魔法伯爵と私

狩野真奈美

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冬の夜道2

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アリスは無事にとは言い難い気もするが何とかかんとか孤児院に入った。一応、奴隷商の事件の証人として王都に衛兵の馬車で移動した。名称は証人であるが、証拠物件のような気がしてしょうがなかったが。そして、ほとんど聴取が行われることもないまま、王都の孤児院へと放り込まれた。騒ぎになった町の孤児院で色眼鏡で見られるよりも王都の孤児院の方がマシかと思った。王都の孤児院での生活は、規律が厳しく、それまで父親の自堕落な生活の中にいたアリスにとっては慣れるまで少し辛かった。しかし、清潔な環境というのは非常に快適であることに気づくことが出来てよかった。毎朝5時に起き、掃除をする。午前中は文字の読み書きと基本的な算術の学習。午後からは針仕事などの内職。日々は単調に過ぎていった。孤児院は宗教的な要素もなく、国からの補助金や貴族からの寄付、額は少ないが院生の内職で稼いだもので賄われていた。上下関係は孤児院での生活年数により、基本的に外に出ることはない。白い塀に囲われたそこでは揉め事はそれなりにあるが、アリスにとっては今更であった。6歳で入院したアリスはそこでついさっき、10歳になるまでを過ごした。そして、その日は突然訪れたのだ。真冬のことだった。
今日、アリスは朝から体調が悪かった。恐らく風邪をひいたのだ。体調不良を孤児院の先生に申請すると、面倒くさそうな顔をしつつ部屋にいるように言われた。内職の締め日が近づいている中、体調不良で休まれるのは面倒くさい。しかし、100人近くいる集団生活で感染が広がる愚は犯したくない。アリスは孤児院の制服である簡素な黒いワンピースを脱いで何度も持ち主を変えたであろう継ぎ接ぎだらけの白いパジャマに着替えて布団に潜り込んだ。部屋は6人部屋だが、病人用の個室に移動するように言われていた。午前中を寝て過ごし、昼過ぎ、悪寒に体を震わせて目を開くと、枕元に、男がいた。誰かいるとは思わなかったので、息を飲む。
「…院長先生」
突然いたので驚いたが、この孤児院の院長だった。恰幅の良い、髭を蓄えた壮年の男性だ。
体調不良の院生の様子を見に来たのだろうか、と思った。元々、院長であるが何の仕事をしているのか不明な男だ。貴族だったが勢力争いに敗れ、このような閑職に飛ばされたという噂がまことしやかに囁かれている。
「…あの、何か」
院長は、突然ニヤリと笑った。その下品な笑みにぞくりとした。手を伸ばしてアリスの頭を撫でる。その手は執拗にねちこい。
「君の黒髪は綺麗だねえ。サラサラして気持ちいいよ」
妙に熱い手が頬を撫でる。
「肌もきめ細かくていいねえ。しみひとつない。うんうん」
手は首筋を撫でる。
「このまま、首を絞めたらその紫の瞳が潤んでさぞや美しいだろう」
殺される、と思った。こんな危険な殺人鬼を孤児院の院長にするとはこの国はどうなってるんだと。
しかし、次の瞬間その疑惑は転じた。

ビリリリッ

継ぎ接ぎだらけのパジャマの前が引きちぎられ、ボタンが飛んだ。
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