40 / 109
第一章
40.驚き
しおりを挟む職員室へ行き、午前中はディアとともに勉強していたが、ディアがいるからか、生徒は誰も来る事がなく、昼食の時間となった。
午後からは、訓練場で精霊達に癒力について教えてもらうため、今日は訓練場で昼食をとる事になったのだが、結界がある安心感からか、僕達の昼食風景を見る人達が、結界の外には集まっている。
「……食べづらい」
すごい見られてる。
みんな、ご飯は食べ終わったのかな? 僕じゃなくて、ディオとディアを見てるのかもしれないけど、それでも落ち着かない。
「ユユに会えてないから、癒されに来てるんだよ」
「それに、久しぶりに来たしな……にしても、本当に多くね? 特級以外も全員来てんじゃねーの?」
うん、僕もそう思う。
だから落ち着かないんだよ。
それに、静かすぎて怖い。
癒されてるならいいけど、こんなに集まるとは思わなかった。
「本当に、僕が目当てなの? ディオとディアに会いたいとかじゃ───」
「ありえないよ。俺は視線を感じないし、ユユを隠したくて仕方ないからね」
「俺も視線は感じねーな。それに、この間の俺達が城でやった事は、闇ノ国全体に広まってるし、俺達目当てはありえねーかな」
そうなの? ディオとディアは憧れの対象にはならないのかな? 僕だったら憧れる。
「それに、ユユが俺達のそばにいることで、俺達がおとなしいって分かった奴が多いからね。ユユは、そういう意味でもありがたい存在らしいよ」
ありがたいの? ディオとディアって、そんなに暴れ放題だったのかな。
なんか、そこまでくると想像つかない。
「そうそう。別に何もしねーのにさ、ビクビクされると尚更嫌がらせしたくなんのに。まあ、今はユユがいるから、周りなんてどうでもいいけど」
ディアは……本当に、なんでここまで避けられてるんだろう。
んー、分からない。
会った人達全員に、嫌がらせするわけではないんでしょ?
僕はご飯を食べながら二人の話を聞き、話の方に集中すると、視線も気にならなくなったため、なんとかご飯を食べきる事ができた。
その後、訓練の授業に入り、僕は精霊達を呼んで、癒力について教えてもらうつもりだったが、精霊達には少し待っててほしいと言われてしまった。
「んー……嫌な予感がする」
「俺も……とんでもねー奴連れてきたりして」
連れてくる? 誰か連れてくるの? でも、そんな事は言ってなかったと思うけど。
そうして少しの間待っていると、いくつもの光が戻ってきて、その中にはスイよりも大きな光がいた。
そして、その光を見た瞬間、ディオとディアだけでなく、全員が地面に片膝をついた。
ぼ、僕も膝を───
「ワンッ」
「ひッ……ギ、ギン? なんで怒ってるの」
僕は訳が分からず、もう一度ディオとディアの真似をして膝をつこうとしたが、二人はすぐに立ち上がり、微笑みながら僕の頭を撫でてくる。
そして、大きな光は僕の目の前で大きな光を放ち、その場の空気がいっきに変わった。
「ユユ……初めまして、ユユ。我は精霊王であり、原初の銀狼だ」
銀狼と言えばフェンリルだが、僕の目の前にいるのは、巨大な白銀の狼であり、想像以上の大きさに驚きすぎてしまった僕は、無意識に獣化して小さくなり、ディオとディアの靴を噛んで引っ張った。
ディオ、ディア、逃げないと! こ、こんなの勝てない。
怖くないけど、結界が壊れちゃってる。
この塔と同じくらいの大きさなんて、踏み潰されちゃう。
「ユユ、落ち着いて。驚いちゃったんだろうけど、大丈夫だよ」
「狼獣人の俺達が今生きてんのは、この精霊王がいたからだって分かれば怖くねーんじゃね?」
二人は怖くないの? 僕も怖くはないけど、なんか逃げたくなる。
大きすぎるよ。
僕なんて、こんなにちっちゃいのに。
僕は自分の前足を見てから、精霊王の前足を見てみるが、僕の体が精霊王の前足よりも小さい事に、毛が逆立ってしまう。
「ユユは可愛いな。どれ……獣人にでもなってみるか」
そう言った精霊王は、再び光を放ちながら姿を変えていき、ディオとディアに似た顔立ちに、紫色の瞳を持つ獣人の姿になった。
「結界も戻しておこう。壊してしまってすまない」
「いえ、精霊王の姿を見る事ができ、皆嬉しく思っています」
……ディオって、敬語使えたんだ。
「闇ノ国の王族として、感謝します。ようこそ、我が国へ。闇ノ国は精霊王を歓迎いたします」
ディア!? えっ、これって本当にディアの言葉なの?
「くふふッ、ユユが驚いている。ディオ、ディア……で、合っているか? ユユの婚約者であり、ユユを裏切らないのであれば、我にも普通に接してくれ」
僕が口を開けていたからか、精霊王に気づかれてしまい、ディオとディアにも笑われてしまった。
「じゃあ、遠慮なく。ユユ、もしかして俺達が敬語も使えない奴だと思ってた?」
「俺達だって、精霊王が相手ならちゃんとする。まあ、精霊王が相手ならだけど」
僕は、ニヤニヤしているディオに抱えられると、ディアが僕に服を被せてきて、精霊王が僕の鼻に手を近づけてくる。
そして、そのまま精霊王に頭を優しく撫でられると、一瞬だけ懐かしい匂いに包まれたような気がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,004
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる