翅(はね)の夢 〜昏(くら)い後宮で、ひとりの貴人と、若き宦官の見る夢は

センリリリ

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最後の変化

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 よもや、と思った。
 それは、自分の願望に過ぎないのではないか、と。
 それでも、訊かずにはいられなかった。

「煕佑?」

 トン、トン。

 蝶は軽やかに、嬉しげに、肩を弾いた。
 ああ。
 呪詛ではない。
 おそらく煕佑もまた、『荘周の夢』の咒を使ったのだ。
 そして肉体は燃えてもなお、魂は綉葩の元へと飛んできてくれたのだ。
 さっきまでとは違う涙が、目に浮かんできた。

『あまり身体から遠くまで……』

『魂が帰れなくなります……』

 いつかの言葉を思い出す。
 そうだ。
 つまりは、自分もこの身体を失くしてしまえば、ずっと蝶でいられるということではないか。
 そうすれば、ずっと煕佑と一緒にいられる……。
 それ以上、あまり深くは考えられなかった。
 さっき蝋燭に火を点けた燭台を、寝台の下に置く。
 それから、燃やすつもりだった紙片を寝台の中央に広げると、針で指先を刺した。
 ぷくり、と血の玉が指の腹に浮かぶ。
 それを下に向け、紙へと落とした。
 布の燃える匂いが下から立ち昇り始めた。
 しばらくすると、寝台は熱さに包まれる。
 しかしそれが苦痛になるよりも早く、綉葩の魂は、蝶へと変化した。
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