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第二章 鮮血のロッジ
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「なぜ今更六年前のことにこだわる? あの動画が漏出して良心に目覚めたか? すんだことのために全部捨てるつもりか? 生活も、立場も、仕事も、子どもたちもだ」
「今更のなにが悪い? なにがすんだことなものか。もう言い逃れはできない。全て失うことになっても、罪を償わなくてはならないんだ」
ラバンスキーのロッジの中。話は完全に平行線だった。
ラバンスキーが英語で話し、倉木が日本語で応答するのは奇妙に聞こえる。さながら、北野武が出演する洋画だ。
「…………」「…………」「…………」
部屋には他に、山瀬、相馬、ブラウバウムがいる。白熱していくやり取りを、ただ見ていることしかできない。
割って入ろうものなら殴られそう。それくらい二人とも興奮して、殺気立っている。せっかくいい酒を持ってきたのに、味がわからない。
「どうもわからないな。大佐、なぜそうもあの一件に怯えるんです?」
倉木が、ぞっとするほど冷たい声で問う。いつも穏やかな彼らしくもない。
「なんだと……?」
ラバンスキーの表情が凍り付く。痛いところを突かれた。そんな雰囲気だ。
「罪に問われるとしても、せいぜい業務上過失致死。執行猶予はほぼ確実だし、不起訴処分の可能性もある。なのに、なぜ事件が裁判にかけられるのがそれほど不都合なのか……?」
倉木は噛んで含めるように問う。
「今の私には名誉も立場もある。うまくすれば、四十代で将軍になれる可能性もある。過去のことで味噌をつけたくない。当然の話ではないか?」
応答する声は冷静で落ち着いていた。が、彼の碧眼は明らかに動揺の色を宿している。倉木だけではない。その場の全員が同じ意見だった。
「違うな。間違いない。あんたは慰問団の情報を、あらかじめ掴んでいた。やはり事前に知っていたな? あの日あの場所に彼らが来ることを知っていて握りつぶした!」
大声が部屋に響く。二重ガラスが揺さぶられるほどだ。
「なにを馬鹿な! 血迷ったか少佐!?」
ラバンスキーも負けじと怒鳴り返す。
「とぼけるな。証拠もあるんだぞ!」
「なに……?」
碧眼が大きく見開かれる。即座に言い返せなかったことで、ラバンスキーは倉木の言い分を認めたも同じだった。
「ふん、はったりだ……。私が慰問団の存在を事前に知っていた事実はない」
低い声で言いながらも、ラバンスキーの手が後ろ腰に回る。
「…………!?」
次に起こった事態に、部屋の空気が凍り付く。
倉木の右手にいつの間にか拳銃が握られ、ラバンスキーに向けられていた。スプリングフィールドの45オートマチック、V10ウルトラコンパクトだ。まるでフィルムのコマ落としだ、構える動きが、だれにも見えなかった。
「少佐、銃を下ろしてください!」
山瀬が自分の銃を抜き、倉木に突きつける。HKUSPコンパクト。9ミリの13連発のオートマチックだ。
「悪いがそれはできない」
倉木の左手が動き、ベルトからもう一丁の拳銃を取る。オーストリア製の9ミリオートマチック、グロック19だった。銃口が山瀬に向けられる。
ラバンスキーが、機を逸せず自分の銃を抜いて倉木に突きつける。ドイツ製の45オートマチック、HK45だ。
「どうする……? このまま撃ち合うか……?」
「それも悪くないな。裁判する手間が省けていい」
ラバンスキーと倉木は、どちらも後に退こうとしない。山瀬も、このメキシカンスタンドオフをどうにかする方法論を持っていなかった。
そのまま、本当に撃ち合いが始まるかに思えた。が……
「いい加減にしてください。大佐も、少佐も、大尉もです!」
強い口調で言った相馬が、大胆にも銃口の間に割り込む。まず、山瀬と倉木の左の銃に手をかける。
「同時に降ろすんです」
水をぶっかけられて、多少落ち着いたらしい。二人は素直に銃口を降ろす。
「銃を向け合っても、なんの解決にもならないはずです。それさえわかりませんか?」
今度は、倉木の右手の銃とラバンスキーの銃に手をかける。ここで撃ち合いはさすがにまずいと判断した二人は、渋々銃をしまう。
「今夜はお開きにしましょう。みなさんお酒も入ってて、話し合いになりません。明日また相談すればいい」
相馬が言う。
「そうだな……少佐すまない。少し言いすぎたよ」
