仲間殺しの英雄

はるわ

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王宮

ヒーローのお兄ちゃんとお姉ちゃんの苦悩(長いです)

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「篝はどこだ!?」


王宮にそんな怒声が響いた。


「陛下、どこにもいらっしゃいません!庭の離れにもっ!」


庭の離れとはそのまま、離宮などではない、小屋のような建物だ。仮にも篝という皇子が住む場所。小屋とは言えず皆離れと称しているのだ。


部下の報告に第一皇子、リフィメアは舌打ちした。


それにおののく兵士達。

確かに篝は戦闘に長けるがそれは彼の能力に依存するところが大きい。
それに比べリフィメアは細身ながら引き締まった体躯から繰り出される剣技、平均をはるかに超える魔力量より放出される多彩な魔法。そして何でもないように篝に渡された治国権でも今日まで治めてきたその頭のキレ。
それらが全て合わさった戦闘時において、リフィメアの隣には誰も並ばないだろう。


篝も、その能力は認めているのだ。学園に逃げるほどに。



「……すぐに探し出せ。それとハクエンだ」

「は、ハクエン様ですかっ!?あの方は所在地が不明で我々にはとても……」

「何言ってる、城内にいるだろう。それとも……お前の後ろだと伝えればいいか?」


兵士がすぐさま振り向いたところに、白を基調とした煌びやかな金刺繍のドレスを纏った美人がいた。

彼女はハクエン。元第一皇女である。


「は、は、ハクエン様ぁっ!?」

「おやおや、私も嫌われたものだね。何、生気を吸い取りはしないよ。少し実験するだけさ」



ハクエンが伸ばした手を触れるより早く兵士は気絶してその場に倒れてしまった。


それにまったく失礼だなんてつぶやいて、白銀の長髪を揺らしてリフィメアを見る。そこには相も変わらずの仏頂面が鎮座していた。苦笑して、ハクエンは問う。



「やあ、ヒメ。一体何があったんだい?キメラの実験がまだ途中なんだが……」

「……その呼び方はやめろ。篝だ。篝を知らないか」




ふうむ、なんてわざとらしく腕組みをしたが、実のところハクエンには篝の居場所は見当がついている……というかわかっている。




昨日のことだった。


愛娘のミクハが興奮して報告してきたのだ。どうやら、『好きな人ができた』らしい。それだけでも驚きだったのだが、まあ思春期にはよくあること。王族と言えど多少のお遊びならいいだろうと、賛同しかけた時だった。


「それでですね、母様、その方のお名前が火走炎様といいますの!」



違和感を感じるハクエンは口に運んでいたスープを止める。


ミクハを凝視し、その自分に似ていない藍色の目からミクハの魔力を感じながら、問うた。


「ミクハ、誰だって?」

「……?火走炎様ですが?」


確信した。ハクエンは火走炎が鏡篝であることを突き止めた。


その名前を口にする時、ミクハの魔力に微かながら篝、そしてリフィメアの魔力を感じ取ったのだ。それが出来るのはおそらくこの世でも数人しかいるまい。



どうしたものか、ハクエンは考え込む。


「母様?いかがされましたか?……まさか、炎様のことお許し頂けないので……」


「いいや違う、大丈夫だ。人の恋路を邪魔する奴はなんとやら、だからね」


「ふふ、母様は東方の言葉に詳しいですよね。ミクハにも教えてください」


「いいよ、この言葉はね……」


楽しげな会話と食器が鳴らす音が食卓に流れる。

だがハクエンは思考を別のところに飛ばしていた。


どうしたものか。叔父を好きになっているなど……。




有り得ない訳では無いが、容易く許されるものでもない。王族なら叔父もありだろうが相手が篝だとまた反発がひどい。そもそも名前を変えているという事は篝だと知らない。ならこのミクハの恋心は偽りということか?



