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第六章 加速する愛
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しおりを挟む大学の大会初日、俺達は会場となる東京に来ていて、注目の的になっていた。
「本当に……あんた達、目立ちすぎるわね。ジュリの印の効果なんて全然じゃないの」
「まあ、しゃーないよな。凛くんは、こんなにかわええんやから」
「凛が綺麗で可愛いんは、オカンの印でも隠せんっちゅう事やな。まあ、今に始まった事やないしな」
「俺も、家じゃないと凛は隠せない」
「まさか、本当に俺が実体化しても、気づかれないとは思わなかった。俺の存在がほぼ消えてると言っても、まだ一ヶ月は完全に消えないのに……みんな凛くんに釘付けじゃん」
俺は恥ずかしすぎて、今はゼンの胸に顔を押し付けている。というのも、ゼンとゼルが俺に着せてきた、この服のせいなのだ。今着ている服は、和装の俺の服に戻っているのだが、今日着ているものには、何故かフードに猫耳と、帯にはフサフサの尻尾がついていた。
「なんでこの服……俺の魂と一緒なの……」
「親父がどうしても着てほしい言うて、持ってきたんやけど、やっぱ耳と尻尾あるとかわええやんか。それに、周りがこれに慣れてくれるんやったら、凛くんが耳と尻尾出してもうた時にも誰も驚かんやろ??」
「何より可愛いやんか。ヒトに凛の魂を見せるんは嫌やけど、可愛い番は自慢して、自慢したうえで閉じ込めるんや。俺等だけが凛を好きに出来る事を自慢したい!!」
本当に……よく分かんない。自慢したいのに閉じ込めたいの?? なんか矛盾してるんだけど、結局は俺を好きにできるのが、ゼンとゼルだけだって言いたいんだろうな。俺は別にいいんだけど、そんな事しなくたってみんな知ってると思う。
「凛、よく分からない?? なんかそんな表情してる。でも、俺は兄さん達が言ってる事は共感できるなあ。俺も、凛のそばに居る事を許されてて、俺と愁さんだけは凛を自分の宝物にできるんだって自慢したいもん」
「俺もそうかな。凛くんのそばに居れるって、本当に特別だからね。前までなら、ゼンとゼルの行動が理解できない所もあったけど、今は理解できるし、ゼンとゼルの行動も全くおかしいとは思わない」
なんとなく分かってたけど、愁は完全に仲間入りしたよね。洸は最初からゼンとゼルに似てたけど……愁がこんなに綺麗に俺達に溶け込むとは思わなかったなあ。
俺達は、特別に関係者席から観戦しているが、試合内容がイマイチだと感じたのか、こんな風に喋り出してしまった。多分、みんな一応見てはいるし、俺もちゃんと見てはいる。
「もう……試合中なんだから静かに。俺の事はいいから」
「凛くんが怒る前にやめよか。この試合もそろそろ終わりそうやし」
「せやな……凛は怒らせたないし」
まあ、喋り出したのは母さんなんだけどさ。母さんはどんな人を求めてるんだろう。普通に考えたら、欲しい人材は伸び代ありそうな人だよな。
そんな事を考えているうちに、試合が終わってしまい、次はご飯を食べながら、見る予定だった。
「おっ、次は向井の大学やんか!! 凛は楽しみなんやない?? あいつ試合出る言うとったで」
「え、本当!? それは楽しみ。正直、向井さんうちに欲しいもん」
「俺も、あの子ならファルコンのセッターいけると思うな。耀はまだまだだし、もう一人くらいセッター欲しいところだよ」
「愁がそんな風に言うんは珍しいな。凛くんも向井の事、最初から気に入っとったようやったし」
俺はずっと、向井さんはレベルの高いセッターだと思っていた。俺が向井さんを推すのは、母さんを含めて洸以外の全員が予想していたらしく、洸だけは首を傾げていた。
「そんなに、いいセッターなんだ。耀は……負けないように頑張らないと、ポジション取られそうだね」
洸は心配そうにしているが、俺からしてみれば、愁が居ない今の日本は、耀が一番のセッターだと思っている。
愁に教わっておいて、日本一じゃないとか有り得ないよね。俺なんか、二段トス教えてって言っても、もう十分ってしか言われないし。教えてもらえるの羨ましいのに。
「凛くん、なんか不満そうだけど、俺は凛くんには教えないよ。というか本当に教える事なんてないし。凛くんは信じてないみたいだけどさ」
「うっ……なんでバレてるの。俺は愁に教えてほしいだけなのに……もっと、愁みたいに綺麗で打ちやすいトスあげたい」
『十分打ちやすいで』
ゼンとゼルは、そんな事言ってくれるけどさ……なんか少し回転あるのが気にくわないんだよ。下手したらドリブルとられそうじゃんか。
俺の不満なんてお構いなしに、ゼンは俺の口におにぎりを入れてきて、ゼルはペットボトルを持って、俺に水を飲ませる為に待機している。母さんは、この状況が慣れたのか、何も言わずに細かくリストアップしていて、洸と愁もビデオの確認や、選手の素行など見ている。
おかしいよね……何で俺だけ、おにぎり食べさせられてるの!?
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