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あの頃
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私はそのニュースを何気なく見ていたネットニュースで知った。私が文芸肌の人間であっても我が家では新聞を取っていないし、日々のニュースはテレビやスマートフォン頼みである。新聞も好きなのだが、処分に困るのだ。仕事をしながら子育てをしている私にとっては新聞を紐で括って資源ゴミに出す手間が惜しまれる。農協職員の夫と小学生の二人の娘の世話に追われながら、近くの市役所の税務課でパート職員をして慎ましく暮らしている。不満を言い出せばキリが無いのが人生だ。顔だって不細工寄りの私がこれ以上我儘を言ってはいけない。そうだ。彼女のように恵まれた才能などないのだ。私は日々、自分にそう言い聞かせてこの歳まで生活している。
それでも、そのニュースを見た瞬間には眩暈と頭痛が襲ってきた。吐きそうなほど気持ち悪い。劣等感と言えばそれまでだ。私の人生を侵食し続ける彼女への気持ちを。絶望と言えば簡単だ。自分のつい先程まで満足していた生活への思いを。
そのニュースの見出しはこうだった。
「虎若賞、今年の受賞者発表。美人女流作家、相原若葉」
そう、私の名前は沢田若葉。旧姓を相原という。
そして、ネットニュースに添付されていた写真の顔は勿論私ではない。あの頃から少しも変わらない彼女の顔。
おかしいな。同じ年齢のはずなのに全然老けないのか。何かもう泣きそうになってきた。
どうしてだろう。どうして彼女にはいつも届かないんだろう。私の能力も。私の思いも。二重の意味で届かない全てに思考が灰色に塗りつぶされる。
「どうしたの?相原さん。顔色悪いけど大丈夫?」
課長に問われる。なんと応えていいのか分からない。普段からよく気が回る上司ではあるが、こんな時にまで。
「今日はもう早退して大丈夫だよ。真っ白だよ、顔」
他の職員たちもこちらを見て口々に言う。
「大丈夫?ほんとに」
「帰って温かくして寝た方がいいわよ」
そんな優しさに何か言葉を返す余裕もなく私はタイムカードを切って鞄を持ち外に出た。
十二月の風が私の身体を冷やす。頭はもう意味の分からない思考がとめどなく溢れていて使い物にならない。
身体だ。身体に意識を集中するんだ。
冷たい風が私に向かって吹く。吐く息は白く染まる。
年末になると発表される権威ある文学賞の新人賞、虎若賞。
今年の受賞者は私の学生時代同級生で文芸部でも一緒だった女。
河村希子。
その人だった。
それでも、そのニュースを見た瞬間には眩暈と頭痛が襲ってきた。吐きそうなほど気持ち悪い。劣等感と言えばそれまでだ。私の人生を侵食し続ける彼女への気持ちを。絶望と言えば簡単だ。自分のつい先程まで満足していた生活への思いを。
そのニュースの見出しはこうだった。
「虎若賞、今年の受賞者発表。美人女流作家、相原若葉」
そう、私の名前は沢田若葉。旧姓を相原という。
そして、ネットニュースに添付されていた写真の顔は勿論私ではない。あの頃から少しも変わらない彼女の顔。
おかしいな。同じ年齢のはずなのに全然老けないのか。何かもう泣きそうになってきた。
どうしてだろう。どうして彼女にはいつも届かないんだろう。私の能力も。私の思いも。二重の意味で届かない全てに思考が灰色に塗りつぶされる。
「どうしたの?相原さん。顔色悪いけど大丈夫?」
課長に問われる。なんと応えていいのか分からない。普段からよく気が回る上司ではあるが、こんな時にまで。
「今日はもう早退して大丈夫だよ。真っ白だよ、顔」
他の職員たちもこちらを見て口々に言う。
「大丈夫?ほんとに」
「帰って温かくして寝た方がいいわよ」
そんな優しさに何か言葉を返す余裕もなく私はタイムカードを切って鞄を持ち外に出た。
十二月の風が私の身体を冷やす。頭はもう意味の分からない思考がとめどなく溢れていて使い物にならない。
身体だ。身体に意識を集中するんだ。
冷たい風が私に向かって吹く。吐く息は白く染まる。
年末になると発表される権威ある文学賞の新人賞、虎若賞。
今年の受賞者は私の学生時代同級生で文芸部でも一緒だった女。
河村希子。
その人だった。
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