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悠久の王・キュリオ編2
《番外編》ホワイトデーストーリー28
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悠久の空のように深く澄んで清らかな光を纏うキュリオが与えてくれるぬくもりは、いつも絶対の安心感と安らぎをもたらしてアオイを包み込んでくれた。
物心つく前から傍にいて、溺れるほどの愛を注いでくれた大切なひと。どんな危険なことからも守り、慈しんでくれたキュリオは悠久の王であった。
この国で唯一無二の強大な力を誇り、この国に生きるすべてのものたちを愛する神にも等しい人物だった。
鼓動の音色まで美しい彼の胸元へ顔を寄せていると、何故そんな方が自分を好いていてくれるのかという疑問が再び首をもたげる。
ただ一緒にいる時間が長いから?
……娘だから?
私に親がいないから……?
自分を卑下する言葉しか見つからないのも無理はない。
アオイはキュリオと違って力を持たず、出生もわからないただの人間だからだ。
(お父様に相応しい女性はきっと他にいる。力が無くても、知的で大人で……お父様を支えてくれる女性が……)
「…………」
どう足掻いても疑問しか浮かばないアオイは再び口を閉ざして考え込んでしまった。
「また余計なことを考えているね?」
アオイはその視線と態度に考えていることが現れてしまうほどに嘘を付くのが下手だった。
いつまでも自信のない愛らしい娘の髪をゆっくり撫でるキュリオ。その髪に指を通して梳きながら、心に波紋を落とすような美しい声色で言葉を続ける。
「いっそのこと私たちの仲を国中に公言してしまおうか?」
視線を合わせるように顔を覗き込んで問うキュリオにアオイも思わずその瞳を見つめ返す。
「……っ! そ、それはっ……」
アオイには隣で堂々としていて欲しいと願うキュリオが前々から真剣に考えていたことだった。
以前はアオイを王の娘として国中へ公言することを願っていたが、アオイの身を案じてそれは城の内部の人間までに留められた。
しかし想いが通じたいま、己の伴侶として公言することをキュリオは強く願っている。
そこにはアオイに近づく者たちをいま以上に制限し、彼女を常に自分の傍へ置いておくための手段としての目論見でもあった。
衝撃を受けたように眉をひそめるアオイの想いもわかる。彼女はまだ学生であり、親友と呼べる大切な友人たちと出会ってしまったのだ。王と恋仲だと公言されてしまえば、今まで通りの穏やかな学園生活に戻ることなどほぼ不可能だろう。
(……お父様が納得されるよう、私が譲歩してもらうにはどうしたら……)
「お前に選ばせてやろう」
そう言ってアオイの下唇を親指で撫でるキュリオの瞳が深く色づく。
「……?」
譲歩してもらう良い案さえ浮かばずに口を閉ざしていたアオイは目を丸くして次の言葉を待った。
「期を待たずして、明日にでも私が国中へ公言するか。それとも私のすべてをいま受け入れるか、だ」
「……こ、公言されるのは、せめて……」
アオイはミキやシュウとまだまだ離れたくない想いが強いあまりに、そこさえ回避できるなら……と後者のことを深く考えておらず、キュリオのすべてをいま受け入れる方を迷わず選んだ。
「お父様が許してくださるのなら、せめて皆に知らせるのはもうすこし……待ってほしいです。
それと……私はすべてを受け入れているつもりですが、いま以上キュリオ様を受け入れるにはどうすればよいですか?」
真っ直ぐに見つめ返すアオイの瞳は迷いのない意思の強さが見てとれる。
学園へ通い始めたアオイは城で過ごしていた日々では考えられないほど自我を訴える様になり、学園生活を続けることへの強い執着を見せてはキュリオに反発するようになっていた。
恐らくこれが本来の彼女なのだろう。キュリオの言いつけに反発することなく、清らかで高い塀に囲まれて育った姫君は普通というものを知らずに蛹から蝶へと羽化した。いつでも用意されたものを口にし、身に着け、そしていまキュリオが与えた選択肢がいずれも彼が望む形であることなど疑っていないアオイは、出された二択以外に思案を巡らせることなどあるわけもなかった。
「ああ、お前は何もせずともよい」
笑みを深めたキュリオの瞳はどこまでも慈悲深い光を宿していたが、その奥底では首をもたげた欲望が徐々に色濃くその瞳を覆いつくしていく。
言葉が終わる前に近づいたキュリオの唇がアオイに重なると、先ほどよりも熱を帯びたそれが意味しているものをアオイはまだ知らなかった――。
物心つく前から傍にいて、溺れるほどの愛を注いでくれた大切なひと。どんな危険なことからも守り、慈しんでくれたキュリオは悠久の王であった。
この国で唯一無二の強大な力を誇り、この国に生きるすべてのものたちを愛する神にも等しい人物だった。
鼓動の音色まで美しい彼の胸元へ顔を寄せていると、何故そんな方が自分を好いていてくれるのかという疑問が再び首をもたげる。
ただ一緒にいる時間が長いから?
