私が猫になってから

フジ

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あれから半年

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「わぁっ、また焦がした!」
「お父さーん、洗濯機終わったよー」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
「僕、カゴに移すのできるよ…わぁ!」
「大丈夫か!?すごい音がしたぞ!」
「いたーーい、うぁぁぁぁん、お父さーーーーん!」
「陽介、どうした!うわわわ、こっちも焦げた!」
「頭打ったー!お父さーーーん!」
「手が離せないんだ!」
「お父さーーーん!」


(ふぅ…、今日もバタバタしてる…)


あれから半年経ったけれど、私が死んでから義母が手伝いに来てくれたりして、2人の生活になったのがつい最近で。
長年正也さんは台所に立たなかったため未だに慣れない様子だ。

(陽介、今日給食の集金入れてないな…)
結局火を止めて陽介を見に行った正也さんがリビングに戻って来た時に、カウンターテーブルに乗り、そこに置いてある茶封筒を頭で押して、にゃーにゃー言った。

「ミミ、どーした?」
と覗き込んできて、私の足に踏まれている集金袋に気付いた
「うわ、忘れてた!陽介ー!しゅうきーん!」
忘れてたー!と重たそうなカゴを持ち、リビングに来た陽介は、集金袋をランドセルに入れた。
「ありがとう!ミミ!」

(どういたしまして~、早くご飯食べなさーい)

チーン!とトースターがけたたましい音を立てて、パンが焼けたのを知らせてくれる。
「パンが焼けたぞ、陽介、運んでくれ~」
「わっ、お父さん、また目玉焼き焦げてる!へったくそー!」
「下手くそ言うな、ウインナー無しにするぞ」
「わー!僕のウインナー!」

目の前で2人がテーブルについた笑いながらご飯を食べているのを見て、陽介の膝に座り、前足を舐める。
前足が綺麗になる頃には、2人は食べ終わっていた。

「さ、お母さんに行って来ますってしておいで」
うん!と陽介が、リビングの隣の和室に行き、仏壇に手を合わせた。それに私もついて行く。
陽介が正座をして、上手にろうそくに火を付けて、半分にした線香を灰に刺した。

小さく灯った線香の先に目が吸い寄せられる。
煙がゆらゆら揺れる。

「お母さん、今日もお父さん焦がしたよ!」
陽介が楽しそうに手を合わせて、遺影に話しかける。

ー知ってるよ

「それでね、目覚ましが鳴ったのに二度寝してたよ!」

ーくすくす、2回目起こしたの、私だよ

「給食のお金も忘れそうだった!ミミが教えてくれたんだ!」
「おいおい、お母さんに教えないでくれよ」
「ぜーんぶ言っちゃった!」

「お母さん、さっき言ったこと全部嘘です…ちゃんとお父さんはできています」
と正也さんは陽介の横で正座をして手を合わせて呟いた。
横で陽介は、お父さんが今言ったことはぜんぶ嘘です!と笑った。


2人は遺影の私に向かって。
私に背を向けて会話した。


ー全部全部わかってるよ。

そろそろ行かないと2人とも遅刻するよ、とニャーーーンと鳴いた。
それが毎日の日課。


「やっばい、遅刻する!陽介、急げ!」
「じゃあね!お母さん、行って来ます!」

と2人はカバンとランドセルを引っ掴んで、玄関まで走る。
「「ミミ、行ってきます」」
と2人で声を揃えて、出て行った。


(行ってらっしゃい、気を付けてね!)

そして私はにゃーーん、と鳴く。





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