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第一章 出会い

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「母さん今日連れてきてくれてありがとう。楽しかったし、いい勉強になった」


「凛が楽しかったなら良かったわ。楽しいだけじゃダメな時もあるけど、あの時の事はバレーとはもう関係なかったものね」


 でも良かった。また楽しくバレーができて。


 家に着くと陣の声が聞こえてきて、友達でも連れてきたのかと思い、リビングには寄らずにお風呂場へと向かった。


 んー、気持ち悪い。汗かくのって嫌いじゃないけど、家に帰ると途端に気持ち悪くなるんだよなあ。


 俺は湯船に浸かると、思ってた以上に疲れていたらしく、そのまま眠りそうになると、いきなり風呂場の扉が開いて目が覚めた。


「りーん……寝るなら自分の部屋で寝ろ!! まあ、それより先に、凛と話したいって人がいるから、早くあがってリビングにおいで」


「う……うん。分かった」


 俺と話したいなんて人居るのか。陣の双子に会ってみたいってだけのような気がするけど……似てなくてガッカリされるんじゃないか??


 あまり気がのらないが、お風呂からあがって濡れた髪のままリビングへと向かった。


「ちょっと凛!! なんで髪の毛乾かさないんだよ!!」


「いや、だって急いだ方が良いのかなって……って!! え、どうしてここに!?」 


「なんかこの人達、凛に謝りたい事があるらしいよ。早く帰らせようとしたんだけど、話聞く限り凛も知っておいた方がいいだろうし、凛の帰り待ってたんだけど、そのままお風呂に行くし……まあ知ってたけどさ。だからって風呂場で寝るな」


 俺の家に居たのは、まさかの愁さんと、あと二人のオディンズファルコンのメンバーだった。


「凛くん、ほんまにすまん!!」


「それじゃ分からないでしょう!!」


 確か関西弁の人が、日本生まれ日本育ちのイタリア人……いや、国籍的に日本人か。名前がヴァルシア ゼンだった気がする。最近プロ契約したって母さんが言ってたな。もう一人は愁さんの弟で駿さん……だったよな??


「凛くん、このアホが俺との対人を動画撮っててさ……それだけなら良かったんだけど、君の高校に居る弟に送ったらしいんだ。本当にごめん」


「今日凛がいないのは、動画を見ればわかるだろうに……その人の弟がうちのクラスに、バレー部数人引き連れて来たんだよ。凛を勧誘したかったらしいけど、今回は俺から断っておいた。でもやるかどうかは凛次第だろ? そこは凛が決めればいい。それより凛はまた上手くなったな!! いつの間にあんなに上手くなってたんだ??」


 陣は嬉しそうに俺を褒めてくれるが、今はそれどころではない。


「陣……今その話はいいだろ。それよりバレー部って、やっぱり合併したからだよな? 風狼はもう強いだろ……俺なんか居たところで……」


 役に立たない。そう言おうとした。なのに、その言葉を言う前に愁さんに止められてしまった。


「あそこは確かに強い。でも春高には行けてないんだ。なんでか分かる??」


 風狼のプレーを見た事がなかった俺には答えられなかった。


「ゼルんとこはなあ……スパイク、ブロック、サーブこの三つはええんやけど、拾えんのや。あいつらんとこのセッターは、まともに返ってこんレシーブを、スパイカーまであげてるんや。試合の組み立てをするセッターが、殆ど相手の動きを見れへん状況なんやと」


「そのセッターとゼンの弟、それともう一人エースの子が三年生で、春高を狙えるのが今年最後になるんだ。風狼は強いけど春高には行けてないし、男子校だからね……人数が居ないんだよ。そこで、セッターの子が凛くんの動画を見て欲しがったらしいよ」


 ゼンさんと愁さんに勧誘の理由を説明されたけど、それでも俺は部活動というのがいまだに怖い。また怪我をしたら?次は怪我だけじゃ済まないかもしれない。もしかしたらバレーを出来なくなるかもしれない。他の人達の体格差はどうしたって埋まらないんだ。


「僕達さっき、凛くんが居ない間に佐良さんと、陣くんから詳しい事情を聞いたんだ。試合中に足を踏んだり、体格差のある凛くんがレシーブする時を狙って、わざとぶつかりに行ったり……確かにわざとじゃなければよくある事だよ。でもそれは声を出して指示してた凛くんなら、そんな事は頻繁におきない。試合中に脳震盪になる程の強さでぶつかるなんて、バレーで聞いたことないよ。プロ選手のスパイクを頭に直撃なら、あるかもしれないけどさ」


「俺達から言える事は、強くなればなる程、正々堂々と楽しい試合が出来るって事だけだよ。それにそういところでなら、凛くんの才能を生かせる筈だ。あとは凛くん次第だよ。まあ、俺としては学校に行かないでうちのチームにきて欲しいけどね」


「ちゅーか、そんなんゼルのチームにおったら、俺がシバいたるわ。それにうちで凛くん欲しいし、高校で活躍してもらわんと」


 うちでって……プロって事!? いや、普通のVリーグ選手か。俺がプロなんてなれるわけないし……


「凛ならなれると思うぞ。そしたら俺もバスケのプロ目指すかな。なぁ凛、楽しそうだと思わないか??」


 楽しそう……確かに楽しそうだけど、俺がやってもいいのかな。


「あんた達……少しは凛に考える時間をあげてちょうだい。凛はまず明日学校に行くかどうするかよ」


 確かに、学校に行かないと何も始まらないよな。


「げッ!! それは……ほら明日じゃなくてもさあ」


「駿、残念だったね。そもそも学生は勉強が仕事なんだから」


「ほな、さっさと帰んで~……凛くんまたな」


 そう言って、騒がしかった三人は帰って行った。


「陣、明日一緒に居てくれる??」


「可愛い弟の為だ!! 当たり前じゃん」


 弟って……双子だからあんまり変わんないんだけど……でもありがとう。


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