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そして私たちは
そして
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※
あまりの日差しに身体が影になるように日傘を傾ける。
そして瞬く間に処刑されるのを遠目に、見届けた。
今日はすごくいい天気で、雲が一つもなかったから、家人が日傘を持たせてくれた。
家族も家の者も、誰1人、今日のことを口にしなかった。それなのに、毎日予定が詰まり分刻みのスケジュールがこの1時間だけすっぽりと空いていた。
父から任された仕事を終えて椅子から立つと、もうメイドが後ろに控えていた。
出掛けるわ、と伝えるとすぐに黒いドレスを手に取り、着替えさせてくれた。
そして、馬車を呼ばれ、行き先も告げなかったのに走り出す。
そしてー、あの方の最後を見届けたのだ。
あの方は最後に私を見上げた。
そして、ごめんなさい、と唇を動かした。
本当にその言葉を言ったかどうかは、永久に分からない。
その言葉に私は、何も返さなかった。
返せなかった。
地面が濡れて色を変えていた。
※
あの日、私は兄に頬を打たれて、正気に戻った。
血だらけの、もう冷たくなっていた頭を抱えて、放心していたのだ。
目の前にお兄様とお父様がいて、2人とも顔が青ざめていた。何があったー、と、大丈夫かー、とまくし立てられて、何から言えばいいのか頭が追いつかなかった。わたくしは大丈夫です、と何とか伝えた。
そして、強張る身体を優しくお母様が撫でてくれて、ようやく、力がゆるまった。どうやら家人も引き離そうとしたけれど、私があの人を抱きしめて離れなかったそうで。
優しく、優しくお父様があの人の頭を抱き、娘のこと御礼を言う、すまなかったー。とタオルを敷いた床に頭を置いた。
そして、お兄様が抱き抱えてくれて、私は力なくお兄様の腕に収まった。
その力強さに。生きている感触に。
いたたまれないほどの寂しさを感じたが、安心もして、意識が遠のいてくる。
霞む視界に、お父様の後ろに何度か挨拶させてもらったルーブル家の当主がみえた。あの人の側に立ち尽くし、馬鹿者めー。と呟いたのが聞こえた。
その声は確かに震えていが、もう意識が途切れる寸前で、それはもう確かめようがなかったー。
それから、私は丸一日寝ていたらしい。
目を開けると側に仕えていたメイドが大きな声を出して、すぐにみんなが集まってきた。
お父様達の顔を見ると、涙が出てきてお父様達も涙ぐみ私を抱きしめてくれた。
そこであの人のことを教えてもらった。葬儀は明日でで、ひっそりと行われるそうだ。遺体ももう運び出されているらしい。マリー様は、と尋ねると皆が言いにくそうに、言葉に詰まった。マリー様は1週間後にルーブル家の三男を殺害した罪で処刑される、と執事が答えてくれて、私も、そうー。と返した。
※
ユーリ様の葬儀には参列できなかった。
高熱が出たのと、ルーブル家から断られたからだ。
今後一切の接触をしない、と一方的に伝えられて、そして社交界で流れていた婚約破棄の噂は一気に、クラベル家とルーブル家のもつれ、に変わっていった。
そして私は、人々から違う意味の憐れみの目で見られることになった。
婚約破棄のことで、暴言を吐いていた令嬢から一気に、おいたわしいとの内容の手紙がくるようになった。
その中にまぎれて拘置所からの手紙があった。執事がお父様の許可を経て、持ってきてくれたのだ。
その手紙には、一言だけ、ごめんなさいと書かれていた。
あの人の首が飛ぶ瞬間、私はあの人を失うと同じくらい張り裂けそうに胸が痛み、人が去って誰も居なくなるまで、泣いてしまった。
家族や家人に内緒でマリー様の命を救おうと、奮闘したが私では何もできなかった。
あの人が守りたかった者を、代わりに守りたかった。
ただの独りよがりな自己満足だと分かっていた。
ルーブル家の家の前で当主を待っていると友人に捕まったこともあった。自分を殺そうとした人物を救おうとするなんて頭がおかしいとまで言われた。
それは本当にそうだと思う、なぜ、ここまでしてマリー様を救おうとしているのか分からなかったが、生きて欲しかったのだ。
もう誰も死んでほしくなかった。
あの人も、私が救えたかもしれない人だった。
巻き込んでしまった人なのだー。
そして私は誰も救えなかったー。
3人で過ごしたあの溌剌とした笑顔を絶対忘れないと思った。
あの方からの最後の手紙は、机の中にしまっている。
