カレが王子に就職しちゃった事の傾向と対策とその考察

たまとら

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5日前

3 パンゲアの希望

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王妃はときどきうっすらと目を開ける。
覗き込む自分をわかっているのだろうか?

セルヴェスはもどかしかった。
はっきりと見せつけてやりたかった。
貴女様の泥舟に我等は乗りませんと言ってやりたかった。
20年前とは違う。
パンゲアには今、希望があるのだ。



たむ たむ たむ たむ たむ 

絶え間ない打音が空気を拡散していく。
香の紫煙が弾かれた様にその渦に呑まれていく。

たむ たむ たむ

自分の心音と同調し始めた頃には、空気はゆるゆると周りを巡って場が出来上がっていた。
外界から切り離されたその中で、細い詠が満ちている。

エネメの声は子供らしく透明で高い。
縹色の目が魂を受け入れようと半眼になっている。
目尻に差した紅と唇を飾る紅が、発光する様な小さな身体を妖しく彩っていた。両脇の導き手の声はエネメの詠声に高く低く沿わせるように響く。

たむ たむ たむ たむ

詠がその場に溜まっていく。
その声にしゃがれた事が混ざり始めた。
エネメの声に低い声が二重になって立ち昇る。
喉歌ホーミーが朗々と流れ出して見守る人々に絡みついた。

エネメの足元にいるごま塩頭の中年音が「おっかぁ…」と呟いた時、ソレが始まった。

汚い女めぇ
わしの息子をだまくらかしやがってぇ
おめなんぞにわたさねぇぞぉ
息子も孫もわしのもんじゃあぁ

高い声としわがれ声が慟哭する。
目の前の男も女もびくりと身を縮めて、縋る様にエネメを見上げた。

おめぇなんぞに鐚銭一枚もやるもんかぁ
この雌犬めぇ
おめなんぞ◎%○*△▽‥

【死んじめぇ‼︎】と生前の言葉が叩きつけられようとした時

詠は途切れてうぅぅぅぅと和音になった。

たむ たむ たむ たむ

鼓動のような規則正しい音が人の意識を解いていく。

本来なら執着や憎しみで荒ぶる魂は静かに昇れない。
そうなったら詠い手は同調を切り、作った場の中に魂を放す。
打音と香に追われた魂は場から逃げられず、空いている上へと向う。そして詠い手と導き手の送りに押されてそのまま天界の門へと向かうのだ。

エネメのふっくらした頬が微笑む。

「仲良くね」

叫ぶ声を持ったまま二重の喉歌はそう告げた。
あの嫁いびりの姑は嫌だと叫んでいる。

「もう魂は門の向こうにいくから。残ったものは仲良くね」

姑の声は途切れていく。
わあぁぁぁとごま塩頭が泣き出した。
エネメは詠いながら抗う魂を掴み取ると天界へ押し出した。
エネメは魂に侵食されずに力技で昇天させたのだ。

見守っていたセルヴェスは肩の力を抜いた。



初めてエネメが詠ったのは四歳だった。
婚家を切り盛りした物静かな主婦の魂送りだった。
その魂が姑を夫を呪ってやると暴れたのだ。
慌てて導き手が同調を切ろうとした時にエネメは「お疲れ様でした」と言ったのだ。
金切り声の重なる幼い声は「頑張ったね」と詠った。
そしてその魂はおうおうと泣きながら天に昇っていったのだ。


その場にいたパンゲアの者は目を疑った。
エネメは魂を受け入れても侵食されずにコントロールしたのだ。
そんな事例はパンゲアの口伝になかった。

エネメなら荒ぶる王妃を封じれるかもしれない。
エネメなら王の前で幸せだった王妃を演じれるかもしれない。

以来、エネメはパンゲア族の希望になった。
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