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第五章 白雪姫の目覚め
01 ボーイッシュ少女とトイレ
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「よし……準備はいいな……」
市原司は、手にした電動エアガンに弾が入っていることを確認する。跳弾対策に、シューティンググラスをかける。
別にサバイバルゲームをするわけではない。
今日は彼女がゴミ出しの当番だ。厄介な敵を追い払いながら速やかに行わなければならない。
「あれ……?」
だがいざ寮の裏手に回ると、ゴミ捨て用のネットボックスに群がっているお客はいつもと違った。
都市部の王者であるカラスではなく、カモメの群れが隙あらばゴミを漁ろうと待ち受けている。
(ある意味、カラス以上に厄介じゃないの?)
司は思う。優美で洗練されたイメージに反して、カモメは獰猛だ。雑食でなんでも食べる上に、攻撃性も強い。
今日はカラスが見当たらないのも、カモメとのケンカを避けているからのようだ。
ともあれ、ゴミを捨てないわけにはいかない。
「散れ! あっち行け!」
怒鳴りながら威嚇射撃をする。驚いたカモメの群れは、慌てて飛翔する。
だが、まだエサにありつくことを諦めていないらしい。周囲の木や電線に止まり、ゴミ捨て場をうかがっている。
「なんだよ……汚えなあ……」
ゴミ捨て場周辺には、カモメのものとおぼしい糞尿にまみれた無数の羽が落ちている。手早くゴミを捨て、ネットボックスのロックをかける。人間でも両手を使わなければ外せない構造だ。鳥が開けるのはまず不可能だ。
「来るなよ……来るなって……」
カモメたちを銃口で牽制しつつ司は下がる。幸い、彼らもトイガンとはいえ銃を持った人間にケンカを売るほど馬鹿ではない。
(海から近くないのにカモメとはどういうことだ? 悪い兆候でないといいが……)
寮の玄関をくぐった司は、漠然とした不安を覚える。
しばらく後にその不安は、最悪の形で的中することになる。
ある休日。
司は岬に連れられて、ショッピングモールに服を買いに来ていた。
「これ……ちょっと女っぽすぎないか……?」
「大丈夫だって。司はかわいいんだから絶対似合うよ」
司はボーイッシュな少女の着せ替え人形にされていた。
(岬本当に楽しそうだな)
あまりに少女趣味な空色のワンピースは少し恥ずかしい。が、岬が喜んでくれると思うと、なんだかうれしくなってしまう。
二度目のフレアウイルス肺炎でセクストランス症候群を起こし、女になってしまってから二週間。なんとか女としての暮らしにもなれ始めたところだ。
『服もちゃんとしたの揃えようよ』
そう言った岬にブルドーザーのように押し切られ、ショッピングモールに来たというわけだ。
「あ……これもかわいい! ねえねえ、着てみようよ!」
「うーむ……。ちょっとお嬢様っぽいというか……。でもかわいいな……」
ブティックではしゃぐ司と岬は、完全に女子会モードだった。
(そういえば……岬もすっかりスカートが似合うようになったよね……)
そんなことを思う。
最初にあったころ、岬は自分の性に悩んでいた。制服も私服もズボンだった。それに、いつも物憂げで笑顔が少なかった気がする。
今は違う。かわいい服もうまいこと着こなし、自然に笑うことが多くなった。
そして岬が笑うと、司もうれしくなる。
「ちょっとトイレに……」
「ああ……俺も……」
司と岬は連れだってトイレに向かう。女は男より用足しをがまんしにくいのを感じる。まったく、自分がなってみて女は大変だと実感する。
「…………」
トイレの前で、司は固まってしまう。どちらに入るべきか。
「無理せず、男子トイレ入ればいいと思うよ。どうせ男なんていないんだから」
岬が手を引いて男子トイレに導く。
「それもそうか……」
司は友人の言うとおりにすることに決める。まだ、女子トイレに入るのは抵抗がある。はっきり言って小っ恥ずかしい。岬や連が男子トイレを使う気持ちがよくわかる。
