのが慎治君にとっても最善。そう思えたのだ。
 その後、私は夫と形ばかりのセックスをしてアリバイ行為とし、慎治君の子供を夫の子供として出産した。男の子だった。
 妊娠を知らされた時の夫の喜びように、そして生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた夫の笑顔に、私は罪悪感でいっぱいになった。
 もちろん、弟ができたと大喜びする娘の姿にも。
 慎治君のためなんていうのは欺瞞。自分可愛さ、心の弱さのために、不倫相手の子供を夫の子供として生んで育てるなんて最低の行為に手を染めてしまった。
 すぐにばれていたらいっそ楽だったかも知れない。でも、たまたま血液型も一致していたし、なにより慎治君が突然私を求めてこなくなった。
 そのために、私は夫を、娘を騙し、裏切り続けなければならなくなった。
 後で聞いた話によると、慎治君がケンカでボロ負けしたことが転機になったらしい。相手は、武道の心得があるとは言え、小柄な女の子だったとか。
 きっと、その負けが彼に本当の強さの意味を考えさせる契機になったのだと思えた。
 今まで、彼はなまじ有能で知恵が回ったために、指針となれる人物に恵まれなかった。
 彼自身がどれだけ今の自分が間違っていると感じていても、彼より強く、彼を否定できるだけの器量と考えを持った人物がいなければ自分を省みることもできない。うわべだけの強さにすがりついて生きるしかない。
 逆に言えば、慎治君をたたき伏せて言うことを聞かせられる人物の登場は、彼に本当の強さを教え、彼が中二病を卒業できる契機になるわけだ。
 慎治君がそれまで手がけていた裏の商売から手を引いて、人妻に手を出すこともやめ、自分を鍛え直すために武道を習い始めたという噂を聞いて、私の胸に去来したのは安堵や希望ではなく、寂しさだった。
 自分の弱さ、卑しさが本気で嫌になった。
 もし慎治君が中二病期を抜け出せなかったら、彼と一緒に深い穴に落ちていただろう。
 さりとても、慎治君との関係が終わり、それでも私には家庭も仕事もあるとなれば腐っているわけにもいかない。
 私は欺瞞と裏切りを背負ったまま口元をぬぐって生き続けることを選んだのだった。

 04
 そしてしばらくの時が過ぎる。
 「ねえ…ママ…そっちに行ってもいい?」
 「しょうがないな…ほら…おいで…」
 神奈川県にある私の家の寝室。
 下の子である文也は、私の言葉に応じてふとんに潜り込んでくる。
 まったく、もう小学校の高学年で、こんなに大きくなったのに甘えん坊なんだから。
 そろそろこういうことは卒業させないとと思うけど、嬉しそうに私の胸元に顔を寄せてくる息子の姿に、私も嬉しくなってしまう。
 この子を生んでから艦隊勤務が続き、なかなか自分の手で世話ができなかったからなおのこと。
 なんだか成長するにつれて、顔かたちや仕草、においまで父親に似てきた気がする。
 慎治君に。
 この子は私の過ちと裏切り、そして心の弱さと卑しさの結果。
 わかっている。この子が愛しく思えてしかたないのは、慎治君の子供だから。慎治君に似た姿形とにおいをしているから。
 私は今でも慎治君に心のどこかで未練を持っている。そんな自分が惨めで嫌になる。
 私はこの先一生、夫を裏切り、不倫相手の子供を産んで夫の子供として育てたという最低の十字架を背負っていかなければならない。
 でも、そのことでこの子を不幸にするようなことがあってはならない。この子を幸せにするために、私はなんでもする。なんでもあげる。
 天使のような寝顔ですやすやと寝息を立て始めた文也を見て、私はそう思うのだった。

 ところは変わって再び異世界の海。
 空母“ほうしょう”飛行甲板上。
 抜けるような青空の下、今日は慎治君と5人の花嫁たちの結婚式だ。
 ロランセア、ナゴワンド両大陸の政治、軍事情勢の変化に伴い、私は将官として中央の幕僚本部勤務となった。
 “ほうしょう”艦長には飛行長として先の戦争を戦った橋本一等海佐が就任し、後釜の飛行長には三等海佐に昇進した慎治君が任じられることとなった。
