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第九部
第80話「幼馴染たちは、恋の現に身を投じる③」
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「べ、別に、緊張してるとかそういうわけじゃ……」
「明らかに挙動不審だったけどな。夕飯作ってるときなんか、ほぼほぼ意識飛んでた状態だったし、風呂場で何かに衝突したみたいな音したし」
「ゔっ……」
な、何も言い返せない……事実だからこそ、尚更だった。
「それにだ。上がってるのは結局幼馴染の家なわけだし、関係が少し変わったぐらいで力むことは無いと思うが?」
「私、晴斗じゃないもん……」
「おいそれどういう意味だこら」
晴斗が私を『挙動不審だ』と豪語するように、私も実際自身をそう思っている。
私は晴斗みたいに、物事を冷静に受け止めるような性格なんてしてないし、緊張も、驚きさえもする。
もちろん、こんなこと根拠が無ければ思ったりしない。
数週間前の出来事──晴斗は、藤崎君と佐倉さんが『恋人関係』であるということを知っても驚いた素振りすら見せなかった。けれどあの口振りからすれば、私と同様、2人の関係性について何も知らなかったはずなのだ。
最早表情筋が死んでるんじゃないだろうか? と、本気で心配になるレベルだ。
咄嗟の不意打ちとかを喰らったときとかに晴斗の表情筋は非常に役立つ能力かもしれないけど、普段使いにはあまり特化してほしくない。
だって──1人だけ平気そうな顔して、少しズルいと思わない?
本当、その体質というより耐性、やっぱり欲しいです……。
「……ったく。とりあえずその緊張、どうにかならないのか? 見ててこっちまで不安というか心配になってくるんだけど……」
「……出来てたら当の昔にやってる」
「だよな。……あんまり気乗りはしないが。渚、少しこっちに来い」
「ん? ……何?」
言い回しから若干やけになったような雰囲気を醸し出しながらも、晴斗は自分のいるベッドの方へと手招きをした。
何だろう……と、疑問を抱えながら私はその場を立ち上がり晴斗へと近寄った。
……何するつもりなんだろう?
「ねぇ、一体何し──」
「──ちょっと黙ってろ」
私が近づいてきたのと同時に晴斗はベッドから腰を上げ、耳元で小声で囁いた。
うぅぅ……っと、吐息がぁ、吐息がかかってるぅぅ……!! い、いきなり何!? 何が何どうなって──というか、私……今何されたの……?
私は思わず目を閉じてしまった。
それが、運がいいのか悪かったのか、思考がオーバーヒートしかけていた私に更なる追い打ちをかけるが如く、それは迫ってきた。
そして次に意識がはっきりしたとき、私は晴斗に──キスをされていた。
少し触れただけ。時間にしてたった数秒の出来事だった。
だが私にとってはそれはこの部屋ごと世界の時間が止まったようにさえ思わされる、そんな出来事と言っても過言ではなくて……。
頭の整理が完全に追いつく前にそれは離れていってしまった。
晴斗はまたベッドに腰を掛け、枕元に置いてあった再びラノベを読み始めた。まるで自分がしたことが何事も無いとでも言うかのように──。
「……少しは、取れたか?」
「は、はる……と!? い、一体何を──っ!?」
「緊張を和らげるテクニックだって、昔母さんが言ってた。だから実行してみたんだけど……意外と緊張するんだな、キスって」
「~~~~~~っ!!」
先程まで考えさえまとまらなかった脳みそが、更に再起不能と化してしまった。思考が全て吹き飛んでしまった。いや寧ろ、最早何を考えていたのかすら覚えていないほどに――。
彼から貰った『ファースト・キス』は、余計に私の心臓が高鳴っただけだった。
いや違う。……最早、過呼吸にすら襲われているのではないかと。この異様なまでの高鳴りと、身体を熱くするこの熱には、そんなレベルが到達するのかすら怪しい。
……もう。一体どこでそんな技を……っ!
