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14話
しおりを挟む「……まさか逃げ出すとはな。どれだけ第二部隊が無能かということを知らしめた結果というか」
「イース、他の部隊の話よ。それ以上言うのはやめておきなさい」
「まあ、その通りか」
人手不足だとガリュツィは告げていたが、さすがに限度というものがある。イースは静かに息を吐き出しながら隣に立つミエルを見つめた。今日も楚々とした白いワンピースを着ている。銀の髪と青い瞳の彼女によく似合ったし、なにより、硬い防具に体を包んではいないから、鍛えた中でも、ところどころの柔らかさは見えた。例えば胸とか。
イースは無表情にミエルをじっと見下ろした。そうしなければ勝手に顔がおかしくなる。「……嫌、だったのに……」 ミエルは小さく呟き、ふいと顔を逸らした。こうなれば、騎士団の威信をかけた捜索である。彼らに再度の任務が回ってきたのは、おかしくはない話だった。
「ネズミ男は私達の顔は、もう知っているでしょう。だったら意味がないと思うんだけど」
「釣れるのがあいつ一匹じゃないだろ。規模を考えると複数人が売買を行ってるはずだからな」
「そう、だけど……」
ミエルだって、わかってはいる。けれども、どうにもむずかゆい。
イースとは、残り数日ばかりの胸の痛みに知らないふりをしてしまえば、きっとどうでもよくなることなのに。こうして、まるで似合わない服を着て、彼の前で着飾って隣に立つだなんて、ひどく恥ずかしかった。
(鏡の前に立って見たときは滑稽だったわ)
ひどく見慣れないものだ。いや、リョート家にいたころは、これでもいっぱしの格好はしていたつもりだが、そのときよりもずっと背が伸びているし硬い表情をしていた。(でも) かわいい、と言われたイースの言葉を思い出して、おべっかに決まっている、と首を振った。今日はいつものように髪を上げているから、真っ赤な首元がイースからもよく見えた。
「ミエル?」
お前、どうしたんだと声をかけようとしたときだ。
「おう、イース。ミエルか」
「そろそろ交代だ。俺たちも見回りに参加する」
「え、ああ、ん、ん?」
聞き覚えのある声の主に目を向けて、彼らはパキリと時をとめた。ゴツゴツした筋肉の男たちが、仲良く手を繋いでこちらに手を振っている。もちろん、同僚であり、自身は彼らの後輩である。しかし。ミエルとイースは目を魚のようにして彼らを見つめた。片方は、ひらひらと可愛らしい服を着ている。下手をすると、ミエルよりも愛らしい服だ。「…………」 ミエルはそっと自身の服の裾をひっぱった。何か虚しくなった。
「い、いえ先輩方、そ、それは、ちょっと」
「ははは! まっさか俺たちもおかしくなったわけじゃねえよ! 幻影魔法だ!」
「あ、あ、ああー……あ?」
納得をしたような、していないような。イースはこめかみに人差し指を置きながらも困惑した。
「お前達だけで見回りをさせるのも効率が悪い。なんとかならんかとうちの団長が第二部隊の団長に提案したんだ。幻影魔法が得意なんだろう?」
変化までさせてしまうと、さすがに普段の動きができないからなあ、とふりふりと服を揺らす彼と、うなずきながらしっかと手をつなぐ男二人に、な、なるほどお、とさすがに後輩であるため、ミエルとイースは静かに返事をした。中々体をはっている。
『うちの連中は、お前以外でかいガタイのやつらばかりだからな! お前に断られると、さすがにきついと思っていたところだ!』
以前にゲラゲラと笑っていた団長の姿をイースは知っている。まさか本当にさせるとは、と呆れたような気持ちだ。それじゃあ、お願いしますとなんとも言えない顔つきで返答をしながら、去っていく先輩二人の姿を見つめた。いなくなると、イースはミエルの手を静かに握った。「え、あの、イース……」 すでに見回りの任は解かれている。それなら、こんなことをする必要はない。