ともかく、リフィメアの魔力もあったのだからあの兄貴が関わっているのだろう。




そう考えて次の日王宮へやってきたハクエンだったが。



「……そうか、ハクエンも知らないとなると……クソ、一体どこ行ったんだ篝……!」


リフィメアも把握していないとは思ってもみなかったな。


「どうして見つからないんだい?兵士を動員すれば瞬く間にわかるだろう。あの見た目だ、情報も探れば……」


「『姿変え』を掛けたんだ」


耳を疑ったハクエン。


『姿変え』?それは……なんとまあ、めんどくさいものを。


「で?」


「この国の一般的な容姿だ。適当にしたから俺も覚えていない」


「……ヒメ、馬鹿だろう」


「俺としたことが……!」


頭を抱えた王を見るなど滅多にないことだなぁと考えてハクエンは現実逃避する。なおさら篝のことを言うべきか迷ってしまった。


「ともかく、私は私で探すからヒメはしばらく王としての職務をこなしていな。『姿変え』をかけたならまだヒメの魔力を辿る方法がある」


「頼む」

「ああ」

懇願を受け取ったハクエンにリフィメアはすんなりと行くことに疑問を持ち、その顔を見た。


「ところで報酬だが今人手が足りなくてね。たった一ヶ月でいいんだ、お宅の兵士を派遣してくれないかい?」


「それが狙いかお前っ!」


「なぁに、たったこれくらいの人数だ」



ハクエンが指で示したのは三。思ったより少ない人数にリフィメアは安堵し、承諾した。


ハクエンがその魔法で契約書を出現させ、それに署名することを促す。


リフィメアは魔力量が確かに多いが、ハクエンには及ばない。西方のこの王国は傾向として体つきがいいが、東方は魔力量が多いらしい。ハクエンの母は東方の良家でしきたりなどもあるらしいが……。


「……ほら、書いたぞ。今回は何するんだ」

「ん?キメラと言っただろう?ちょいと南方の山までバジリスクを捕ってきたくてね」

「バジリスク!?」


一体今日は何度叫んだだろうか。


リフィメアは頭痛を感じながら契約書の文字列を再度見直す。


そこには確かに、『貴殿の兵士を三千人借りる』という旨が書いてあった。
すぐに紙を破り去ろうとするがハクエンの魔法で紙はハクエンの元に戻ってしまう。


「ハクエン!三千人とは法外な取引だろう!」

「ちゃんと読まなかったヒメが悪いのさ。大丈夫、傷一つつけさせやしない。ただまあね、鮮度の関係ですぐに肉塊に変えないといけないんだ。手間がかかるだろう?」


確かに南方の伝説とされるバジリスクはその巨体が山をも越え、一飲みで海の水を飲み干すらしい。そんなものいたらとっくに海が枯れるとは思うが。


そうとは言え三千人など戦争間近の今貸せるわけがない。例え一ヶ月と言えど……。


「なら大サービスだ。次の戦、私含め国立魔術研究所の所長格、全て参加させよう」


「……ならいい」


正直言って研究職の者は強い魔術者が多い。取られすぎて人数制限、魔力制限をつけようかとしていたほどだ。所長格ともなれば充分戦力となる。それにハクエンまで来れば文句ナシだ。


「それじゃあ」

去った白銀を目線で見送る。

椅子に座り直し、リフィメアは眉間をほぐす。
縦ジワができるほど年を取りたくはない。だがそうさせるのだ。昔から、あの大して年の変わらない一番上の妹が。


あの髪をいつから目にしていなかっただろう。



ああそうだ、アレが起きてからだ。


アレさえなければ、あいつはまだ王宮ここにいただろうに。

今のように、遠く離れた森で暮らすこともなかっただろうに。

一人娘とひっそりと隠れて暮らすこともなかっただろうに。




花が咲き誇るような笑顔を、また見れただろうに。






*:†:*:†::†:*:†:*






上機嫌で王宮を後にしたハクエン。だがすぐに翳る。


「……ったく、あの一番下の問題児は何してんのかねぇ?」


その日、帰ってきたミクハにハクエンは学園長に翌朝言うよう言伝を頼んだ。



「ハクエン・ユーレーン様が学園視察をお望みです。本日学園にいらっしゃいます」



それを聞いた学園長は……。




「学園長様!?学園長様!?」



卒倒したとさ。



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