……娘だから?
私に親がいないから……?
自分を卑下する言葉しか見つからないのも無理はない。
アオイはキュリオと違って力を持たず、出生もわからないただの人間だからだ。
(お父様に相応しい女性はきっと他にいる。力が無くても、知的で大人で……お父様を支えてくれる女性が……)
「…………」
どう足掻いても疑問しか浮かばないアオイは再び口を閉ざして考え込んでしまった。
「また余計なことを考えているね?」
アオイはその視線と態度に考えていることが現れてしまうほどに嘘を付くのが下手だった。
いつまでも自信のない愛らしい娘の髪をゆっくり撫でるキュリオ。その髪に指を通して梳きながら、心に波紋を落とすような美しい声色で言葉を続ける。
「いっそのこと私たちの仲を国中に公言してしまおうか?」
視線を合わせるように顔を覗き込んで問うキュリオにアオイも思わずその瞳を見つめ返す。
「……っ! そ、それはっ……」
アオイには隣で堂々としていて欲しいと願うキュリオが前々から真剣に考えていたことだった。
以前はアオイを王の娘として国中へ公言することを願っていたが、アオイの身を案じてそれは城の内部の人間までに留められた。
しかし想いが通じたいま、己の伴侶として公言することをキュリオは強く願っている。
そこにはアオイに近づく者たちをいま以上に制限し、彼女を常に自分の傍へ置いておくための手段としての目論見でもあった。
衝撃を受けたように眉をひそめるアオイの想いもわかる。彼女はまだ学生であり、親友と呼べる大切な友人たちと出会ってしまったのだ。王と恋仲だと公言されてしまえば、今まで通りの穏やかな学園生活に戻ることなどほぼ不可能だろう。
(……お父様が納得されるよう、私が譲歩してもらうにはどうしたら……)
「お前に選ばせてやろう」
そう言ってアオイの下唇を親指で撫でるキュリオの瞳が深く色づく。
「……?」
譲歩してもらう良い案さえ浮かばずに口を閉ざしていたアオイは目を丸くして次の言葉を待った。
「期を待たずして、明日にでも私が国中へ公言するか。それとも私のすべてをいま受け入れるか、だ」
「……こ、公言されるのは、せめて……」
アオイはミキやシュウとまだまだ離れたくない想いが強いあまりに、そこさえ回避できるなら……と後者のことを深く考えておらず、キュリオのすべてをいま受け入れる方を迷わず選んだ。
「お父様が許してくださるのなら、せめて皆に知らせるのはもうすこし……待ってほしいです。
それと……私はすべてを受け入れているつもりですが、いま以上キュリオ様を受け入れるにはどうすればよいですか?」
真っ直ぐに見つめ返すアオイの瞳は迷いのない意思の強さが見てとれる。
学園へ通い始めたアオイは城で過ごしていた日々では考えられないほど自我を訴える様になり、学園生活を続けることへの強い執着を見せてはキュリオに反発するようになっていた。
恐らくこれが本来の彼女なのだろう。キュリオの言いつけに反発することなく、清らかで高い塀に囲まれて育った姫君は普通というものを知らずに蛹から蝶へと羽化した。いつでも用意されたものを口にし、身に着け、そしていまキュリオが与えた選択肢がいずれも彼が望む形であることなど疑っていないアオイは、出された二択以外に思案を巡らせることなどあるわけもなかった。
「ああ、お前は何もせずともよい」
笑みを深めたキュリオの瞳はどこまでも慈悲深い光を宿していたが、その奥底では首をもたげた欲望が徐々に色濃くその瞳を覆いつくしていく。
言葉が終わる前に近づいたキュリオの唇がアオイに重なると、先ほどよりも熱を帯びたそれが意味しているものをアオイはまだ知らなかった――。
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