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薬草研究所での生活

1 残念と可愛いはつながる

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ロアンがパルディル王国に来たのは、ズバリ出稼ぎだ。
ロアンは故郷のティガルに不満は持っていなかった。
ジャガイモばかりの食卓も、薬草採取の為に野宿するのも、山羊の中に紛れて寝るのも好きだった。
山羊の糞を集めて乾かして、燃やして暖をとるのも気にならなかった。
ロアンはティガルが大好きだったのだ。

それが出稼ぎに出たのは妹の為だ。
とか言うとなんかナルシーだな。
とロアンはてへっと笑った。
違う。採取くらいしか役に立たない自分が、妹にええかっこしたい‼︎と思ったからだ。



「もうすぐ成人だから、出稼ぎに行きます。」

兄さまと姉さまにそう言ったら、ひうっと息をのんでぶんぶん頭を横に振られた。
そりゃロアンは他の国に行ったことが無い。
人懐っこく農家や放牧場に行くけれど、改まった席は出たことが無い。
『懐っこくて可愛いくて純朴』というのが世間一般の評価だ。
"純朴"という美しい単語で飾っているが、要はちょろくて騙されやすいということだ。


ロアンは可愛い。もうすぐ成人なのに、幼く見える。
ロアンは可愛い。ティガル王族特有の桃色の目で妖精の様に見える。

ロアンは可愛い(頭が)
収穫祭で入り込んだ他国の商人に、四歳ぐらいの時攫われた。
衛士も自警団も慌てて探して、王自ら馬をとばした。
国境間際の馬車で見つけたロアンは、帰りたく無いと泣いた。
「もうすぐチョロのお花があるの。根っこを採ったら帰るからぁ。お願い、もうすぐなのぉ」
チョロの根はアカギレに効く。城の下働きがアカギレだらけなのをロアンは気にしていた。

みるみる潤んだ目は朝露のように丸い涙をぽろぽろと落とす。
同行した姉のテェインは口を押さえた。

ぐうっ。可愛いいっ!

見ればその場の全ての者が口を押さえている。
でまかせを言って連れ出した犯人達もふるふるしている。

「山と空を映しているあの子の目は、綺麗なものしか見えないのだろうなぁ」……ポエミー⁉︎
父上がポエミーになったぁ!

精霊王と呼ばれ、自分の外見を使って他国からの融資や戦争を回避させるティガル王は、実は冷徹な海千山千だ。
それがロアンの可愛いさにデレた。
その上、ポエミーに!
ロアン、恐ろしい子。

「ですよね、父上!」
きっぱり同意する兄バカのルクゥ。
テェインはこのままではいけない!と強く思った。

この誘拐はアクダマスの仕業だったのかもしれない。
ロアンを人質にして、我が国に何かを突き付けてくるつもりか。
それともロアンの可愛くて珍しいのに、愛玩奴隷として売るつもりだったのかもしれない。
そんな危機的状況を説明しても、迷惑かけてごめんなさいで終わる。
そう、ロアンは素直で可愛いのだ。

「こんな素直な子に腹芸は無理なんじゃないか。いいじゃないか、このままで。」

そんな父上と兄上に、テェインはノンノンと止めた。
教えなくてどうするんですか!
ロアンの為に仕込みましょう‼︎
そしてそれからな市場の交渉に連れ歩く。
建前という防護柵を見せて教えてきたけれど。
でも、ロアンはやっぱり残念な子のままだった。



ロアンはいい出したら絶対引かない。
元々貧乏なのに、ティガルは国を挙げての灌漑工事を始めた。
おかげでお金はすっからかんだ。

妹のニリュは"モー"(知識を配る者)だ。
本を何より愛している。
そんな妹に本を。出来れば学費を。
という凄く真っ当なロアンの主張に、反論できるはずも無かった。


なら、働くのはパルディル王国だ。
中原のわたわたした泡のような国では無く、歴とした大国。
ロアンは"スー"(緑の人)だ。
薬草採取が好きで、多少の傷や病気は薬草で治してくれる。
おあつらえむきに、パルディルのリアルトが薬草研究所にいる。

ルクゥとテェインは手紙をしたためた。



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