人を、救えるほどの、力をつけたい。
そう強く思った。
日傘を畳み馬車に乗り込んだ。
あまりの日差しに身体が影になるように日傘を傾ける。
そして瞬く間に処刑されるのを遠目に、見届けた。
今日はすごくいい天気で、雲が一つもなかったから、家人が日傘を持たせてくれた。
家族も家の者も、誰1人、今日のことを口にしなかった。それなのに、毎日予定が詰まり分刻みのスケジュールがこの1時間だけすっぽりと空いていた。
父から任された仕事を終えて椅子から立つと、もうメイドが後ろに控えていた。
出掛けるわ、と伝えるとすぐに黒いドレスを手に取り、着替えさせてくれた。
そして、馬車を呼ばれ、行き先も告げなかったのに走り出す。
そしてー、あの方の最後を見届けたのだ。
あの方は最後に私を見上げた。
そして、ごめんなさい、と唇を動かした。
本当にその言葉を言ったかどうかは、永久に分からない。
その言葉に私は、何も返さなかった。
返せなかった。
地面が濡れて色を変えていた。
※
あの日、私は兄に頬を打たれて、正気に戻った。
血だらけの、もう冷たくなっていた頭を抱えて、放心していたのだ。
目の前にお兄様とお父様がいて、2人とも顔が青ざめていた。何があったー、と、大丈夫かー、とまくし立てられて、何から言えばいいのか頭が追いつかなかった。わたくしは大丈夫です、と何とか伝えた。
そして、強張る身体を優しくお母様が撫でてくれて、ようやく、力がゆるまった。どうやら家人も引き離そうとしたけれど、私があの人を抱きしめて離れなかったそうで。
優しく、優しくお父様があの人の頭を抱き、娘のこと御礼を言う、すまなかったー。とタオルを敷いた床に頭を置いた。
そして、お兄様が抱き抱えてくれて、私は力なくお兄様の腕に収まった。
その力強さに。生きている感触に。
いたたまれないほどの寂しさを感じたが、安心もして、意識が遠のいてくる。
霞む視界に、お父様の後ろに何度か挨拶させてもらったルーブル家の当主がみえた。あの人の側に立ち尽くし、馬鹿者めー。と呟いたのが聞こえた。
その声は確かに震えていが、もう意識が途切れる寸前で、それはもう確かめようがなかったー。
それから、私は丸一日寝ていたらしい。
目を開けると側に仕えていたメイドが大きな声を出して、すぐにみんなが集まってきた。
お父様達の顔を見ると、涙が出てきてお父様達も涙ぐみ私を抱きしめてくれた。
そこであの人のことを教えてもらった。葬儀は明日でで、ひっそりと行われるそうだ。遺体ももう運び出されているらしい。マリー様は、と尋ねると皆が言いにくそうに、言葉に詰まった。マリー様は1週間後にルーブル家の三男を殺害した罪で処刑される、と執事が答えてくれて、私も、そうー。と返した。
※
ユーリ様の葬儀には参列できなかった。
高熱が出たのと、ルーブル家から断られたからだ。
今後一切の接触をしない、と一方的に伝えられて、そして社交界で流れていた婚約破棄の噂は一気に、クラベル家とルーブル家のもつれ、に変わっていった。
そして私は、人々から違う意味の憐れみの目で見られることになった。
婚約破棄のことで、暴言を吐いていた令嬢から一気に、おいたわしいとの内容の手紙がくるようになった。
その中にまぎれて拘置所からの手紙があった。執事がお父様の許可を経て、持ってきてくれたのだ。
その手紙には、一言だけ、ごめんなさいと書かれていた。
あの人の首が飛ぶ瞬間、私はあの人を失うと同じくらい張り裂けそうに胸が痛み、人が去って誰も居なくなるまで、泣いてしまった。
家族や家人に内緒でマリー様の命を救おうと、奮闘したが私では何もできなかった。
あの人が守りたかった者を、代わりに守りたかった。
ただの独りよがりな自己満足だと分かっていた。
ルーブル家の家の前で当主を待っていると友人に捕まったこともあった。自分を殺そうとした人物を救おうとするなんて頭がおかしいとまで言われた。
それは本当にそうだと思う、なぜ、ここまでしてマリー様を救おうとしているのか分からなかったが、生きて欲しかったのだ。
もう誰も死んでほしくなかった。
あの人も、私が救えたかもしれない人だった。
巻き込んでしまった人なのだー。
そして私は誰も救えなかったー。
3人で過ごしたあの溌剌とした笑顔を絶対忘れないと思った。
あの方からの最後の手紙は、机の中にしまっている。
人を、救えるほどの、力をつけたい。
そう強く思った。
日傘を畳み馬車に乗り込んだ。
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