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5日前
1 パンゲア族の苦悩
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登城の手続きを済ませるとセルヴェスは王妃の元へと向かった。
王妃はすでにほとんどを眠りの中にいるらしい。
医務官が静々と付き添う中で王妃は横たわっていた。
薬湯と香のむせかえる匂いは王妃がもう長くは無いと教えていた。
やつれて眠っていても王妃は美しい。
かつて拝謁した時のあの面影は残っている。
「わたくしは生きてる間は従順にお仕えしますと神聖誓約いたしましたの」
20年前、シャザリア王妃にそう言われた。
王国の北の極小田舎領地にいるパンゲア族長をと呼び出されたのだ。
その頃はもうローラシア王国は落ち着いて、リュスベル領のパンゲア族というのは土着の信仰の様なものだと思われていた。
王妃の出は遥か遠いエタミルだ。
パンゲア族の事など知る筈も無いと思っていたのが、いきなりのお召しだ。
「わたくしが天に召される時は詠って頂きたいの」
しかも魂送りをという。
セルヴェスは驚いた。
にこりと有無を言わせない様に覗き込む王妃は女神の様に美しく、その目はいっさいのハイライトが無かった。
怖い。
ブラックホールの様な深淵がこちらを飲み込もうとしている。
その視線の中でセルヴェスは即座に理解した。
祟り神になる気だと。
シャザリア王妃の話は伝わっている。
苛烈な王にただ一人愛される妃なのだと。
セルヴェスは王妃がその立場を呪っているのを理解した。
子も孫も自分さえ、どうなってもいいのだと。
そしてパンゲア族というを道具を見つけて、使い潰す気なのだと。
セルヴェスは罠に掛かった鼠の様に目を泳がせた。
逃げ道を頭の中で何十通りも考えた。
そんな目まぐるしいセルヴェスに王妃はにっこりと笑った。
「その為に 今 呼んだのよ」
王妃はわかっている。
魂送りで詠うということは肉体の束縛を脱げ捨てて思う存分言えるという事だ。
愛も哀も憎しみも身勝手に言い放てると言う事だ。
だからこそ、今から準備をすればましになる。
コレはわたくしの温情。
わたくしの道具におなりなさい。
王妃の目はそう言っていた。
王妃の望みを断れば、即座に一族殲滅が始まる。
それならわたくしに協力しなさい。
その日の為に準備をして、わたくしの心のままにさせなさい。
セルヴェスに断れる筈はなかった。
セルヴェスから見ると王と王妃は同じだ。
他者への無関心さと傲慢さと情け容赦のなさは見事に対になっている。
セルヴェスは一族の存亡のためにせめて準備の時間がある方を選んだ。
魂送りは基本奇数だ。
中心に詠い手を、両脇に導き手を配置する。
詠うと美しく表すが、様はその身に魂を取り込み生前の心残りや言いたい事を遺族に告げて、未練を消し去って天界の門へと昇天させる儀式だ。
肉体という枷から解放された魂は本能のままだ。
残された者への忖度も無く叫ぶ者もいる。
ぎりぎりと詠い手の身体を侵食して、鬼になろうとする者もいる。
そんな荒ぶる魂との同調を切る為に導き手はいる。
魂が同調すれば強制終了されるまで、詠い手は自分で暴走を止める事は出来ない。
王妃は神聖誓約終了後に周りがどうなろうと王への呪詛を吐き出すのだと笑う。
怒った王がパンゲア族をどうするかは考えなくとも明らかだ。
セルヴェスは20年前から荒ぶると宣言する王妃の魂を『幸せだった』と捻じ曲げる事を模索してきた。
王妃はたまに目を開けるが、此方を認識しているかはわからない。
時間はもうわずかしかのこされていないのだ。
王妃はすでにほとんどを眠りの中にいるらしい。
医務官が静々と付き添う中で王妃は横たわっていた。
薬湯と香のむせかえる匂いは王妃がもう長くは無いと教えていた。
やつれて眠っていても王妃は美しい。
かつて拝謁した時のあの面影は残っている。
「わたくしは生きてる間は従順にお仕えしますと神聖誓約いたしましたの」
20年前、シャザリア王妃にそう言われた。
王国の北の極小田舎領地にいるパンゲア族長をと呼び出されたのだ。
その頃はもうローラシア王国は落ち着いて、リュスベル領のパンゲア族というのは土着の信仰の様なものだと思われていた。
王妃の出は遥か遠いエタミルだ。
パンゲア族の事など知る筈も無いと思っていたのが、いきなりのお召しだ。
「わたくしが天に召される時は詠って頂きたいの」
しかも魂送りをという。
セルヴェスは驚いた。
にこりと有無を言わせない様に覗き込む王妃は女神の様に美しく、その目はいっさいのハイライトが無かった。
怖い。
ブラックホールの様な深淵がこちらを飲み込もうとしている。
その視線の中でセルヴェスは即座に理解した。
祟り神になる気だと。
シャザリア王妃の話は伝わっている。
苛烈な王にただ一人愛される妃なのだと。
セルヴェスは王妃がその立場を呪っているのを理解した。
子も孫も自分さえ、どうなってもいいのだと。
そしてパンゲア族というを道具を見つけて、使い潰す気なのだと。
セルヴェスは罠に掛かった鼠の様に目を泳がせた。
逃げ道を頭の中で何十通りも考えた。
そんな目まぐるしいセルヴェスに王妃はにっこりと笑った。
「その為に 今 呼んだのよ」
王妃はわかっている。
魂送りで詠うということは肉体の束縛を脱げ捨てて思う存分言えるという事だ。
愛も哀も憎しみも身勝手に言い放てると言う事だ。
だからこそ、今から準備をすればましになる。
コレはわたくしの温情。
わたくしの道具におなりなさい。
王妃の目はそう言っていた。
王妃の望みを断れば、即座に一族殲滅が始まる。
それならわたくしに協力しなさい。
その日の為に準備をして、わたくしの心のままにさせなさい。
セルヴェスに断れる筈はなかった。
セルヴェスから見ると王と王妃は同じだ。
他者への無関心さと傲慢さと情け容赦のなさは見事に対になっている。
セルヴェスは一族の存亡のためにせめて準備の時間がある方を選んだ。
魂送りは基本奇数だ。
中心に詠い手を、両脇に導き手を配置する。
詠うと美しく表すが、様はその身に魂を取り込み生前の心残りや言いたい事を遺族に告げて、未練を消し去って天界の門へと昇天させる儀式だ。
肉体という枷から解放された魂は本能のままだ。
残された者への忖度も無く叫ぶ者もいる。
ぎりぎりと詠い手の身体を侵食して、鬼になろうとする者もいる。
そんな荒ぶる魂との同調を切る為に導き手はいる。
魂が同調すれば強制終了されるまで、詠い手は自分で暴走を止める事は出来ない。
王妃は神聖誓約終了後に周りがどうなろうと王への呪詛を吐き出すのだと笑う。
怒った王がパンゲア族をどうするかは考えなくとも明らかだ。
セルヴェスは20年前から荒ぶると宣言する王妃の魂を『幸せだった』と捻じ曲げる事を模索してきた。
王妃はたまに目を開けるが、此方を認識しているかはわからない。
時間はもうわずかしかのこされていないのだ。
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