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第四章 感染爆発再び
10 温かく迎えられて
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(きれいな人だな)
司はついドキリとしてしまう。まだ感性が男のままらしい。それに、自分の母親とさほど変わらない年の人でも、美人なら守備範囲とふと気づく。
「そういえば、一佐のお嬢さんはどうなりました?」
ふと気になり聞いてみる。彼女は亡き妻の忘れ形見である娘を気にかけていた。仲間と対立して銃を向け合うほどに。
「ああ、元気だ。もう退院して学校に通っているよ。その……君が命の恩人であることを伝えられないのが残念だ」
「お元気ならそれだけでいいんです。ずっと気になってましたから」
司は笑顔になる。
助かった命と助からなかった命がある。それは誰の責任でもなく純粋に運命だろう。だが、東金の娘が死んでいたら、救いがないだろうと思っていたのだ。
「とにかく、君もこちら側に来たわけだ。歓迎するよ。最初は大変だと思うが、私もできるだけ協力させてもらうから」
そう言って東金は、書類の束を封筒から取り出す。
一番上にクリップで留められたカードは、性別転換証明書と書かれていた。
…………………………………………………………………………………………………………
東金から渡された書類を読んでいると、玄関の方がにぎやかになる。どうやら、寮生たちが学校から戻ってきたらしい。
退院の報告をするため、ロビーに降りて出迎える。ボーイッシュで長身の美少女が歩いてくる。
「司……帰ってきたんだね……?」
司の姿を見た岬が、うれし涙を浮かべる。
「ああ、ただいま。ちょっと姿が変わったけどな」
おどけてみる。別になにか感慨があるわけではない。ただ、自分が女体化したことについて、岬たちが変な責任を感じるのは嫌なだけだ。
「うれしい……うれしいよ……司……」
「わっ……岬……」
岬に思い切り抱きしめられる。女体化して、元々あった身長差がさらに開いてしまった。規格外の胸の膨らみに顔を埋める形になってしまう。柔らかくて幸せな気分になるが、息が苦しい。
「あ、つかさっちー。なになに、かわいくなっちゃったじゃん? てか……おっぱいあたしよりでっかくね?」
黄色い声を発したのは、サイドテールのギャル、命だった。いつも通りに振る舞っているが、胸中は複雑なのが見て取れる。
「司さん、お帰りなさいー。ずっといなくて寂しかったですよー」
ゆるふわ系少女、優輝も、こころなしか戸惑った様子だ。
「市原君お帰り。元気そうで何よりよ。入院してた間勉強遅れてるでしょ? 後でノートのコピー渡すわ」
セミロングの髪とメガネが特徴の美少女、圭は相変わらずポーカーフェイスだ。が、寮で唯一の男が女体化した事実は、まだ消化できていないのがわかる。
「よう! お前もついにこっち側に来たな。覚悟しときなよ? 毎月あの日は辛いし、男の時と比べて冗談みたいに金がかかるからさ」
ウルフカットのりりしい黒ギャルが、意地悪そうな笑顔で言う。身体と心の不一致に難儀してきた、連らしい言葉だった。
「まあ、女にはなったけど俺は市原司だ。これからもよろしく頼むよ。いや、これからみんなを当てにさせてもらう、かな……?」
司のためらいがちな言葉に、岬が涙をぬぐって大輪の花のような笑顔になる。
「もちろんさ。最初はいろいろ大変だと思うけどさ……。お姉ちゃんだと思ってなんでも頼ってくれよ」
「なんか変な感じだな……誕生日俺の方が先なのに……」
「そうじゃないって……。女としては俺たちの方が先輩なんだからさ……」
「悪い悪い。わかってるよ。いろいろ教えてくれ。頼りにしてるよ。岬たちのこと」
〝お姉ちゃんだと思って〟その言葉が、司にはなんだかとてもうれしかった。
少なくとも自分は、理解され思われている。これがもし、性別転換を機に孤立するようなことがあれば、この世の地獄だったことだろう。
だが、少なくとも市原司は女になっても受け入れてくれる人たちがいる。
