冒険者ゴートの一生

ケバブ

文字の大きさ
35 / 60
三章

セカの街の冒険者達6

しおりを挟む
自分が負けるなんて微塵も思っていないのかはたまた、魔獣故の昂りか、魔狼が狂気染みた顔つきで駆けてくる。

このまま勢い良く飛びかかられてはたまったもんじゃない。

魔狼がある程度近付いた所で木製の槍をあえて横向きに投げる。

非常に素早い魔狼には当たる筈もなく、大きく横に避けられるがこれで良い。横に避けたことによって助走の分の力が無くなった。

今のうちに上着を脱ぎ左腕に巻きつけ鉈を逆手に持ち、右手に槍を構える。

左腕を前に出しつつジリジリと狼との距離を詰める。


首に牙や爪が届いたら確実にやられる。かつて無い緊張感の中槍をつき出しつつ時には魔狼の引っ掻きを避けつつ間合いを調整していく。


「ガルァア!」

焦れったいやり取りに痺れを切らしたのか、魔狼が牙を剥いて前に出している左腕に噛みついてきた。

「っし!」

魔狼が左腕に噛みつこうと大きく口を開けて飛び込んできた瞬間、左腕を口に対し直角に構え思いっきり突っ込む。

ビリビリッと左腕に巻いた上着が裂け腕に牙が突き刺さる。しかし腕に巻いた上着と牙の短い口の奥の方に腕を押し込めたおかげでまだ耐えられる。

「っつ、オラァ!」

右手の槍を魔狼の左目に向けて思い切りねじ込む。

「ガァアアア!」

魔狼が怯んだ瞬間に左腕を引き抜き鉈で右前足に一撃。

再び魔狼と生まれる距離。槍は目玉をつけたまま抜け落ちてしまった。
片目を潰された上、右前足にまで見過ごせない傷を与えた相手だ。魔狼には既に一切の驕りはない。

「クソッ!脳まで刺さってねえじゃねえか」

予定では槍の一撃で脳まで突き刺し一撃で決める予定だった。しかし魔狼が想像以上の反応を見せ目玉を潰す所までしか刺さらなかった。

左腕もまだ動くが流れ出る血は無視できない。手持ちのロープで手早く腕を縛り止血。鉈を右手に構え直し、左手には木製の槍。

再び襲いくる魔狼。
爪による引っ掻きは魔狼の足元が安定してない今、落ち着けば避けられる。隙を見て槍を突き出すもさっきの攻撃が余程堪えたのか予備動作で直ぐ距離をとられる。

体力的にもキツくなってきた。何処かで勝負に出ないと不味い。何か手段は…。一瞬の思考隙。

ズシンと体に重い衝撃。

「うぐっ」

ここに来て爪でも噛みつきでもなく体当たり。
予想外の攻撃に反応できず軽く飛ばされ倒れてしまう。

このままじゃ殺られる。咄嗟に槍を投げる。魔狼が一瞬怯んだ隙に鉈を左手に、右手にはナイフ。持ち変えたと同時に魔狼が走り出す。


「そのまま!」

突然の声に驚きつつも声に従いその場で迎え撃とうと構える。魔狼が俺を殺そうと飛びかかってきたその瞬間、目に入ってきたのは綺麗な赤。そのまま魔狼に吸い込まれるように当たったかと思うと爆音。さっき食らった魔狼のタックルよりも強い衝撃と結構な熱さを感じながら再び吹っ飛ばされる。

飛ばされながらも体勢を整え魔狼を見ると、所々焦げていてボロボロではあるが真っ赤な目は死んでいない。

すかさず右手のナイフを狼の左側に投擲し走り出す。

左側にナイフが来たことで右側に飛ぶ魔狼。そこを狙いさらに鉈を投擲。比較的万全な左前足で鉈を払う魔狼だが、そうなるとボロボロの右前足に体重がかかり体勢が崩れる。

走りながら拾った槍を魔狼の左目に全体重を乗せぶち込んだ後柄を蹴り離れる。

動かない魔狼。あんなに赤かった目が真っ白になっている。右目だけだが。



取り敢えず街に戻らないと。いや先に腕を洗うところからか。喉もカラカラだ。

急ぎ上の肌着を脱ぎバッグから水の魔道具を取り出し左腕を洗い、ついでに水を一口。幸い骨まで到達してる傷はない。後で医療組合で見て貰う必要は有るだろうけど。

「君!大丈夫かっ!?」

「なんとか…。さっきの魔法はあなたが?」

「ああ。魔獣相手だったし明らかに危険だったから介入させて貰った。私はアーク、セカの街の五級冒険者だ」

凄い魔法だと思ったけど五級冒険者だったとは俺の運も捨てたものじゃ無いかもしれない。

「助けてくれてありがとうございます。俺の名前はゴート、同じくセカの九級冒険者です」

「九級だって!?何故九級冒険者が魔狼と…そもそもこんなところに魔狼なんて…。いや、今は街に戻ることが先決だな。この森になにか起きている事は確実のようだし一緒に冒険者組合へ行こう」

「助かります。今は普通の狼や猪でも苦労しそうなんで…」

アークさんの助けを借りて武器を回収し今までの経緯を説明しながら街へ戻る。

アークさんは五級への昇級のため三ヶ月程他の街で依頼を受けていたらしく、その後にこの街に来た俺は面接点がなかったようだ。

「なるほど。組合が討伐を確認した以上一体は確実に仕留めたのだろう。想定外だったのはそれ以外に六体も魔狼が居たことだ。そもそもあの森で魔狼が同時に七体も発生したなんで聞いたことがない。これは組合だけでなく領主様も含め検討せねばなるまい」

「という事は今起きてることは異常事態ってことですか?」

「間違いなくな」

「これからどうなっちゃうのかな…」

魔狼との激戦の疲れ、相対した時の無力感や魔狼の複数出現。不安や焦燥。冒険者になって初めて湧き上がる感情に弱音が涙と溢れ出す。

「ゴート、顔を上げ胸を張れ」

アークさんからの予期せぬ言葉に顔を上げる。
先を歩くアークさんはこちらを振り向くことなく語りだす。

「お前は九級冒険者ながら魔狼の群れから生存し、単体とはいえ魔狼相手にあそこまで戦い、結果生き延びた。そしてお前が生き延びたからこそ魔狼の複数出現という街にとって非常に重要な情報を得ることができたんだ。情報を持ち帰る。冒険者としてこれ程大切なことは無い。だからこそだ。街に帰り、冒険者組合に入る時は胸を張り、冒険者らしい顔をするんだ」

「一方で冒険者は色々な感情、思いを経験しなければ強くはなれない。…だから門の前までは存分に感情を吐き出せ。それが良い冒険者への糧となる」



俺は暫くの間アークさんの足跡を追いながら街へ戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ
ファンタジー
亡祖父母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。 困っている人がいればすぐに駆け付ける。 人が良すぎると周りからはよく怒られていた。 「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」 それは口癖。 最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。 偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。 両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。 優しく手を差し伸べられる存在になりたい。 変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。 目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。 そのはずだった。 不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……? 人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...