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第五部
第39話 カノジョの心配をして何が悪い
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昼休み。
問答無用で集合させられていた僕は、普段なら居るはずのない人間と美桜が来るのを校舎裏の庭園にて待っていた。
「つか、思ったことがあるんだが。なんでそんなに──学校行きたくない的なこと言ってたんだ?」
「……何だよ、急に」
「急にって反発するんだったら、休み時間のお前からのあの意味不明な自己暗示を聞かされたのに反発してもいいんだな? よーしわかった。じゃあ今から戦争開始だっ!!」
「すみませんでした! 許してください!」
やはり根に持ったいたらしく、拳を握り込み戦闘態勢に入る伊月に僕は全身全霊の謝罪をするしかなかった。
伊月の横では少し眠たそうにまなこを摩る鈴菜さんが居た。
青々と茂る草っ原の上に座る彼女の膝には、ピンク色のギンガムチェック柄の巾着に入った、お弁当が乗せられている。見た感じ、伊月に無理矢理引っ張ってこられたわけではなさそうだ。
「随分眠そうだけど……また仕事絡み?」
「ふぁあ……。はい……アニメ化に向けての、会議が……あって。でも、ファンの皆さんが心待ちに……してる、ので……が、頑張らないと……」
首がカクンカクンと上下に揺れている。今にも眠ってしまいそうだ。
午前中授業を受けれたのは奇跡だな。
ってか、保健室に行って休ませてもらったらいいのに……。変なところで意地張るんだよな、この先生は。
「おーい。寝るならこっちで寝ろー」
ぽんぽんっと、伊月は自分の膝上を叩く。つまり、“膝枕してあげるからこっちで寝てくれ”ってことだろうか。
「だ、大丈夫……お昼、食べるぅ……」
「いや、無理すんなって……」
「わかるか、伊月。この状態こそが、保健室の正しい利用者だ」
「保健室に正しい利用者とかの規則なんて無いと思うけどな」
「アホ。保健室は使う人の有無は関係なしに気軽に訪問することが出来る、ぼっちにとっては最高の逃げ場なんだぞ!? それを鈴菜さんに与えなくてどうするんだ!」
「壮大なストーリーになってる気がする。つーか、何故そこまで懸命になるし」
懸命になって当然だ。
日本全国に『スズナ先生』の作品を心待ちにしているファンが男女問わず、一体何万人居ると思ってるんだ!
「本当、バカみたいな懸命さだな!」
「煩いぞ」
この間も原稿の仕上がりが通常より遅れていたり、睡眠不足も重なり隈が出来てしまうぐらいに根を詰めているというのに……心配しないファンがどこにいる。
けれど、それを言うなら伊月だってそうだ。
彼女の作品のファンではなく、彼女その者が好きなこいつには愚問かもしれない。
心配していないはずがない。伊月はこう見えて、他人の心配が本気で出来る人間だ。
──鈴菜さんのことなら、尚更だ。
「……伊月、手伝ってるのか?」
「何がだよ」
ハハッと、シラを切る演技としては及第点ってところだろうか。
あくまでも『何のことだ』と、そう言い切りたいようだ。
「お前は彼女の作品のファンじゃない。そもそも少年漫画を買う派だろ? けど、流通しないはずの作品に携わってる。いちファンみたいにさ」
「…………。……悪いかよ、彼氏がカノジョの心配しちゃあ」
「悪いとまでは言ってない。そのお陰で、鈴菜さんも少しは楽になってるだろうからな」
「……一途だよなぁー、お前って」
「好きな著者なんだ。一途で何が悪い」
「……いや。時々、不安になるっつーか……。このまま楽しく高校生らしい生活が送れるのかなとかさ。ちょっと、心配にもなるっしょ」
ぽりぽりと頬を爪で掻く。
伊月の膝の上ではいつの間にか夢の世界へ誘われてしまった鈴菜さんが、膝枕されながらスヤスヤと寝息を立てていた。
そんな彼女の頭を、伊月はゆっくり撫でる。
……何て言うか、一途なのはお前の方だろとか、そんなことを言いたくなるな。
涼しく、暖かい春の陽気、春のそよ風に吹かれながら、その2人の光景はさぞおとぎ話のストーリーに似合いそうだ。
伊月は続けた。
「漫画家になって、少しは世間のこととかにも慣れてきて、担当さんとはいえオレ以外とも普通に話せてるところを見ると、こいつも変わったよなぁとは思う。……けど、それ以上に不安なんだよ。果たしてそれが──高校生の生活なのかな、ってさ」
「……どうだろうな」
ぼっちが陽キャに混ざるのはおかしい。そんなの僕がよくわかっている。
けれどこれは個人の見解だ。
実際、行動に移したいと鈴菜さんが決めたのであればそれを咎めようとは、僕も伊月も思わない。
だが、心配ぐらいはさせてほしい。伊月が言いたいのはこういうことだろう。
世に言う“普通の高校生”というのは──友達と和気藹々とし、勉強をして、あわよくば恋をする。そんな少女漫画の代名詞のような王道ストーリーを実現させるのが目標である、と。
中学の頃では出来なかったことにも挑戦出来る、貴重な時期だ。
例えばバイトがそうだ。社会というのを体験し、実際に関わってみること。高校生というのは、そんな驚きと発見と将来を見つける大事な時期だ。
しかし、中学2年生の頃から、少女漫画家として仕事をするようになった鈴菜さんは、中々休みという休みが取れない。
本業であるはずの『学生』が副業に回ってしまう勢いで忙しいはずだ。
伊月と過ごす時間も削減されているに違いない。
だが──それでも押してあげることしか僕達には出来ない。
鈴菜さんが自分で選んだ道だ。どうしていくかは彼女の意思で決めればいい。
