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第一章
66.魔族
しおりを挟む魔族達は、雰囲気が神官にも少し似ていて、一度跪いた後は、僕に近寄ってきて僕の頭を撫でたり、頬をつついてきたりする。
「普通なら、俺達なんかよりも知ってる事はあるはずなのに、この人達は本当に何も知らないんだよね。ただ、闇ノ国の者達一人一人の、闇化の進み具合は把握してくれてるから、いっきに振り切れない限りは、死を迎える前にこっちが対処できるんだよ」
「まあでも、魔族は名前もねーし、闇化についてはうるせーし、ユユ以外の癒し子には無反応。こうして魔物達と暮らして、世話だってしてるくせに、外で魔物がどうしようと関係ないみてーな」
なんか不思議だけど、そんな魔族が闇ノ国にいるって心強いね。
でも、なんで名前が───あ、そうか。
みんな共有してて、同じ個体みたいな感じなんだっけ。
「闇ノ国と魔族の関係は、風ノ国と精霊の関係と似たような感じなの?」
「まあ、似てはいるかもね。ただ、精霊はあくまでエルフに協力的なだけで、風ノ国は関係ないし、エルフの言動や精霊達の気分によっては、急に協力しなくなったりもする」
「魔族の方は気分屋でもねーし、闇化とユユに対してだけだから、そのへんは精霊より面倒ではねーな。ただ、ユユが浄化を始めてから、魔族達は敏感になってる。だから、俺達は五大臣からユユを離そうとしたってわけ。下手したら、ユユを閉じ込めようとしそうだしさ」
僕達が魔族について話していても、魔族達は僕を触って満足したのか、感想を言い合って楽しそうにしている。
ディディは、そんな魔族達を見て、ため息を吐いた後に陛下に視線を送る。
「五大臣も含め、魔族は意思疎通ができているようで、なかなか難しいものでな……ただ、ディアとディオに対しては、昔から懐いていた。二人は五大臣をジジィなんて呼んでいるが、私からしてみれば言葉の通じない子どものようなものだ。だが、神話やユユの話をすると、驚くほどしっかり会話になる。それと、ディアとディオもそれなりに会話になっているか」
この、なんとも言えない不思議な状況が、魔族にとって普通って事なのかな? 今も僕達の話は聞こえてるんだよね? なんだろう……精霊とか魔物よりも、動物みたいな感じがする。
僕のそばにいる動物達は、みんなこんな感じだよね。
「……名前はつけないの?」
「五大臣と呼べば、五大臣だけが反応する。それに、私はあまり会話にならないからな……特に必要だとは思わなかった。ユユがつけたいなら、自由に名づけしたらいいんじゃないか?」
「五大臣ってのも、貴族達を黙らせる為に陛下が呼び始めただけだしね」
「そういえば……俺とディオがジジィって呼べば、会話になんだよな」
じゃあ、名前をつけると、魔族って大きな枠じゃなくて、個人になったりする? んー……そしたら、あの五大臣のうちの一人にしよう。
巻きヅノに、布で顔を覆ってるあの人!
「ダリ!」
僕はいつものように、あまり何も考えずに名前を呼ぶと、やはり自分のことだと思ったのか、僕が呼んだ人物が反応し、こちらにやってくる。
「どうしました、癒し子様」
「ダリって呼んだの、なんで自分だと思ったの?」
「癒し子様はおかしな事を言いますね。自分は呼ばれただけです。癒し子様に呼ばれ、それに反応した」
やっぱりよく分からない。
スイとハクは違うけど、ギンとアスルは僕が何も考えないで勝手に呼んだだけなのに、反応してくれてた。
僕、なんでダリって呼んだんだろう。
そんな気がしただけなんだけど、思い出せない……あれ、思い出せないってなんだろう。
僕は最初から名前を知ってた?
「ダリ、教えて。僕はナニ?」
「癒し子様……いえ、ユユ様は月の願いから生み出された、可愛い可愛い神々の希望です」
まさか、本当に答えが返ってくるとは思ってなかった僕は、そこで固まってしまい、ディディに頭を撫でられる。
そして、ディディは僕の代わりにダリに話しかけた。
「ダリ、全てを話す気はある?」
「ないですね。私の知識、魔族の存在、それらを全て話す事は月に禁じられました。世の中には、知らなくていい事もあります。私が全てを話す事で、信仰を失う神もいるでしょう。私達魔族は、世界のバランスを崩す。これは、下界に干渉しないようにしている神々や、消えた月を裏切る行為です」
「なるほどな。だから、魔族とはまともな会話にならねーって事か。そんで、名前がきっかけになってる」
「ええ、そうです。なのでユユ様、名を呼ぶなら私だけにしてほしい。他の者も、それぞれ特徴がありますが、それらは下界にとって影響が強すぎます。そして私も含めて、魔族にとってのユユ様は愛しい存在。そんなユユ様を傷つけた事を、私達は許せない。自分も、闇ノ国の貴族も、光ノ国も、全部が許せない。壊したいと思うほどに……なのでどうか、名を呼んで暴走させないでほしいのです」
その瞬間、ダリの言葉に反応するように、魔族全員がこちらを見てくる。
怒りに満ちたような瞳でありながら、会話は楽しそうにしているところを見ると、少し不気味に思えてしまうが、これで分かったのは、彼らの外側と内側は違うものであり、名前がなければ本来の彼らが出てくる事はないのだという事だった。
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