 5人の妻とのハーレム婚式となると、それなりに設備も大がかりなところが必要になる。
 なら、空母の飛行甲板で上げればいい。誰が考えたかそういうことになっていた。
 まあ、大型の空母の飛行甲板は式典やお祭りにももってこいだ。それに、料理も艦内で凝った物を大量に作ることができるから、いいアイディアと言えた。
 飛行甲板の中央に豪奢な祭壇が設けられ、そこに美しく着飾った花嫁たちが待っている。
 絨毯が敷かれた、いわゆるバージンロードに相当するところを、自衛軍海軍の白い制服をまとった慎治君が歩いて行く。
 地球の一般的な結婚式と新郎新婦が逆なのは、こちらでのハーレム婚のしきたりに合わせているからだ。
 何人もの新婦がぞろぞろとバージンロードを歩くのは大変だし、なによりどうしても歩く位置や周りからの見え方に不公平が生まれてしまう。
 だから、新婦たちは祭壇の前で待つこととし、新郎の方が歩いて行く形が一番角が立たないのだ。
 5人の花嫁たちは、大輪の花のような笑顔で、本当に幸せそうだ。
 慎治君も自然に笑顔になる。
 ぬけぬけと。過去にほっかむりして自分は普通以上の幸せを手にするつもりか。と思わなくもない。
 故郷には、人妻が慎治君と不倫してできた子供が何人いることか。
 私の横に一緒に参列している息子のように。
 もっとも、彼と不倫をして子供まで産んだにもかかわらず、その人妻が不幸になったという話は不思議と聞かない。
 慎治君との不倫をきっかけに欲求不満が解消され、女としての自分に自信を取り戻して、むしろ仕事も家庭もうまくいくようになってしまったケースが一つならずあるのだ。旦那との性生活が改善し、さらに家族が増えてしまった人さえいる。
 かく言う私も、彼と別れた後もおしゃれや体型の維持に気を遣い続け、周りからいつまでも若々しくてきれいだと言われ続けている。一時期レスだった夫とも信じられないくらいうまくいっていて、家に帰る度に愛し合っているくらいだ。
 祭壇の前では、司祭の立会で慎治君と5人の妻たちが愛を誓う。
 君には人を、とくに女を幸せにする才能がある。私は胸の内でそう囁く。
 あの時は、その才能を使う方向を少しばかり誤っただけだ。
 その才能の使い方を間違えなければ、5人の妻たちと、これから生まれてくる子供たちもきっと幸せにできるだろう。
 私と不倫をして、子供まで産ませた経験は、今の君の血肉になっているか?
 胸の内でそんなことを問うた時、慎治君がなぜかこちらに目線を向けてきた。
 「ママ、木ノ原飛行長ってすごい人なんだね」
 急に、私の横にいた文也が意味深なことを言う。それが彼の軍事的な能力や実績のことなのか、あるいは5人もの美しい女を同時に妻に迎えた器量のことなのか、あるいは両方なのか、私にはうかがい知れなかった。
 それは、なんと言ったってあなたのお父さんだもの。心の中でそう言って、文也の肩を抱く。
 また背が伸びて、体つきこそまだ子供だけど、男らしくなっていく。最近の流行である、セーラー襟の水兵服がよく似合っている。
 やがて背は私より高くなって、もう数年すれば慎治君そっくりになることだろう。
 私は今でも慎治君と不倫をして、彼の子供を産んだことを後悔していない。後悔できないというべきか。こんな素敵で可愛い息子を産んで育てることができているんだもの。
 私は幸せだ。
 私のしたことは裏切りであり過ちだ。決して許されることじゃない。でも、そのお陰で今の私がいる。今の幸せがある。そう思わずにはいられないのだ。
 「5人の奥さんたち、幸せにしてあげなさい」
 「頑張ります!」
 愛の誓いが済んで、5人の妻に囲まれたまま参列したみんなと握手を交わす慎治君は、私の言葉に嬉しそうに応じる。
 5人ともちゃんと愛して、子供をたくさん産ませてあげるがいい。
 君の子供なら、みんな可愛いがって愛するだろうから。
 慎君と握手を交わしながら、私は心からそう思っていた。
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