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第二章 新しい生活
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しおりを挟むそしてお盆当日、俺達三人と母さんで、新幹線に乗って大阪へと向かった。
「三人は一泊するのよね?? 実家に泊まるの??」
「まさか!! 実家に居ったら、凛くんとられるん目に見えとるし、ホテルとりましたよ」
「あの家じゃあ、凛も落ち着かんだろうしなあ」
「それなら良かったわ。また脱走されても困るもの」
どんな家なのか凄い気になるけど……俺が脱走したくなるほどってどんな家だよ。ただでさえ緊張で、ずっとゼンかゼルにくっついてるのに、想像したくない。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか今日持ってきた、イヌのぬいぐみに抱きながら寝ていて、大阪に着くとゼンに起こされた。
「凛くん、歩ける?? おぶってったろか??」
「……歩く」
「ゼン、ぜル……凛が歩くって言うなら、絶対に手を離さないでちょうだい。ここまで来て迷子は困るわ」
「ほんなら俺が荷物持って後ろから見とるわ。兄貴は凛の手でも繋いでやり」
俺はぬいぐるみを持っていない方の手を、ゼンに掴まれて恋人繋ぎをされ、力を入れても抜けそうにはなかった。
「これなら離れんやろ」
なんか……俺ぬいぐるみ持って手を繋がれるって、子供みたい。でもどっちも離せないしなあ。仕方ないか。
そんな事をしているうちに、母さんは既にどこかに行ってしまっていて、駅を出ても居ない事から、もうゼン達の家に向かっているのだと思った。
「佐良さん、足速ない!? いつの間にかどっか行ってもうたけど!!」
「多分もう先に行ってるんだと思う。母さんは歩きだすと、俺と陣が見えてない……というか、ひたすら真っ直ぐしか見ないから、ついて行けなかったら俺達は、迷子になってたんだ。だからよく走ってた」
「うわぁ……佐良さんらしいけど、凛くん達の方向音痴ってそのせいなんじゃ……ちゅーか、足速いんもそのせいか」
俺は自分が遅いと思うんだけど……ゼンとゼルが言うように、ちゃんと足速いのかな?? 今度タイム測ってみようかな。
俺はゼンに引っ張られるようにして歩いて行くと、だんだん周りの歩いてる人が減っていく。
「凛くん、あそこや。俺等の実家」
そう言ってゼンが指を差した方を見ると、日本なのか疑いたくなるほどの豪邸だった。
「……俺、帰る」
「いやいやいやいや!! アカンって!! 迷子になってまうやろ!! 凛くん行くなら俺がついてった……イタッ!!」
「何自分も逃げようとしとんのや!!」
「いや、お前も逃げたいやろ?? 今日は親父も居んねんで!?」
「……ホテル行こか」
二人とも中に入りたがらず、俺と一緒にホテルに向かおうとするが、豪邸の門が開いてしまい、中から大きなかっこいい犬が2匹出てきた。
「うわ……はよ来いっちゅう事やんか」
「カイ、レイ!! ステイ!!」
ゼンが待てと言うと、2匹はそこで止まってお座りする。
「うわ、可愛い。お利口だ……触ってもいい??」
「ええけど、凛くんは潰されそうやな」
俺は2匹のところへ行って、しゃがんで手の匂いを嗅がせた後に、優しく撫でるとベロンと顔を舐められる。
「うわっぷ」
「凛くん、そろそろ行こうかあ」
「せやな、どうせ行かなアカンしな。カイ、レイ、お前等はハウス」
俺はゼンに担がれ、ゼルにハウスと言われた2匹は、ブンブン振っていた尻尾をシュンとさせ、とぼとぼ歩きだした。
「可愛い」
「……凛くんには、ぬいぐるみがあるやんか」
「凛は俺等より犬が好きなん?」
「えっ!! いや、二人が一番好きだ。犬は好きだけど、飼った事なかったから……」
俺のその言葉に、二人は何を思ったのか、2匹をまた呼んでくれて、担がれた状態で、ぶら下がってる俺の手に擦り寄ってきた。
そして強制的に中へ入ると、母さんがゼン達のご両親と楽しそうに話していた。
「あら、やっと来たのね。凛に犬作戦は成功したみたいね」
「ゼンとゼルは、妬いたのかしら?? 仕方なく入ってきたんでしょうけど」
「それよりいいのかい?? その子……凛にとってその持ち方は苦しくないのか??」
俺が下されると、2匹が俺に擦り寄って来て、俺の足元に伏せをする。それを可愛いと思いながらも、挨拶の為に後ろを振り向く。そこには美男美女の、キラキラした人達と母さんが居て、俺と目が合った途端、二人とも心臓を押さえて下を向く。
「え……ゼン、ゼル、ご両親体調悪いんじゃ」
「大丈夫やで。気にせんでええよ」
「放っといたらええねん」
そ、それでいいのか?? 母さんも二人を見て、普通の顔で紅茶を飲んでいた。
「あの、初めまして。佐良凛といいます。いつもゼンとゼルにはお世話になってます」
「可愛いわぁ。何この癒し生物。うちの息子達には勿体ないくらいよ!!」
「写真で見ると美人だけど、こうして直接見ると可愛いな。ぬいぐるみも似合ってるじゃないか。この姿でフィギュアでも作ってみるのはどうだ??」
「ナニ妄想しとったんか知らんけど、凛くんで妄想すんなら、相手は俺等にしてや」
「ちゅーか、凛で妄想するんもやめてほしいけどな。そんでフィギュアはやめい」
あ……察し。忘れてた……あれはオタクの発作みたいなものか。
「これは……うちの宣伝で、三人には雑誌にでも出て欲しいわ。涼子、お願いよ」
「今は駄目よ。モデルにでもする気?? せめてゼルと凛がファルコンに所属してからよ」
「そうだよ、ジュリさん。一回落ち着かないと、涼子さんにまた怒られるよ。それに凛の事も考えてあげないと……僕もコスプレさせて写真撮りたいのに……そうだ!! 三人でコスプレ……」
『却下や!!』
「こうなるから嫌やったんよ。雑誌なんか絶対に出んからな」
「そんなに写真撮りたいんやったら、写真家にでもなれや」
ご両親とも写真好きの親バカ……ゼンとゼルはブーメランだって分かってるのかな。俺の写真撮りまくったりするのって、絶対遺伝じゃんか。
『じゃあ凛だけでも!!』
『却下!!』
母さんは紅茶を飲みながら、雑誌に目を通していて、もはやこの家族のやりとりはスルー状態だ。俺も、なんだか気が抜けてしまい、しゃがんで2匹の犬と戯れる。
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