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第一章

70.まずい事

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 家の中へ入ると、床はまだ草だらけで、ディアに抱えられていた僕は、地面に下ろされる。


「ユユ、気づかなくてごめんね。何種類か床を用意するから、ユユが走り回っても大丈夫そうな物を選んで」


「その間に、俺は家の外を整えておく。ギンとアスルとスイにも手伝ってもらうから、ユユの方から他の魔物達に、ハクの面倒を見ておくよう言ってもらえると助かる」


 そう言って、ディアは一度外へ行ってしまったため、寂しくなって「クゥクゥ」と声がもれてしまう。
 それでも窓の方へ行って、ディアに言われた通り、魔物達にハクのことを頼もうと元に戻ろうした。
 だがその時、突然足元が高くなり、後ろを振り向くと階段のようになっていて、僕が獣化したまま顔を出せるよう、ディオが魔法で作ってくれたのだ。


「ディオ、ありがとう!」


「自由に魔法を使えるのは楽しいし、ユユのあんな声を聞いちゃったらね……今だけでも、ディアの姿が見えた方が安心でしょ?」


 うん、嬉しい! 安心する! ディオ、大好き!


 僕は魔物達にハクのことをお願いした後、ディオの足にしがみつくように、後ろ足でピョンピョンと跳ねた。


「うぅ……ユユが可愛い。分かってる。分かってるよ。俺のこと大好きなんだね。うん、知ってる。知ってるけどね……可愛すぎて進まないから、あんまり俺を誘惑しないで」


 ディオは僕を抱きしめ、首元で深呼吸をすると、僕の頭を撫でて立ち上がった。
 それからは、ディディはいろいろな種類の床を作ってくれ、僕が気に入った物を選ぶと、そこから更に、ふかふか具合や質感の微調整をしてくれた。


 床が決まれば、あとは家具を作り出していくため、僕は邪魔にならないよう、ディディの様子を交互に見れる窓の階段で、外も中もできあがっていく様子を見ていた。


 早く呼ばれないかな。
 僕も何かしたい。
 手伝える事ないかな。


「ユユ! ちょっとこっちに来てくれる? 浄化して、精霊の森に繋がるゲート作ってほしいんだよ」


「ッやる! やっと呼んでくれた! 僕も役に立てる!」


 元の姿に戻った僕は、尻尾を振りながらディアの元へ走りだした。


「ディアー!」


「うっ……可愛い。どんどん可愛くなっていくじゃん」


 ディアに抱きついて、とりあえず顔を擦りつけた僕は、ディアに引き離されるまでくっついていようとしたが、後ろからギンに引っ張られてしまい、アスルとスイも僕の肩に乗ってきてしまった。


「ピチチ」


「うぅ……分かってる。でも、ディアいなくて寂しかったんだもん」


 ディア好き! 僕のこと呼んでくれたの嬉しい!


「あー……もう駄目。今すぐ襲いてー。すげー甘えてくんじゃん」


「ッ! ご、ごめんなさい。今は邪魔しちゃ駄目なのに」


「んー……まあ、早く終わらせてーのは、俺とディオの都合だし。なんなら、毎日毎日ユユを抱いて可愛がりたい。だからさ、ユユ……可愛いことばっかしてくれて、ありがとう。全部終わったら、暫くは自由になれねーから」


 ん?……なんかまずい? もしかして、ギン達が僕を止めてるのって───


 僕は一番知っていそうなギンを、恐る恐る見てみると、ギンは僕から目を逸らし、更に僕の服を引っ張った。


 あ……駄目だ。
 これはまずいんだ……ぼ、僕の体、大丈夫かな。


「こっちは終わったよ。あとはユユの好きそうな新しい寝具を買いに行けば……あぁ、やっとだよ。やっとユユを可愛がってあげられるね」


「ヒッ……でぃ、でぃお」


「なにしたの? ユユも嬉しいよね? 俺達に構ってほしいんだもんね」


「今も、可愛く甘えてくれたんだよ。ユユだって寂しかったんだもんな」


 な、なんで気づかなかったんだろう。
 これはまずいよ。
 甘えたかったし、寂しかったけど……僕、大丈夫かな。


「「ほら、ユユ……早く浄化して、買い物に───あ」」


 ディディの圧が強すぎて、耐えられなくなった僕は、獣化して水に飛び込んだ。
 よく見ていなかった僕は、飛び込んだ水が下に繋がる滝になっているとは思わず、そのまま下に流されてしまい、ふわふわの毛に落ちた。


「ロウ!」


「ユユ……まさか、落ちながら浄化をし、こちらに繋ぐとは思わなかったぞ。ここまで我が助けにこなければ、死んでいた」


「ご、ごめんなさい」


 でも、浄化なんてしてない。
 僕は飛び込んだだけで、浄化なんて───


「「ユユ!」」


「ッ……ディディ」


 僕はディディに抱きしめられた安心感から、自分が悪いにも関わらず涙が出てしまい、謝る事しかできなかった。


「ユユが水遊びをしても大丈夫なように、結界は島の下まであったんだよ。なのに、ユユがいなかったから心配した」


「魔族の地に行くまでの、透明な結界と同じな。俺達のは闇だけど、ユユが結界内にいねーのはすぐに分かったから焦った」


 そ、そうだったんだ。じゃあ、僕が勝手に浄化して精霊の森に繋げちゃったから、危なかったんだ。


「魔族の地……そうか、魔族の地へ行けば……しかし、あそこは精霊にとって……やはり我らも移り住むしか」


 なにやらブツブツと呟いているロウは、姿勢を低くして僕達が降りやすいようにしてくれた。
 そして地面に降りた僕達を、ロウは何かを確かめるようにジッと見つめてきたのだ。



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