「いえ大佐、俺も申し訳ない。酔っていたからと思ってください」
互いに謝罪するラバンスキーと倉木の眼は、殺気を宿したままだった。
「今更のなにが悪い? なにがすんだことなものか。もう言い逃れはできない。全て失うことになっても、罪を償わなくてはならないんだ」
ラバンスキーのロッジの中。話は完全に平行線だった。
ラバンスキーが英語で話し、倉木が日本語で応答するのは奇妙に聞こえる。さながら、北野武が出演する洋画だ。
「…………」「…………」「…………」
部屋には他に、山瀬、相馬、ブラウバウムがいる。白熱していくやり取りを、ただ見ていることしかできない。
割って入ろうものなら殴られそう。それくらい二人とも興奮して、殺気立っている。せっかくいい酒を持ってきたのに、味がわからない。
「どうもわからないな。大佐、なぜそうもあの一件に怯えるんです?」
倉木が、ぞっとするほど冷たい声で問う。いつも穏やかな彼らしくもない。
「なんだと……?」
ラバンスキーの表情が凍り付く。痛いところを突かれた。そんな雰囲気だ。
「罪に問われるとしても、せいぜい業務上過失致死。執行猶予はほぼ確実だし、不起訴処分の可能性もある。なのに、なぜ事件が裁判にかけられるのがそれほど不都合なのか……?」
倉木は噛んで含めるように問う。
「今の私には名誉も立場もある。うまくすれば、四十代で将軍になれる可能性もある。過去のことで味噌をつけたくない。当然の話ではないか?」
応答する声は冷静で落ち着いていた。が、彼の碧眼は明らかに動揺の色を宿している。倉木だけではない。その場の全員が同じ意見だった。
「違うな。間違いない。あんたは慰問団の情報を、あらかじめ掴んでいた。やはり事前に知っていたな? あの日あの場所に彼らが来ることを知っていて握りつぶした!」
大声が部屋に響く。二重ガラスが揺さぶられるほどだ。
「なにを馬鹿な! 血迷ったか少佐!?」
ラバンスキーも負けじと怒鳴り返す。
「とぼけるな。証拠もあるんだぞ!」
「なに……?」
碧眼が大きく見開かれる。即座に言い返せなかったことで、ラバンスキーは倉木の言い分を認めたも同じだった。
「ふん、はったりだ……。私が慰問団の存在を事前に知っていた事実はない」
低い声で言いながらも、ラバンスキーの手が後ろ腰に回る。
「…………!?」
次に起こった事態に、部屋の空気が凍り付く。
倉木の右手にいつの間にか拳銃が握られ、ラバンスキーに向けられていた。スプリングフィールドの45オートマチック、V10ウルトラコンパクトだ。まるでフィルムのコマ落としだ、構える動きが、だれにも見えなかった。
「少佐、銃を下ろしてください!」
山瀬が自分の銃を抜き、倉木に突きつける。HKUSPコンパクト。9ミリの13連発のオートマチックだ。
「悪いがそれはできない」
倉木の左手が動き、ベルトからもう一丁の拳銃を取る。オーストリア製の9ミリオートマチック、グロック19だった。銃口が山瀬に向けられる。
ラバンスキーが、機を逸せず自分の銃を抜いて倉木に突きつける。ドイツ製の45オートマチック、HK45だ。
「どうする……? このまま撃ち合うか……?」
「それも悪くないな。裁判する手間が省けていい」
ラバンスキーと倉木は、どちらも後に退こうとしない。山瀬も、このメキシカンスタンドオフをどうにかする方法論を持っていなかった。
そのまま、本当に撃ち合いが始まるかに思えた。が……
「いい加減にしてください。大佐も、少佐も、大尉もです!」
強い口調で言った相馬が、大胆にも銃口の間に割り込む。まず、山瀬と倉木の左の銃に手をかける。
「同時に降ろすんです」
水をぶっかけられて、多少落ち着いたらしい。二人は素直に銃口を降ろす。
「銃を向け合っても、なんの解決にもならないはずです。それさえわかりませんか?」
今度は、倉木の右手の銃とラバンスキーの銃に手をかける。ここで撃ち合いはさすがにまずいと判断した二人は、渋々銃をしまう。
「今夜はお開きにしましょう。みなさんお酒も入ってて、話し合いになりません。明日また相談すればいい」
相馬が言う。
「そうだな……少佐すまない。少し言いすぎたよ」
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互いに謝罪するラバンスキーと倉木の眼は、殺気を宿したままだった。
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