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第一章

40.驚き

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 職員室へ行き、午前中はディアとともに勉強していたが、ディアがいるからか、生徒は誰も来る事がなく、昼食の時間となった。
 午後からは、訓練場で精霊達に癒力について教えてもらうため、今日は訓練場で昼食をとる事になったのだが、結界がある安心感からか、僕達の昼食風景を見る人達が、結界の外には集まっている。


「……食べづらい」


 すごい見られてる。
 みんな、ご飯は食べ終わったのかな? 僕じゃなくて、ディオとディアを見てるのかもしれないけど、それでも落ち着かない。


「ユユに会えてないから、癒されに来てるんだよ」


「それに、久しぶりに来たしな……にしても、本当に多くね? 特級以外も全員来てんじゃねーの?」


 うん、僕もそう思う。
 だから落ち着かないんだよ。
 それに、静かすぎて怖い。
 癒されてるならいいけど、こんなに集まるとは思わなかった。


「本当に、僕が目当てなの? ディオとディアに会いたいとかじゃ───」


「ありえないよ。俺は視線を感じないし、ユユを隠したくて仕方ないからね」


「俺も視線は感じねーな。それに、この間の俺達が城でやった事は、闇ノ国全体に広まってるし、俺達目当てはありえねーかな」


 そうなの? ディオとディアは憧れの対象にはならないのかな? 僕だったら憧れる。


「それに、ユユが俺達のそばにいることで、俺達がおとなしいって分かった奴が多いからね。ユユは、そういう意味でもありがたい存在らしいよ」


 ありがたいの? ディオとディアって、そんなに暴れ放題だったのかな。
 なんか、そこまでくると想像つかない。


「そうそう。別に何もしねーのにさ、ビクビクされると尚更嫌がらせしたくなんのに。まあ、今はユユがいるから、周りなんてどうでもいいけど」


 ディアは……本当に、なんでここまで避けられてるんだろう。
 んー、分からない。
 会った人達全員に、嫌がらせするわけではないんでしょ?


 僕はご飯を食べながら二人の話を聞き、話の方に集中すると、視線も気にならなくなったため、なんとかご飯を食べきる事ができた。
 その後、訓練の授業に入り、僕は精霊達を呼んで、癒力について教えてもらうつもりだったが、精霊達には少し待っててほしいと言われてしまった。


「んー……嫌な予感がする」


「俺も……とんでもねー奴連れてきたりして」


 連れてくる? 誰か連れてくるの? でも、そんな事は言ってなかったと思うけど。


 そうして少しの間待っていると、いくつもの光が戻ってきて、その中にはスイよりも大きな光がいた。
 そして、その光を見た瞬間、ディオとディアだけでなく、全員が地面に片膝をついた。


 ぼ、僕も膝を───


「ワンッ」


「ひッ……ギ、ギン? なんで怒ってるの」


 僕は訳が分からず、もう一度ディオとディアの真似をして膝をつこうとしたが、二人はすぐに立ち上がり、微笑みながら僕の頭を撫でてくる。
 そして、大きな光は僕の目の前で大きな光を放ち、その場の空気がいっきに変わった。


「ユユ……初めまして、ユユ。我は精霊王であり、原初の銀狼だ」


 銀狼と言えばフェンリルだが、僕の目の前にいるのは、巨大な白銀の狼であり、想像以上の大きさに驚きすぎてしまった僕は、無意識に獣化して小さくなり、ディオとディアの靴を噛んで引っ張った。


 ディオ、ディア、逃げないと! こ、こんなの勝てない。
 怖くないけど、結界が壊れちゃってる。
 この塔と同じくらいの大きさなんて、踏み潰されちゃう。


「ユユ、落ち着いて。驚いちゃったんだろうけど、大丈夫だよ」


「狼獣人の俺達が今生きてんのは、この精霊王がいたからだって分かれば怖くねーんじゃね?」


 二人は怖くないの? 僕も怖くはないけど、なんか逃げたくなる。
 大きすぎるよ。
 僕なんて、こんなにちっちゃいのに。


 僕は自分の前足を見てから、精霊王の前足を見てみるが、僕の体が精霊王の前足よりも小さい事に、毛が逆立ってしまう。


「ユユは可愛いな。どれ……獣人にでもなってみるか」


 そう言った精霊王は、再び光を放ちながら姿を変えていき、ディオとディアに似た顔立ちに、紫色の瞳を持つ獣人の姿になった。


「結界も戻しておこう。壊してしまってすまない」


「いえ、精霊王の姿を見る事ができ、皆嬉しく思っています」


 ……ディオって、敬語使えたんだ。


「闇ノ国の王族として、感謝します。ようこそ、我が国へ。闇ノ国は精霊王を歓迎いたします」


 ディア!? えっ、これって本当にディアの言葉なの? 


「くふふッ、ユユが驚いている。ディオ、ディア……で、合っているか? ユユの婚約者であり、ユユを裏切らないのであれば、我にも普通に接してくれ」


 僕が口を開けていたからか、精霊王に気づかれてしまい、ディオとディアにも笑われてしまった。


「じゃあ、遠慮なく。ユユ、もしかして俺達が敬語も使えない奴だと思ってた?」


「俺達だって、精霊王が相手ならちゃんとする。まあ、精霊王が相手ならだけど」


 僕は、ニヤニヤしているディオに抱えられると、ディアが僕に服を被せてきて、精霊王が僕の鼻に手を近づけてくる。
 そして、そのまま精霊王に頭を優しく撫でられると、一瞬だけ懐かしい匂いに包まれたような気がした。




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