毛利隆元 ~総領の甚六~

秋山風介

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第2章:若殿奮闘編

1話

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 祝勝会の翌日から、さっそく隆元へのスパルタ教育が始まりました。
 教育役は志道広良しじ・ひろよしさんというお爺さんで御年73歳。元々は元就の教育役を勤めていたお方でして、老いて尚しっかりとした口調で、軍法のなんたるかを講義してくれました。

 「ええー、城を攻める際には、四方ではなく三方から攻めると良いと言われておりまする。さて若様、それは何故かわかりますかな」

 「うーーん、兵を分散しすぎると、それぞれが弱くなってしまうから」

 「では、充分な兵がおる場合では?」

 知らねえよ。
 隆元がチラッと外を見ると、元春くん11歳と、三男の隆景くん8歳が、友達を集めて雪合戦をしておりました。
 いいなあ、気楽で。
 まあ、あの中に加わりたいと言われると話は別ですが、

 「余所見をしない!」

 バチン!
 こんな風に体罰を受けるぐらいなら、雪にまみれる方がマシだと言うものです。

 「……気になりますかな、弟君たちのご様子が」

 「別に」

 「ご覧なされ。ほら、元春様の側には5名おりますが、隆景様の方は3名しかおりません」

 「本当だ。4対4にしてあげればいいのに」

 「いやいや、あれは隆景様の策でございますよ」

 しばらく見ていると、物陰に隠れていた2名が、左右から元春チームに奇襲をかけました。
 5対5のうち、あえて2名を温存する作戦で、この試合は隆景チームが勝利を収めたのです。

 「こういった遊びの中にも、軍略の妙が詰まっているというものでございます。見るところ隆景様は、お父上の才をもっとも色濃く受け継いでおられる」

 じゃあ隆景に家督継がせたらいいのに。
 さすがに口には出しませんでしたが、隆元は不機嫌になるばかりです。

 「さ、話を戻しましょう。なぜ三方から攻めるとよいかわかりますかな」

 「わかりません。降参するんで、答え教えて下さいよ」

 「すぐ答えを聞こうとしない!」

 青アザばかり増やしながら、隆元くんはイマイチ身が入らないのでした。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 一方、その頃。

 「殿、大内様より文が届きましてございます」

 国司さんが元就の部屋に入ると、元就も何か書き物をしておりました。

 「おお、すまんな。国司、お前これ読んでみろ」

 元就は文を受けとると、代わりに自分が書いていたものを手渡しました。

 「えーと、何々、吉田郡山合戦之次第……」

 「先の戦の記録よ。物語風にまとめて幕府のお偉方にバラまき、ひとつ名を売ろうと思ってな」

 「尼子氏死者189人、毛利氏死者7人……。ちょっと誇張しすぎではないですか?」

 「こういうのは大袈裟に言っておくのが筋というものよ。どうじゃ? 毛利元就は戦上手の美男子だとわかるように書かれておるか?」

 カッカッカ、と笑いながら、元就は大内氏からの手紙に目を落としました。
 するとすぐに、笑い声が聞こえなくなります。

 「……皆を集めよ。戦じゃ」

 大内氏は、郡山合戦の大勝を契機とし、逆に尼子側の本拠地への大遠征計画を発表しました。
 約1年の準備期間を経て、1542年1月、大内義隆は自ら軍を率いて出陣いたしました。

 さあ、いよいよ隆元くんの初陣でございます。
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