この先大変なこともあるだろうが、今はそれを喜びたい。
心からそう思うのだ。
司はついドキリとしてしまう。まだ感性が男のままらしい。それに、自分の母親とさほど変わらない年の人でも、美人なら守備範囲とふと気づく。
「そういえば、一佐のお嬢さんはどうなりました?」
ふと気になり聞いてみる。彼女は亡き妻の忘れ形見である娘を気にかけていた。仲間と対立して銃を向け合うほどに。
「ああ、元気だ。もう退院して学校に通っているよ。その……君が命の恩人であることを伝えられないのが残念だ」
「お元気ならそれだけでいいんです。ずっと気になってましたから」
司は笑顔になる。
助かった命と助からなかった命がある。それは誰の責任でもなく純粋に運命だろう。だが、東金の娘が死んでいたら、救いがないだろうと思っていたのだ。
「とにかく、君もこちら側に来たわけだ。歓迎するよ。最初は大変だと思うが、私もできるだけ協力させてもらうから」
そう言って東金は、書類の束を封筒から取り出す。
一番上にクリップで留められたカードは、性別転換証明書と書かれていた。
…………………………………………………………………………………………………………
東金から渡された書類を読んでいると、玄関の方がにぎやかになる。どうやら、寮生たちが学校から戻ってきたらしい。
退院の報告をするため、ロビーに降りて出迎える。ボーイッシュで長身の美少女が歩いてくる。
「司……帰ってきたんだね……?」
司の姿を見た岬が、うれし涙を浮かべる。
「ああ、ただいま。ちょっと姿が変わったけどな」
おどけてみる。別になにか感慨があるわけではない。ただ、自分が女体化したことについて、岬たちが変な責任を感じるのは嫌なだけだ。
「うれしい……うれしいよ……司……」
「わっ……岬……」
岬に思い切り抱きしめられる。女体化して、元々あった身長差がさらに開いてしまった。規格外の胸の膨らみに顔を埋める形になってしまう。柔らかくて幸せな気分になるが、息が苦しい。
「あ、つかさっちー。なになに、かわいくなっちゃったじゃん? てか……おっぱいあたしよりでっかくね?」
黄色い声を発したのは、サイドテールのギャル、命だった。いつも通りに振る舞っているが、胸中は複雑なのが見て取れる。
「司さん、お帰りなさいー。ずっといなくて寂しかったですよー」
ゆるふわ系少女、優輝も、こころなしか戸惑った様子だ。
「市原君お帰り。元気そうで何よりよ。入院してた間勉強遅れてるでしょ? 後でノートのコピー渡すわ」
セミロングの髪とメガネが特徴の美少女、圭は相変わらずポーカーフェイスだ。が、寮で唯一の男が女体化した事実は、まだ消化できていないのがわかる。
「よう! お前もついにこっち側に来たな。覚悟しときなよ? 毎月あの日は辛いし、男の時と比べて冗談みたいに金がかかるからさ」
ウルフカットのりりしい黒ギャルが、意地悪そうな笑顔で言う。身体と心の不一致に難儀してきた、連らしい言葉だった。
「まあ、女にはなったけど俺は市原司だ。これからもよろしく頼むよ。いや、これからみんなを当てにさせてもらう、かな……?」
司のためらいがちな言葉に、岬が涙をぬぐって大輪の花のような笑顔になる。
「もちろんさ。最初はいろいろ大変だと思うけどさ……。お姉ちゃんだと思ってなんでも頼ってくれよ」
「なんか変な感じだな……誕生日俺の方が先なのに……」
「そうじゃないって……。女としては俺たちの方が先輩なんだからさ……」
「悪い悪い。わかってるよ。いろいろ教えてくれ。頼りにしてるよ。岬たちのこと」
〝お姉ちゃんだと思って〟その言葉が、司にはなんだかとてもうれしかった。
少なくとも自分は、理解され思われている。これがもし、性別転換を機に孤立するようなことがあれば、この世の地獄だったことだろう。
だが、少なくとも市原司は女になっても受け入れてくれる人たちがいる。
この先大変なこともあるだろうが、今はそれを喜びたい。
心からそう思うのだ。
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