心配は勝手にする。──そんなところだろうか。
問答無用で集合させられていた僕は、普段なら居るはずのない人間と美桜が来るのを校舎裏の庭園にて待っていた。
「つか、思ったことがあるんだが。なんでそんなに──学校行きたくない的なこと言ってたんだ?」
「……何だよ、急に」
「急にって反発するんだったら、休み時間のお前からのあの意味不明な自己暗示を聞かされたのに反発してもいいんだな? よーしわかった。じゃあ今から戦争開始だっ!!」
「すみませんでした! 許してください!」
やはり根に持ったいたらしく、拳を握り込み戦闘態勢に入る伊月に僕は全身全霊の謝罪をするしかなかった。
伊月の横では少し眠たそうにまなこを摩る鈴菜さんが居た。
青々と茂る草っ原の上に座る彼女の膝には、ピンク色のギンガムチェック柄の巾着に入った、お弁当が乗せられている。見た感じ、伊月に無理矢理引っ張ってこられたわけではなさそうだ。
「随分眠そうだけど……また仕事絡み?」
「ふぁあ……。はい……アニメ化に向けての、会議が……あって。でも、ファンの皆さんが心待ちに……してる、ので……が、頑張らないと……」
首がカクンカクンと上下に揺れている。今にも眠ってしまいそうだ。
午前中授業を受けれたのは奇跡だな。
ってか、保健室に行って休ませてもらったらいいのに……。変なところで意地張るんだよな、この先生は。
「おーい。寝るならこっちで寝ろー」
ぽんぽんっと、伊月は自分の膝上を叩く。つまり、“膝枕してあげるからこっちで寝てくれ”ってことだろうか。
「だ、大丈夫……お昼、食べるぅ……」
「いや、無理すんなって……」
「わかるか、伊月。この状態こそが、保健室の正しい利用者だ」
「保健室に正しい利用者とかの規則なんて無いと思うけどな」
「アホ。保健室は使う人の有無は関係なしに気軽に訪問することが出来る、ぼっちにとっては最高の逃げ場なんだぞ!? それを鈴菜さんに与えなくてどうするんだ!」
「壮大なストーリーになってる気がする。つーか、何故そこまで懸命になるし」
懸命になって当然だ。
日本全国に『スズナ先生』の作品を心待ちにしているファンが男女問わず、一体何万人居ると思ってるんだ!
「本当、バカみたいな懸命さだな!」
「煩いぞ」
この間も原稿の仕上がりが通常より遅れていたり、睡眠不足も重なり隈が出来てしまうぐらいに根を詰めているというのに……心配しないファンがどこにいる。
けれど、それを言うなら伊月だってそうだ。
彼女の作品のファンではなく、彼女その者が好きなこいつには愚問かもしれない。
心配していないはずがない。伊月はこう見えて、他人の心配が本気で出来る人間だ。
──鈴菜さんのことなら、尚更だ。
「……伊月、手伝ってるのか?」
「何がだよ」
ハハッと、シラを切る演技としては及第点ってところだろうか。
あくまでも『何のことだ』と、そう言い切りたいようだ。
「お前は彼女の作品のファンじゃない。そもそも少年漫画を買う派だろ? けど、流通しないはずの作品に携わってる。いちファンみたいにさ」
「…………。……悪いかよ、彼氏がカノジョの心配しちゃあ」
「悪いとまでは言ってない。そのお陰で、鈴菜さんも少しは楽になってるだろうからな」
「……一途だよなぁー、お前って」
「好きな著者なんだ。一途で何が悪い」
「……いや。時々、不安になるっつーか……。このまま楽しく高校生らしい生活が送れるのかなとかさ。ちょっと、心配にもなるっしょ」
ぽりぽりと頬を爪で掻く。
伊月の膝の上ではいつの間にか夢の世界へ誘われてしまった鈴菜さんが、膝枕されながらスヤスヤと寝息を立てていた。
そんな彼女の頭を、伊月はゆっくり撫でる。
……何て言うか、一途なのはお前の方だろとか、そんなことを言いたくなるな。
涼しく、暖かい春の陽気、春のそよ風に吹かれながら、その2人の光景はさぞおとぎ話のストーリーに似合いそうだ。
伊月は続けた。
「漫画家になって、少しは世間のこととかにも慣れてきて、担当さんとはいえオレ以外とも普通に話せてるところを見ると、こいつも変わったよなぁとは思う。……けど、それ以上に不安なんだよ。果たしてそれが──高校生の生活なのかな、ってさ」
「……どうだろうな」
ぼっちが陽キャに混ざるのはおかしい。そんなの僕がよくわかっている。
けれどこれは個人の見解だ。
実際、行動に移したいと鈴菜さんが決めたのであればそれを咎めようとは、僕も伊月も思わない。
だが、心配ぐらいはさせてほしい。伊月が言いたいのはこういうことだろう。
世に言う“普通の高校生”というのは──友達と和気藹々とし、勉強をして、あわよくば恋をする。そんな少女漫画の代名詞のような王道ストーリーを実現させるのが目標である、と。
中学の頃では出来なかったことにも挑戦出来る、貴重な時期だ。
例えばバイトがそうだ。社会というのを体験し、実際に関わってみること。高校生というのは、そんな驚きと発見と将来を見つける大事な時期だ。
しかし、中学2年生の頃から、少女漫画家として仕事をするようになった鈴菜さんは、中々休みという休みが取れない。
本業であるはずの『学生』が副業に回ってしまう勢いで忙しいはずだ。
伊月と過ごす時間も削減されているに違いない。
だが──それでも押してあげることしか僕達には出来ない。
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心配は勝手にする。──そんなところだろうか。
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