女体化元男子たちとの日常 学園唯一の男子生徒になったけど

ブラックウォーター

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第四章 感染爆発再び

09 「国益」の真相

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 昨日になってやっと書類を持った東金が訪ねてきて、退院が許可されたのだ。
「今回の感染がいかにして収束したかは、特定秘密保護対象に指定された。女の子たちにはすでに伝えてある。君も、抗血清をどうやって作成したかは他言無用だ」
「わかりました」
 司は素直に応じる。
 それが一番賢い方法なのだ。別に英雄として賞賛されたいわけではない。それに、下手に他言しようものならどんな差別や嫌がらせを受けないとも限らない。
「君の勇気ある決断がみんなを救った。感謝すべき立場で……こうして命令調で言うのも心苦しいが、なにより君自身のためだ。わかってくれるな?」
「もちろんです。ただ……」
 司はふと浮かんだ疑問を、東金に尋ねてみることにする。
「ひとつ教えてくれませんか? 東金一佐が言っていた「国益」ってなんです? 俺にどう関わりがあるんです?」
 ずっと引っかかっていたのだ。東金と君津が押し問答したとき、彼女がポロリと口を滑らせた言葉。
 東金は少し考える様子になり、慎重に口を開く。
「当て馬、という言葉を知っているか?」
「あれでしょう? 確か牝馬に種付けをする前に、そばに置いて発情させるための牡馬のことでしょう? 発情してない状態で種をつけても妊娠しにくいから」
 司は知っている範囲で答える。だが、なぜ今馬の種付けの話が出てくるのかわからなかった。
「よく知っているな。ではだ、君は女体化した元男性の女の子たちをどう思う?」
「どうと言われても……。身体は女の子なのに……心は男っぽいというか……。自分が女であることを受け入れられてない人だって……。あ……そういうことか……」
 不意に司の中で糸がつながる。
 要するに、女体化した女の子たちが肌馬で、自分が当て馬ということだ。まだ感性が男のままの女の子たちを、少しずつでも女に目覚めさせる。徐々に男に興味を持たせる。男を恋愛やセックスの対象として認識させる。それが自分の役目というところか。
「つまり、女体化した元男子の女の子たちに男を意識させるために俺はこの町に、学校に送り込まれたと……」
「まあそういうことだ。君の学費、あまりにも安かったろう? ご両親はご存じだが、国から補助金が出ていて負担が少なくなっているんだ」
 東金はそこで一度言葉を句切る。
「性別転換は難しい問題だ。新しい自分の性別を受け入れられず、引きこもったり心を病んだりする人も少なからずいる。異性になってしまったかつての同性との距離感がわからず、異性恐怖症になったり、逆に性にだらしなくなったりするケースもある。それを防ぐためには……」
「女体化した元男の女の子たちに、時間をかけて穏やかに男と接する機会を与える必要があった……」
 司は先回りをする。
 なるほどと思えた。自分と接する内に、感性も女になっていった元男の女の子はそれなりにいた気がする。岬や命、連の顔が頭に浮かぶ。
「その通りだ。だが、馬の場合と同じで、当て馬を誰に任せるかはけっこう難しい。あまりに女の子に免疫がない男では務まらない。逆に、女とみれば見境なく性の対象にするような男もだめだ。その点、君は適任だった。女の子に優しいし、良くも悪くもヘタレで自分勝手なところがないからな。なにより、フレアウイルス肺炎に免疫を持っている。それゆえに選ばれたんだ。事実君がいるから、多くの女の子たちが女体化した自分を受け入れ、男を恋愛や性の対象として意識できるようになった」
 東金はそこで美貌に苦笑いを浮かべる。
「ま、政府や自治体の本音は別にあるがな。性別転換した人間が、みな社会に適合できず恋愛や結婚をせずじゃあ、税収は減って国は衰退する一方だからな。性別が変わろうが、しっかり働いて結婚して子供を生んでもらわなけりゃ困る。そのために君が必要だった。それが正直なところさ」
「ま、そうでしょうね」
 司も釣られて苦笑いになる。政治家や官僚が善意で行動することはそうそうない。彼らの心配事は税収や労働人口の確保だろう。多様な性のあり方だ働き方改革だと能書きを並べても、為政者の本音はいつも同じだ。
「しかし……女体化したらもう当て馬の役目は果たせないでしょう? 俺はこの後どうなるんです?」
「そこは安心していい。女になっても、君に対する待遇に変化はないよ。今まで当て馬としての役目を十分に果たしてくれたし、なにより今回の感染が収束したのはひとえに君のおかげだからな」
 美貌の幹部自衛官は、微笑んで応じる。
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