極め道９１７１

街に出る

ごめんな

いつも 何も言わず、黙って街に送り出してくれていたお前。 
たまにふて腐れ、俺のこと見送らなかったなぁ。
マンションのバルコニーから手を振るお前。今日も頑張ろうと思って出掛けたよ。
なのにお前は気分が悪いとバルコニーに出てこない。 
全く、お前は子供だな。
俺はもっと子供だがな。
俺もよ、こんなだからお前には本当に迷惑ばっかり掛けて。
毎日、お前の
「行ってらっしゃい。」 ありがとな。  
俺も男だからよ、
外に出てなんぼなんだよ。 
お前ならわかるだろ。
俺の女なんだから。
まさか、こんな事になるなんて。 
本当にごめんな。
こんな俺に、ずっと一緒に生きて生きたいなんて。
ずっと一緒いた男が居たのに、俺のところに来て。
幸せに出来ず、苦労ばかりかけたな。 
心が綺麗なお前は、俺と居て良かったのか。 
俺はヤクザしか出来ないんだよ。 
訳わからない事ばかりする俺だけど、いつも、いつも、側にいてくれたな。
ありがとな。 
お前が病院に来れたのは、あの事故から4ヶ月後。
変わり果てた俺を見て、お前は何を思ったのか。 
俺は一生懸命、口を動かそうとするが、思うようにいかない。身体も思うように動かない。
お前に伝えたい事、沢山あるのにな。
お前に「もう少し、私のいう事を聞いておけば良かったでしょ。」と言われた時、素直に頷けたがな。
でもよ、俺は元気になったらまだ ヤクザやりたいんだよ。 
６０まで、ヤクザやるって言っただろ。
お前は何度も、何度も、
後５年しかないんだから、早く起き上がらないとって。
わかってるよ。  
俺はヤクザしか出来ないのもんな。
こんな俺を、誰も褒めてくれないのに 頑張ってきたんだね…って。
偉いね。よく何十年も頑張ったねって。
俺を泣かすなよ。  
バカだな。涙が出てくるだろ。
誰も褒めてくれなかったからよ。 
でも、お前は褒めてくれたな。
俺も、お前と死ぬまで生きて行こうと決めたからよ、お前に一度だけ言ったんだよ。 
女にそんな事言ったことないから、恥ずかしかったよ。 
赤面している俺、ずっと見ていたな。 
恥ずかしいだろ。 
俺は今、生きるのに必死だ。
意識もたまに遠くに行ってしまう。 
お前はよく、
「あなた。遠くに行かないで」って。
無理に鉛筆握らせたり、口を動かそうとさせたりして。
やる事が俺と一緒で、宇宙人だからよ。 
随分と元気付けて貰ったよな。
本当にありがとうな。
今では殆ど、会社の人間も来ない。 
これが現実なんだな。
元気な時、俺もよく言ってたもんな。 
身体が動かなくなったら、ヤクザはできねぇって。 
会いたい奴も沢山いるが、こんな俺は
見せたくないんだよ。
俺もよ、横浜でつっぱって生きてきたからよ。
意地があるだろ。 
お前ならわかってくれるよな。
事故の時の話はしないよ。 
お前が問いかけてたけど、俺は何も言わないよ。 
男だからな。 
いつも言っていたが、何もしてやれなかったな。 
前にも何度も言ったが、もっと早くお前を探せば良かった。 
そしたらもっと、お前にわがまま言って甘えられただろ。   
お前は迷惑かもしれないがな。
俺ばっかり、「愛してる」ってお前に聞いて。 
お前が離れるんじゃないかと、いつも不安だった。 
普通、逆だろ。  
俺に言わせるな。 
もう、あのマンションには居ないんだな。  
俺はどこに帰ればいいんだ。 
帰る場所はお前のところだろ。  
お前に会いたいが、今は我慢する。 
元気になって、お前に会いに行く。 
今の俺は 問いかけにも答えられなくなってきている。 
根性だけは 誰にも負けなかったのにな。
情けない俺だよ。
こんな俺を愛してくれてありがとな。
俺はこのまま、静かに終わるのか。
３年4ヶ月もベッドの上。
俺はもう、だめなのか。教えてくれ。
肝硬変と言われて今年で５年だ。
医者からあと5年しか身体がもたないと言われた年になる。 
俺は生きてるのか。 
教えてくれよ。