この子、本当に恐ろしい。──そう思わずにはいられない、私であった。
「明らかに挙動不審だったけどな。夕飯作ってるときなんか、ほぼほぼ意識飛んでた状態だったし、風呂場で何かに衝突したみたいな音したし」
「ゔっ……」
な、何も言い返せない……事実だからこそ、尚更だった。
「それにだ。上がってるのは結局幼馴染の家なわけだし、関係が少し変わったぐらいで力むことは無いと思うが?」
「私、晴斗じゃないもん……」
「おいそれどういう意味だこら」
晴斗が私を『挙動不審だ』と豪語するように、私も実際自身をそう思っている。
私は晴斗みたいに、物事を冷静に受け止めるような性格なんてしてないし、緊張も、驚きさえもする。
もちろん、こんなこと根拠が無ければ思ったりしない。
数週間前の出来事──晴斗は、藤崎君と佐倉さんが『恋人関係』であるということを知っても驚いた素振りすら見せなかった。けれどあの口振りからすれば、私と同様、2人の関係性について何も知らなかったはずなのだ。
最早表情筋が死んでるんじゃないだろうか? と、本気で心配になるレベルだ。
咄嗟の不意打ちとかを喰らったときとかに晴斗の表情筋は非常に役立つ能力かもしれないけど、普段使いにはあまり特化してほしくない。
だって──1人だけ平気そうな顔して、少しズルいと思わない?
本当、その体質というより耐性、やっぱり欲しいです……。
「……ったく。とりあえずその緊張、どうにかならないのか? 見ててこっちまで不安というか心配になってくるんだけど……」
「……出来てたら当の昔にやってる」
「だよな。……あんまり気乗りはしないが。渚、少しこっちに来い」
「ん? ……何?」
言い回しから若干やけになったような雰囲気を醸し出しながらも、晴斗は自分のいるベッドの方へと手招きをした。
何だろう……と、疑問を抱えながら私はその場を立ち上がり晴斗へと近寄った。
……何するつもりなんだろう?
「ねぇ、一体何し──」
「──ちょっと黙ってろ」
私が近づいてきたのと同時に晴斗はベッドから腰を上げ、耳元で小声で囁いた。
うぅぅ……っと、吐息がぁ、吐息がかかってるぅぅ……!! い、いきなり何!? 何が何どうなって──というか、私……今何されたの……?
私は思わず目を閉じてしまった。
それが、運がいいのか悪かったのか、思考がオーバーヒートしかけていた私に更なる追い打ちをかけるが如く、それは迫ってきた。
そして次に意識がはっきりしたとき、私は晴斗に──キスをされていた。
少し触れただけ。時間にしてたった数秒の出来事だった。
だが私にとってはそれはこの部屋ごと世界の時間が止まったようにさえ思わされる、そんな出来事と言っても過言ではなくて……。
頭の整理が完全に追いつく前にそれは離れていってしまった。
晴斗はまたベッドに腰を掛け、枕元に置いてあった再びラノベを読み始めた。まるで自分がしたことが何事も無いとでも言うかのように──。
「……少しは、取れたか?」
「は、はる……と!? い、一体何を──っ!?」
「緊張を和らげるテクニックだって、昔母さんが言ってた。だから実行してみたんだけど……意外と緊張するんだな、キスって」
「~~~~~~っ!!」
先程まで考えさえまとまらなかった脳みそが、更に再起不能と化してしまった。思考が全て吹き飛んでしまった。いや寧ろ、最早何を考えていたのかすら覚えていないほどに――。
彼から貰った『ファースト・キス』は、余計に私の心臓が高鳴っただけだった。
いや違う。……最早、過呼吸にすら襲われているのではないかと。この異様なまでの高鳴りと、身体を熱くするこの熱には、そんなレベルが到達するのかすら怪しい。
……もう。一体どこでそんな技を……っ!
この子、本当に恐ろしい。──そう思わずにはいられない、私であった。
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