それに、ショッピングモールはこの町の例に漏れず、女しかいない。そもそも、元からの女と女体化した元男が集められているのだから当然。
「さてと……」
男だったころの習慣がまだ抜けていないのだろう。つい小便器の前に立ち、そのまま便器とにらめっこになってしまう。
(なにやってんだ俺……)
自分行動に呆れてしまう。が……。
「連れション……してみる……?」
岬が少し恥ずかしそうに切り出す。
「えと……できるの……?」
「うん……やり方教えるから……」
司は友人のアドバイスを聞きながら、立ったまま用を足すことにする。ちょうどいいことに、小便器の上の荷物スペースにトイレットペーパーが置いてある。おそらく女の立ちション用だろう。
「初心者は……片足パンツにするのが安全かな……。で……がに股になって指で腰を突き出して……指で左右に開く……」
「なんだか……すごく下品で恥ずかしいかっこうだな……」
スカートをまくり、股を開いて女の部分を〝くぱぁ〟にしたハレンチな姿勢で小便器の前に立つ。
「こうしないと……太ももにしたたっちゃうからね……」
「う……それはやだなあ……」
女は緊張すると用が足せない。深呼吸して、ゆっくりと下腹部から力を抜いていく。黄色い飛沫がほとばしり、窓から差し込む日光にキラキラと美しく輝く。
「ああーー……。なにこれ……? めちゃくちゃ気持ちいい……。すっきりする……」
司はあまりの幸福感と爽快感にうっとりしてしまう。便座に座って用を足すのとは全く違う。驚くほど下半身が軽くなって心地いい。
「生理の前とか……すごく立ちションしたくなるときあるんだよね……。どうしてだろう……?」
横で同じように黄色い飛沫を放出する岬が、ほおを染めながら言う。
「やっぱり……女だって立ったまましたくなるときくらいあるんじゃね……?」
ある大物女優とその友人のシンガーが、「男になったらしたいこと」に立ちションをあげていた記憶がある。
なんとなく、わかる気がした。
(連れションて……女同士でもいいもんだな……)
司はそう思う。親しいものと並んで用が足せるなら、小便器で立ったままというのも悪くない気がした。まあ、超絶恥ずかしいが。
市原司は、手にした電動エアガンに弾が入っていることを確認する。跳弾対策に、シューティンググラスをかける。
別にサバイバルゲームをするわけではない。
今日は彼女がゴミ出しの当番だ。厄介な敵を追い払いながら速やかに行わなければならない。
「あれ……?」
だがいざ寮の裏手に回ると、ゴミ捨て用のネットボックスに群がっているお客はいつもと違った。
都市部の王者であるカラスではなく、カモメの群れが隙あらばゴミを漁ろうと待ち受けている。
(ある意味、カラス以上に厄介じゃないの?)
司は思う。優美で洗練されたイメージに反して、カモメは獰猛だ。雑食でなんでも食べる上に、攻撃性も強い。
今日はカラスが見当たらないのも、カモメとのケンカを避けているからのようだ。
ともあれ、ゴミを捨てないわけにはいかない。
「散れ! あっち行け!」
怒鳴りながら威嚇射撃をする。驚いたカモメの群れは、慌てて飛翔する。
だが、まだエサにありつくことを諦めていないらしい。周囲の木や電線に止まり、ゴミ捨て場をうかがっている。
「なんだよ……汚えなあ……」
ゴミ捨て場周辺には、カモメのものとおぼしい糞尿にまみれた無数の羽が落ちている。手早くゴミを捨て、ネットボックスのロックをかける。人間でも両手を使わなければ外せない構造だ。鳥が開けるのはまず不可能だ。
「来るなよ……来るなって……」
カモメたちを銃口で牽制しつつ司は下がる。幸い、彼らもトイガンとはいえ銃を持った人間にケンカを売るほど馬鹿ではない。
(海から近くないのにカモメとはどういうことだ? 悪い兆候でないといいが……)
寮の玄関をくぐった司は、漠然とした不安を覚える。
しばらく後にその不安は、最悪の形で的中することになる。
ある休日。
司は岬に連れられて、ショッピングモールに服を買いに来ていた。
「これ……ちょっと女っぽすぎないか……?」
「大丈夫だって。司はかわいいんだから絶対似合うよ」
