追放されたクズ勇者の死に戻り ~「オマエはクビだ」からやり直したオレは、破滅フラグを折りまくる~

テツみン

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プロローグ クズ勇者、死に戻る

その二

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「オマエはクビだ」

 いつもの酒場で、オレはパーティの役立たず、運び屋のマルタを解雇した。

「――わかった。長い間ありがとう。グエル、必ず魔王を倒してね。それじゃ」
 アイツはそう言って、席を立つ。

「ハ、ハ、ハ! あたり前だろ? オレを誰だと思っている? 勇者グエル様だぞ!」

 大笑いしたのを覚えている。オレだけでない、酒場にいた全員が笑っていた。マルタが店を出ていっても、しばらくは笑っていたと思う。
 しかし、オレの人生はそこで大きく歯車が狂ってしまった――もちろん、その時点ではまったく気づいていなかったのだが――

 役立たずの運び屋をクビにしたオレたち勇者パーティは、次の目的地、S級ダンジョンの『ファーナンド遺跡』へ向かった。魔王討伐に必要な三種の神器のひとつ、『神書アスタリアズノート』を手に入れるためだ。

 最初はチカラづくで勝ち進んでいたオレたち。しかし、何でもないと思っていた中層で最恐クラスのアンデット、リッチと戦うハメになる。
 リッチの情報など持っていなかったオレたちは防戦一方となった。挙句の果てに仲間の治癒士、ロゼルを失う。そのまま神書を手に入れることもできず、オレたちは撤退した。

 王都に帰ると、さっそく国の偉いヤツらや冒険者ギルドから失敗の責任を追及される。そんなことが数日続くと、さすがに嫌気がさした。
 オレは何もかも放り投げ、酒と女に入り浸る。
 ダンジョン攻略失敗から一ヵ月後、オレは王宮への出頭を命じられた。

「グエルから勇者の称号をはく奪する。これをもって、勇者パーティは解散。また、グエルとフィリシア殿下との間に交わされた婚約も破棄する」

 国王と王女のいる前で、そう言い渡された。まあ、そうなることは予想していたが――

 オレとウィルハース王国の王女、フィリシア殿下は婚約していた。勇者として魔王を討伐した暁には、オレは彼女と結婚し、王位に就くはずだったのである。
 しかし、三種の神器獲得に失敗したオレに、もはやその権利もなかった。

 オレはフィリシアを見た。オレのことを慕ってくれていた彼女なら、婚約破棄のことをきっと悲しんでいるであろう――そう思ったからだ。しかし――

「おぞましい顔をこちらに向けないで! この俗物!」

 そのような罵声が彼女の口から出てきた。鈴を鳴らしたような声、美しい顔、上品で洗礼された容姿の彼女から発せられた言葉とは思えなかった。

「私は前々から知っていたのです。私と婚約していたにも関わらず、アナタが魔導士ニグレアと関係をもっていたことを――」

 ニグレアは勇者パーティで攻撃魔法担当をしている魔女である。いや、だったと言うべきか――
 フィリシアの言う通り、オレは彼女と婚約していた身でありながら、ニグレアとの肉体関係を続けていた。そうか、フィリシアは知っていたのか――何の言い訳もできない。

「エオリア、その男を外へ追い出して!」

フィリシアが命令すると、純白の軍服を着た女騎士が「かしこまりました」と無機質に応える。そして、オレの腕を手荒に掴むと、まるでゴミを捨てるかのように王宮から追い出した。

オレはそのまま行きつけの酒屋に入る。酒以外に興味を示すモノがなかったからだ。そこにニグレアがやって来た。

「ニグレア――どうやら、こうしてオレのことを心配してくれるのはオマエだけになったようだな」

 すると彼女は呆れた顔を見せる。
「はあ? 心配? 誰がアナタなんかを? こんなクズでも仲間だったからね。別れの挨拶くらいはしておこうと思っただけよ」

 別れの挨拶?

「――もう、オレを愛していないのか?」そうたずねると、彼女は「はあ」とため息をつく。
「私のオナカには、クローゼの赤ちゃんがいるの」そう言って、自分のオナカを撫でていた。

「――えっ?」

 クローゼとは勇者パーティのタンク役だった剣士だ。無口で無骨な男だったが――
 なんだ、愛した女も仲間だった男に寝取られていたのか――ハ、ハ、ハ。みっともない人生だな。笑うしかない。

 ニグレアと別れてからも飲み続けたオレは、朝、目覚めると王都の城門の外に倒れていた。下着以外、身ぐるみ剥がされた状態で――
 勇者だったオレが、どうしてここまで羞恥しゅうちな目にさらされなければならない?

 憎い――パーティの仲間も、フィリシアも――誰もが憎い。そして、マルタが憎い。アイツをクビにしてから、オレは全てを失ってしまったのだ。

 その時、耳元でささやく声が聞こえた。

『そうですか、みんな憎いですか――そうでしょう。勇者であるはずのキサマを人間は愚かにもないがしろにしたのですものね。なら、復讐すればイイのです。私がチカラを与えましょう』

 次の瞬間、自分に凄まじいチカラが湧いてくるのを感じた。そして、なんとも言えない激しい感情も――今から思えば、あの囁きは魔族だったのだろう。そいつはオレを魔人化したのだ。

 気づくと、オレは王都で暴れ回っていた。女、子供もかまわず、目に入った人間を殴り殺していた。

 気分がイイ――すべてを壊していくのが爽快だった。そういう感情だけが記憶にある。

 すでに理性は壊れていた。快楽のためだけに暴れていたオレの前に立ちふさがったのは、オレがクビにしたマルタだった。相変わらずチビだったが、黒ローブを纏ったその立ち姿は勇敢だった。もはや、オレの知っているマルタではない。

「グエル、ゴメン!」そう叫んで、ヤツは何かの液体をオレにぶちまける。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 激しい痛みに耐えきれず、オレは叫び続ける。気がついたら、人間のカラダに戻っていた。魔力もスキルも失い、オレはただの無力な人間となっていたのだ。

 マルタはあれから錬金術師のスキルを手に入れていたらしい。オレに浴びせた液体は錬金術で製造された魔力封じの劇薬みたいなモノだったのだろう。
 命だけは奪われなかったが、オレは国外追放となった。
 廃人と化してあてもなく彷徨さまよっているところを山賊に捕まる。そして奴隷商人に売られ、帝国に渡った。

 それから、奴隷という屈辱を受けたまま生きながらえてきたオレは今、こうして魔族の侵攻に遭遇している。
 オレの飼主は殺され、オレ自身も魔族の兵に囲まれていた。

 そうか、オレもついに死ぬんだな。

「グエル――?」
 そんな声が聞こえた。知っている声だった。見上げると、漆黒のローブにドクロの仮面を被った人物が立っていた。
 その魔力量たるや、カラダから溢れ出るのが肉眼でも見えるほどである。
 ただの魔族ではないことはすぐにわかった。将官クラスの大物であろうことはその気配だけで感じ取れる。だけど、どうしてオレの名前を――?

 すると、その人物は仮面を外した。オレは絶句する。かろうじて出てきた言葉が――

「マルタ――なのか?」
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