キスをしようとした。でも明らかにひと目がある。イースはミエルの手をつなぎながら、ずんずんと進んでいく。路地裏に連れ込み、壁に押し倒しキスをした。驚きながらもミエルもイースに合わせた。訓練が終われば、互いにキスをする。考えてみればひと月前に繰り返していたことだ。それが、すっかりミエルの部屋に変わってしまっていたわけだが。
「……イース、その」
困惑するミエルの顔を見ながらも、イース自身、おかしくなっていることに気がついていた。だから引く。そう思っていたはずだった。なのに、ちらりと彼を見上げながら、「……するの?」 彼女の小さな声を聞くと、たまらなくて、勝手にミエルのふとももに手が伸びてしまっていた。「あ……」 するすると小さな布をひきぬく。荒い息を吐き出しながら、彼女にキスした。
***
「ん、んっ、ん、ん、ん……っ!!」
ミエルは必死に声を押さえ込み、イースに尻をつきつけた。壁に両手をつきながら、自身の秘所でイースのペニスをこすっている。ぬとぬとと滑りがよく、ふと間違えれば、埋め込まれてしまいそうだ。
「ふざけんなよ、お前、かっわいいんだよ……っ!!」
「いやあ……」
ボタンの隙間から手を伸ばして、ミエルの豊満な胸を揉みしだいた。手のひらをつないで、恋人のふりをする。ひどい拷問だった。一瞬の幸せを感じる度に虚しくなって、彼女を抱きしめたくなる。「こういうの、もっと着ろっていっただろ。そりゃ、好きなかっこをすりゃいいけどな」 もったいない、なんて思うのは、イースの勝手な感想だ。言われる側にしてはたまったものではないだろう。
好きな女が可愛らしい服を着て、こちらに尻を振っていると思うと、ひどく胸が痛くなって何度だって抱きしめたい。こんなことを言っても、嫌と強くつっぱねられるだけと思っていたのに、意外なことにもミエルは耳元を真っ赤にしたまま、「う」と、喉の奥から小さな悲鳴を上げていた。「い、いやよ……」 結局、言葉は変わらないのだが。「恥ずかしい、もの……」
ひどく、予想とは違う言葉だった。
「あっ……」
びくりとミエルが震えた。「う、く……」 イースも、唇を噛み締めた。わずかにひっかかった彼女の入り口に、このまま埋めてしまおうかと思った。彼女の膣に、ぴたりとイースのペニスがくっついている。どくどくと聞こえる心臓の音は、彼だけのものではない。少し、進んだ。「あっ、あっ……」 ミエルが足先を伸ばして、彼を受け入れようとしている。本当に少しだ。ぴたりと時を止めていた。
よくぞそこで止まったものだと、自分自身でも驚いた。彼女の中にわずかに埋まった自身のそれを見つめた。壁に手をつけさせていたミエルを反転させて、今度は正面のまま壁に押し付け、片足を持ち上げた。彼女の膣を、こすりつけるように命じる。こちらも腰を動かした。ぐちょぐちょとひどい音が聞こえている。
「着ろよ。なあ、かわいいからさ」
「む、むりよ」
「なんで」
「たくさん、持ってない……」
「じゃあ買ってやるよ。今度」
今度。
任務ではなく、休日に、一緒に出かけて。
言おうとして、口を閉ざした。次の休日は、すでに彼女とイースの魔法は解けている。またすっかりと忌み嫌う仲になっているかもしれない。だから、セックスなんてしなくて正解だ。もう殆ど、しているようなものだが。
言葉の代わりに、キスをした。そうして、言葉を飲み込んだ。イースは、最後まで耐えてみせた。立派なものだった。けれども、ミエルは耐えきれなかった。好きな男に、好き勝手に体を触られ、幾度も危うく膣をいじられる。苦しかった。
その夜のことだ。変わらずミエルのもとを訪ねたイースに、彼女は懇願した。「お願いイース」 震えた声で、彼を誘った。
「お願い、最後まで、して」
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