司はボーイッシュな少女の着せ替え人形にされていた。
(岬本当に楽しそうだな)
あまりに少女趣味な空色のワンピースは少し恥ずかしい。が、岬が喜んでくれると思うと、なんだかうれしくなってしまう。
二度目のフレアウイルス肺炎でセクストランス症候群を起こし、女になってしまってから二週間。なんとか女としての暮らしにもなれ始めたところだ。
『服もちゃんとしたの揃えようよ』
そう言った岬にブルドーザーのように押し切られ、ショッピングモールに来たというわけだ。
「あ……これもかわいい! ねえねえ、着てみようよ!」
「うーむ……。ちょっとお嬢様っぽいというか……。でもかわいいな……」
ブティックではしゃぐ司と岬は、完全に女子会モードだった。
(そういえば……岬もすっかりスカートが似合うようになったよね……)
そんなことを思う。
最初にあったころ、岬は自分の性に悩んでいた。制服も私服もズボンだった。それに、いつも物憂げで笑顔が少なかった気がする。
今は違う。かわいい服もうまいこと着こなし、自然に笑うことが多くなった。
そして岬が笑うと、司もうれしくなる。
「ちょっとトイレに……」
「ああ……俺も……」
司と岬は連れだってトイレに向かう。女は男より用足しをがまんしにくいのを感じる。まったく、自分がなってみて女は大変だと実感する。
「…………」
トイレの前で、司は固まってしまう。どちらに入るべきか。
「無理せず、男子トイレ入ればいいと思うよ。どうせ男なんていないんだから」
岬が手を引いて男子トイレに導く。
「それもそうか……」
司は友人の言うとおりにすることに決める。まだ、女子トイレに入るのは抵抗がある。はっきり言って小っ恥ずかしい。岬や連が男子トイレを使う気持ちがよくわかる。
それに、ショッピングモールはこの町の例に漏れず、女しかいない。そもそも、元からの女と女体化した元男が集められているのだから当然。
「さてと……」
男だったころの習慣がまだ抜けていないのだろう。つい小便器の前に立ち、そのまま便器とにらめっこになってしまう。
(なにやってんだ俺……)
自分行動に呆れてしまう。が……。
「連れション……してみる……?」
岬が少し恥ずかしそうに切り出す。
「えと……できるの……?」
「うん……やり方教えるから……」
司は友人のアドバイスを聞きながら、立ったまま用を足すことにする。ちょうどいいことに、小便器の上の荷物スペースにトイレットペーパーが置いてある。おそらく女の立ちション用だろう。
「初心者は……片足パンツにするのが安全かな……。で……がに股になって指で腰を突き出して……指で左右に開く……」
「なんだか……すごく下品で恥ずかしいかっこうだな……」
スカートをまくり、股を開いて女の部分を〝くぱぁ〟にしたハレンチな姿勢で小便器の前に立つ。
「こうしないと……太ももにしたたっちゃうからね……」
「う……それはやだなあ……」
女は緊張すると用が足せない。深呼吸して、ゆっくりと下腹部から力を抜いていく。黄色い飛沫がほとばしり、窓から差し込む日光にキラキラと美しく輝く。
「ああーー……。なにこれ……? めちゃくちゃ気持ちいい……。すっきりする……」
司はあまりの幸福感と爽快感にうっとりしてしまう。便座に座って用を足すのとは全く違う。驚くほど下半身が軽くなって心地いい。
「生理の前とか……すごく立ちションしたくなるときあるんだよね……。どうしてだろう……?」
横で同じように黄色い飛沫を放出する岬が、ほおを染めながら言う。
「やっぱり……女だって立ったまましたくなるときくらいあるんじゃね……?」
ある大物女優とその友人のシンガーが、「男になったらしたいこと」に立ちションをあげていた記憶がある。
なんとなく、わかる気がした。
(連れションて……女同士でもいいもんだな……)
司はそう思う。親しいものと並んで用が足せるなら、小便器で立ったままというのも悪くない気がした。まあ、超絶恥ずかしいが。
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